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3 直して高く売って何が悪い?
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「拒否権はないが、これから隷属の処置をする。これをするとお前は絶対に俺に逆らえなくなる。そしてこの女のに売られる、良いな?」
良いも悪いものそれしかねぇんだけどな!リンネが諦めたような、それでも何かに縋るような顔で俺をみているが、知らん、俺はお前を少しでも高く売る。
「じっとしてろよー」
顔に手を翳し、集中する。呪文なんかは要らない。ただ、想像すれば良いと言われ、やったら出来た。
目を閉じて、体に思い出させる。そこに長い耳が二本あった頃の記憶、傷だらけで、ボコボコになり、変色した肌が元の色だった頃の記憶。
折れたままくっついてしまった骨が折れる前に真っ直ぐで、よく動いた頃の記憶。
それに俺の力をちょいちょい混ぜて行く。
「ふわぁ~相変わらず綺麗ねー」
集中している俺にはわからないんだが、薄い色の光が玉のようにふわふわと立ち上っているらしい。
濃くて汚い物は下に落ち、薄い緑やピンクの玉が体に吸い込まれて行くんだと。
「良し、こんなもんだろ。20万追加な?」
「相変わらず良い腕ね!リンネ、どう?腕は動くかしら?耳は聞こえる?」
「へ?」
これ、受ける側も相当良い気持ちらしく、リンネはぽけーっとしていた。リンダに声をかけられて
「みみ?ぼくのみみ……」
両手を頭の上に伸ばして、手触りの良さそうな真っ白な2本の耳を触っている。
「耳が!僕の耳が2本ある!!」
ぴょん、と頭の上から揃いの耳が並んで生えている。長さも丁度いい、兎の獣人らしい耳だ。
「うん!可愛いわねぇ!やっぱりこれよねー!兎獣人最高!」
リンダはリンネをぎゅっと抱き寄せる頭を撫でまくった。きちんと生えそろった耳がぴこぴこと動いている。
「あの、あの!どうして!」
「あー?壊れたもんを安く仕入れて直して高く売って何が悪いんだ??客に売るのに壊れてるもの売ったら駄目だろう?」
俺はあの国で修理が大好きな男だった。
俺には気づいたら母親はいなくて父親だけだ。腹が減って死にそうになった事はなかったが、愛情という面では飢え続けていたと思う。
父親は仕事人間で、一緒に遊んだ事はほとんどない。欲しいものが有ればなんでも買ってくれた。そう、物だけは。
だから俺は常に新しい物に囲まれていた。でも俺が欲したのはそういう物じゃ無かった。
俺が心惹かれたのは古い物だった。俺以外の別の人が使ってきた物。大事にされた物だったり、適当に扱われた物だったり。モノに宿る人の温かさ、冷たさ。親からもらえなかった色々なものをモノから受け取ったのだ。
淡々と大きくなり、学生は終わり、社会人になり。仕事は父親のコネで一流企業に配属された。父親はバリバリ働いていて、相変わらずの仕事人間。休みというものは存在しない。俺との会話も存在しない。
俺は、仕事は適度にこなし、休日は全て古物と共に過ごした。壊れた時計を直し、穴の開いた服を直したり、破れをどう魅せるか考えたり。汚い本の装丁を直してみたり……。楽しかった、古い物に囲まれて、それを直している時だけ生きてる気がした。
そしてあっけなく死んでしまった。気が付かなかったが病気だったらしい。短期間の入院であっけなく。父親は一度も見舞いには来なかった。俺がいなくなったから、自由に仕事が出来るようになったんじゃないかな?
「異世界に転生させてあげますよ!君の好きな古い物がたくさんある世界です。好きに生きなさい」
神様はそう言って俺をこの世界に落として、俺はこの世界で母親を初めて知った。父親はもう要らないと思ったら最初からいなかった。
「ふ、ふふふ、あの人そっくりね……名前はそう、そうね、リーヤよ。私の可愛いリーヤ。私だけの可愛い、リーヤ」
一人で俺を産んだ母親は涙を流して俺を抱きしめてくれた。この母親は俺を愛してくれると確信できたし、家族というものを初めて得た気がして、俺もこの母親を愛そうと決めた。
そうしてここで俺は古い物、捨てられる物を直す力を得た。この世界、ヒトの命はとても軽く、使い捨てにされるものも多かった。この世界で一番使い捨てにされているのはヒトだった。俺はそんな古くて壊れたヒトを治す力を得たのだ。
良いも悪いものそれしかねぇんだけどな!リンネが諦めたような、それでも何かに縋るような顔で俺をみているが、知らん、俺はお前を少しでも高く売る。
「じっとしてろよー」
顔に手を翳し、集中する。呪文なんかは要らない。ただ、想像すれば良いと言われ、やったら出来た。
目を閉じて、体に思い出させる。そこに長い耳が二本あった頃の記憶、傷だらけで、ボコボコになり、変色した肌が元の色だった頃の記憶。
折れたままくっついてしまった骨が折れる前に真っ直ぐで、よく動いた頃の記憶。
それに俺の力をちょいちょい混ぜて行く。
「ふわぁ~相変わらず綺麗ねー」
集中している俺にはわからないんだが、薄い色の光が玉のようにふわふわと立ち上っているらしい。
濃くて汚い物は下に落ち、薄い緑やピンクの玉が体に吸い込まれて行くんだと。
「良し、こんなもんだろ。20万追加な?」
「相変わらず良い腕ね!リンネ、どう?腕は動くかしら?耳は聞こえる?」
「へ?」
これ、受ける側も相当良い気持ちらしく、リンネはぽけーっとしていた。リンダに声をかけられて
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両手を頭の上に伸ばして、手触りの良さそうな真っ白な2本の耳を触っている。
「耳が!僕の耳が2本ある!!」
ぴょん、と頭の上から揃いの耳が並んで生えている。長さも丁度いい、兎の獣人らしい耳だ。
「うん!可愛いわねぇ!やっぱりこれよねー!兎獣人最高!」
リンダはリンネをぎゅっと抱き寄せる頭を撫でまくった。きちんと生えそろった耳がぴこぴこと動いている。
「あの、あの!どうして!」
「あー?壊れたもんを安く仕入れて直して高く売って何が悪いんだ??客に売るのに壊れてるもの売ったら駄目だろう?」
俺はあの国で修理が大好きな男だった。
俺には気づいたら母親はいなくて父親だけだ。腹が減って死にそうになった事はなかったが、愛情という面では飢え続けていたと思う。
父親は仕事人間で、一緒に遊んだ事はほとんどない。欲しいものが有ればなんでも買ってくれた。そう、物だけは。
だから俺は常に新しい物に囲まれていた。でも俺が欲したのはそういう物じゃ無かった。
俺が心惹かれたのは古い物だった。俺以外の別の人が使ってきた物。大事にされた物だったり、適当に扱われた物だったり。モノに宿る人の温かさ、冷たさ。親からもらえなかった色々なものをモノから受け取ったのだ。
淡々と大きくなり、学生は終わり、社会人になり。仕事は父親のコネで一流企業に配属された。父親はバリバリ働いていて、相変わらずの仕事人間。休みというものは存在しない。俺との会話も存在しない。
俺は、仕事は適度にこなし、休日は全て古物と共に過ごした。壊れた時計を直し、穴の開いた服を直したり、破れをどう魅せるか考えたり。汚い本の装丁を直してみたり……。楽しかった、古い物に囲まれて、それを直している時だけ生きてる気がした。
そしてあっけなく死んでしまった。気が付かなかったが病気だったらしい。短期間の入院であっけなく。父親は一度も見舞いには来なかった。俺がいなくなったから、自由に仕事が出来るようになったんじゃないかな?
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一人で俺を産んだ母親は涙を流して俺を抱きしめてくれた。この母親は俺を愛してくれると確信できたし、家族というものを初めて得た気がして、俺もこの母親を愛そうと決めた。
そうしてここで俺は古い物、捨てられる物を直す力を得た。この世界、ヒトの命はとても軽く、使い捨てにされるものも多かった。この世界で一番使い捨てにされているのはヒトだった。俺はそんな古くて壊れたヒトを治す力を得たのだ。
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