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「パルスェット様が学園をおやめになる?」

 アナスタシアが聞いた噂だった。

「ええ、どうやらサティナ公爵に嫁がれるとかで、公爵側のご意向で学園は通う必要はないと……」

「サティナ公爵ってもう50近いわよね……」

「ええ、でもそう言う事らしいですわ」

 最後の挨拶と荷物を取りに来るのだと言う。アナスタシアは少し気の毒に感じたが、何かかけるべき言葉は無い。

「きっと、私の顔も見たくないはずだわ」

 私も会いたくないし……と、絶対に会わないであろうスチュアートが設置した区域に足を伸ばした。


 その時ちょうどルイフトもアナスタシアを探していた。アナスタシアに自分の本気が伝わっていないと気づいてはいた。
 
「はっきり言わないと駄目だ!」

 自分を奮い立たせて、ルイフトはアナスタシアを探す。

「ん?」

 自分とスチュアート、アナスタシアとリンデールしか入れない区画に誰かいた。

「あれは……救護室の……?」

 トーマス・ギルムがキョロキョロとあたりを見回している。

「あいつ、クビになったんじゃ……?」

 学園の救護室職員のくせに、生徒が怪我をしたのに追い払ったのだ。職務怠慢で学園から解雇されたはずなのに。

「……!あいつ、確かヘザー家の!」

 ルイフトはトーマスに向かって走り出した。

「久しぶりね、アナスタシア・ローレット」

「パ、パルスェット・ヘザー様……何故、ここに」

 アナスタシアの前にパルスェットが立っていた。

「あなたのせいよ、わたしが学園に通えなくなったのも、きむずかしい公爵に嫁がねばならないのも、ルイフト様からすてられるのも、お父様から叱られるのも」

「ひ……」

 尋常でない様子に、アナスタシアは一歩、また一歩と後ずさる。

「あなたが、いるから」

 パルスェットは持っていたカバンからナイフを取り出した。

「あなたが、いなくなれば、ぜんぶ、ぜんぶ元通りなのだわ」

「そ、そんな事あるはずが」

「いいえ!あなたさえいなければ、ルイフト様は私の手をとってくださるわ!!」

 パルスェットの細腕が渾身の力で振り上げられた。

「死んでちょうだい!アナスタシア・ローレットっ!」

「いやーーー!助けて!ルイフト様!」

「アナスタシアっ!」


「ひぃ!」

ずぶり、とナイフが肉に差し込まれる感覚を両手に味わって、パルスェットは短く悲鳴を上げた。

「アナスタシア、怪我は」

「ど、どこも痛くありません……っ!ルイフト様!ルイフト様!!誰か!誰かーーー!」

 パルスェットのナイフはルイフトの腹に刺さっていた。

「は、はは。咄嗟になると上手くいなせないもの、だな。格好悪い」

「喋らないで!ルイフト様!」

 警備員がすぐさま駆けつける。

「ルイフト様が怪我を!早く、早くお医者様を!」

 アナスタシアは素早くハンカチでルイフトの傷を押さえた。ナイフは刺さったままだが抜くのは危険と判断したのだ。

「え、わた、わたし?なにを……?え?」

「お嬢様!!」

 呆然と両手を見つめるパルスェットと、パルスェットを逃がそうとするトーマス。しかし警備員は二人を素早く確保する。

「王族に刃を振るうとは!何という!」

「ルイフト様!」

 学園は大騒ぎになった。
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