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14 このくらいで勘弁してあげます
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アルカンジェルの周りは一気に華やかになってきた。元の美少女に戻ったアルカンジェル。彼女にすっかり優しくなった兄。素晴らしい友人たちに囲まれて、控えめに笑う。
「やっぱりアルカンジェル・ヴェルデ嬢は可愛らしいな」
「以前のツンケンしたのと違って……今の方がいい」
「もともとアルカンジェル様はお可愛らしかったわ!」
比例して寂しくなっていくのはマリリーとリース王子の周りだ。
「リース様あ」
「どうしたんだい?マリリー。私がいるだろう?」
「そ、そうなんですけどぉ……」
双子のや(殺)ることリストに名前が挙がっている人物……次は……。
「妹を修道院に送ってそれで終わったと思ってるなら大間違いよ」
ヘルマー・リンツは背筋に冷たい物が走り抜けて大きく身を震わせた。
ヘルマー・リンツの父親、リンツ伯爵は財務官だ。可もなく不可もなく、長い物には巻かれる体質。仕事も出来るわけでも出来ない訳でもない。
「さあ、今日はもうしまいにしよう」
そんな上長の声にホッと一息つき立ち上がる。
チャリーン。一枚の硬貨が落ちて床に転がった。
「おや、リンツ卿。銀貨が」
「おや?昼間のお釣りでしょうか?」
リンツ伯爵はその銀貨をポケットに入れて持ち帰った。
「リンツ卿、実は……部署の雑費の会計が合わなくて……」
お金を扱う財務室で会計が合わないのは些か恰好が付かない。
「いくら合わないんだい?」
「それが……銀貨一枚分です」
「ふむ……あ、もしかして」
ポケットに入れっぱなしだった銀貨を取り出す。
「これは私の物ではなくて部署のお金だったのではないかな?」
「そ、そうでしょうか?」
「きっとそうだよ、すまなかったね。合わなくて苦労したろう?」
「それはもう!」
リンツ伯爵より歳が若い会計は、お辞儀をして、銀貨を受け取って帰った。
「ふむ、金の管理はきちんとせねばな」
チャリーン。また帰りにリンツ伯爵が立ち上がると銀貨が一枚落ちる。
「……」
伯爵はまた部署の金かとそれを置いて帰った。やはり部署の会計は銀貨一枚分足りなく、リンツ伯爵が置いて行った銀貨を足してちょうどピッタリになる。
チャリーン。
チャリーン。
チャリーン。
毎日、毎日。立ち上がるリンツ伯爵から金が落ちる。そして部署のお金がその分だけ足りない。
「わ、私は何もしていない!」
どれだけ言おうがやはり金は落ち、会計は合わない。リンツ伯爵が休めば会計はピッタリと合うのだ。
「わ、私、私は!何も!」
「分かっているとも」
同僚はそう言ってくれる。しかし
チャリーン。
チャリーン。
チャリーン。
毎日、毎日、金は落ち、落ちた金を出せば会計が合う。
チャリーン。
チャリーン。
チャリーン。
「わ、私は!」
「……」
あまりに続きすぎると誰もが不審の目を向けてくる。
チャリーン
「ひ!ヒィイイイ!わ、たしじゃ、私じゃないーーー!」
「ノルド、リンツ伯爵が一家で領地に引っ込むらしい。財務官を辞職したそうだ。あそこの息子と仲が良かっただろう?」
「父上、それは思い出したくもない私の汚点ですよ。まあヘルマーも自分を見直す良い機会を得たんだと思います。……それにしても王宮の財務官達の務める部署に入り込んでしまえるなんて。この国で一番警備が厳しい場所ではなかったですか……?」
「知らん。知りたくもない!」
「あんなの簡単でしたわよ。お嬢様に直接被害を与えて来なかったので、これくらいで勘弁して置いてやります」
と微笑むメイドがいたとか、いないとか。
「やっぱりアルカンジェル・ヴェルデ嬢は可愛らしいな」
「以前のツンケンしたのと違って……今の方がいい」
「もともとアルカンジェル様はお可愛らしかったわ!」
比例して寂しくなっていくのはマリリーとリース王子の周りだ。
「リース様あ」
「どうしたんだい?マリリー。私がいるだろう?」
「そ、そうなんですけどぉ……」
双子のや(殺)ることリストに名前が挙がっている人物……次は……。
「妹を修道院に送ってそれで終わったと思ってるなら大間違いよ」
ヘルマー・リンツは背筋に冷たい物が走り抜けて大きく身を震わせた。
ヘルマー・リンツの父親、リンツ伯爵は財務官だ。可もなく不可もなく、長い物には巻かれる体質。仕事も出来るわけでも出来ない訳でもない。
「さあ、今日はもうしまいにしよう」
そんな上長の声にホッと一息つき立ち上がる。
チャリーン。一枚の硬貨が落ちて床に転がった。
「おや、リンツ卿。銀貨が」
「おや?昼間のお釣りでしょうか?」
リンツ伯爵はその銀貨をポケットに入れて持ち帰った。
「リンツ卿、実は……部署の雑費の会計が合わなくて……」
お金を扱う財務室で会計が合わないのは些か恰好が付かない。
「いくら合わないんだい?」
「それが……銀貨一枚分です」
「ふむ……あ、もしかして」
ポケットに入れっぱなしだった銀貨を取り出す。
「これは私の物ではなくて部署のお金だったのではないかな?」
「そ、そうでしょうか?」
「きっとそうだよ、すまなかったね。合わなくて苦労したろう?」
「それはもう!」
リンツ伯爵より歳が若い会計は、お辞儀をして、銀貨を受け取って帰った。
「ふむ、金の管理はきちんとせねばな」
チャリーン。また帰りにリンツ伯爵が立ち上がると銀貨が一枚落ちる。
「……」
伯爵はまた部署の金かとそれを置いて帰った。やはり部署の会計は銀貨一枚分足りなく、リンツ伯爵が置いて行った銀貨を足してちょうどピッタリになる。
チャリーン。
チャリーン。
チャリーン。
毎日、毎日。立ち上がるリンツ伯爵から金が落ちる。そして部署のお金がその分だけ足りない。
「わ、私は何もしていない!」
どれだけ言おうがやはり金は落ち、会計は合わない。リンツ伯爵が休めば会計はピッタリと合うのだ。
「わ、私、私は!何も!」
「分かっているとも」
同僚はそう言ってくれる。しかし
チャリーン。
チャリーン。
チャリーン。
毎日、毎日、金は落ち、落ちた金を出せば会計が合う。
チャリーン。
チャリーン。
チャリーン。
「わ、私は!」
「……」
あまりに続きすぎると誰もが不審の目を向けてくる。
チャリーン
「ひ!ヒィイイイ!わ、たしじゃ、私じゃないーーー!」
「ノルド、リンツ伯爵が一家で領地に引っ込むらしい。財務官を辞職したそうだ。あそこの息子と仲が良かっただろう?」
「父上、それは思い出したくもない私の汚点ですよ。まあヘルマーも自分を見直す良い機会を得たんだと思います。……それにしても王宮の財務官達の務める部署に入り込んでしまえるなんて。この国で一番警備が厳しい場所ではなかったですか……?」
「知らん。知りたくもない!」
「あんなの簡単でしたわよ。お嬢様に直接被害を与えて来なかったので、これくらいで勘弁して置いてやります」
と微笑むメイドがいたとか、いないとか。
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