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「え?アナスタシアが来ていない?」

「はい……昨日の事が気になって、私達もアナスタシアの部屋を尋ねたりしたのですが、朝食も取りに来なかったようで……」

 私が授業が始まる前にアナスタシアの教室を訪ねると、一年生の女子達がオロオロとしておりました。
 嫌な予感がします。

「分かりました、私が見て参りますわ」

 学園から寮はそれほど遠い距離ではありません。教師の方に断りを入れておけば良いでしょう。
 許可をいただき、足早に寮へ向かおうとすると、

「あら、貧乏同士仲良くやっていらっしゃるのね?田舎者同士馬があってよろしゅうございましたわねー!」

 大きな声で、私に話しかけているつもりなのはパルスェット・ヘザー侯爵令嬢です。何故、そんな大声で話すのでしょうか?下品です。そして彼女の後ろの令嬢達もそうだそうだと囃し立てます。とても下品で、相手をしていられません。

「何よ!無視するの?!」

 その通りです。それにしても彼女はアナスタシアが婚約者になる前は、お城であの侯爵夫人の講義を受けていたはずなのに、どうしてああなのでしょうか?不思議でなりません。

「無視するんじゃないわよ!この芋女!!」

 パルスェット様は私を玄関まで追いかけて来て、事もあろうに履いていた靴を投げつけて来ました!

 え?!

 びっくりして固まってしまった私の顔に向かって靴が飛んで来ます。

「きゃ……!」

 衝撃を覚悟して目を閉じたのですが、靴は私に当たらなかったようです。うっすら目を開けると、目の前にはだれか立っていて、靴を片手で持っています。

「大丈夫ですか?リンデール様」

 そう、優しく笑う人は

「御者さん?」

 いつも私とアナスタシアをお城まで連れて行ってくれて、寮まで送ってくれる御者さんでした。

「間に合ってよかったです。……しかし、靴、ですね」

 ちらりとヘザー侯爵令嬢を見ます。彼女は靴を投げたポーズのまま固まっています……怖いを通り越して何をしたいのか分かりません。

「そ、そんなことより、何かお城の方で御用だったのでしょうか?私は今から寮に戻る所なのですが」

 御者さんは軽く頷いてから、靴をパルスェット様にお渡ししました。

「靴は投げるものではありませんよ」

 と、若干の皮肉と侮蔑を込めて。

「さあ、リンデール様。私もご一緒しますので馬車にお乗りください。一緒に寮に参りましょう」

「ありがとうございます、御者さん」

 頼りになる味方が出来て、私は急いでアナスタシアの部屋に向かったのです。


 
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