【完結】悪役令息の祖父のワシが神子をハメたら殿下がおかしくなった。溺愛とかジジィには必要ないです、勘弁してくだされ

番外編

30 樽とダンジョンと俺2

「ぎゃああああああ！そこのお前、助けろ！！」

「自分で何とかしてくださいよ。それにただのスライムじゃないですか。その手に持っている剣は飾り物ですかァ？」

「わ、私が、私がスライムなど倒せる訳がなかろう！！」

「じゃあスライムのエサになってくださいね～。あ、ほら靴が溶けてきましたよ～頑張って～」

「ウギャアアアアア！！」

　樽部屋に行きちょこっと小突いたら、樽はあっさり気を失ったので脂肪がいっぱいついた体をうんしょと肩に担ぎダンジョンまで連れて行こうと思った。そしたら「乗せてってやるぜ！」とバンドール家の御者がウィンクしてきたのでぽいっと積み込み、いつもの魔王が居たダンジョンにやってきたのだ。

「そいつが無様に逃げ回る所を見たい！」

「悪趣味だなぁ～。カレリオ様にはバレないようにしろよ。あの人素直だから」

「アルフォンスの検閲で弾かれるし！」

　なるほど、その検閲官のセキュリティ能力は高そうだな。御者は暫くニヤニヤしながら見ていたが「飽きた。適当な時間に迎えに来てやるよ」と帰って行ってしまった。まあおっさんが鼻水垂らしながら叫んで逃げ回るのを見ても楽しくはないよなあ。

　俺がぼーっと転がる樽を見ているといつの間にかスライムだらけになっている。顔が出てるから息も出来るし大丈夫だろ。

「助けろ、助けてーーーー！」

「何言ってるんですか。大旦那様だって1Ｆのボススライムを一人で倒せるんですよ」

「ち、父上が！？嘘だろう！？」

　まあ超絶過保護にレベルを上げていたけれどね……。普通は今、樽が身にまとっている雑魚スライムを地道に地道に倒して経験値を積むんだけど、あの人は殿下に抱っこされていただけだったなあ。

「ワ、ワシだってやれば出来るんじゃああああ！」

　と、奮起してボスに向って行って、小鹿みたいにプルプルしながら倒したけれどもう絶対やらないとベソをかいていたっけ。

「そんな事より、早くスライムを剥がさないと食酸で火傷しますよースライムの栄養になっちゃいますよ～。旦那様おいしそうだし」

「ぎゃあああああああ！」

　旦那様には一人で頑張って貰おうっと。俺、樽侯爵を抱っこしながら歩く趣味ないもんね。

「がんばれー服が溶けてきましたよー」

「ぎゃあああああああ！」

　あの人は叫ぶ樽だった。

「ダンジョン入って10歩も進んでないのになあ」

　そんなにスライムってこのダンジョンに住んでたっけ？ってくらいの数に囲まれて叫んでいる旦那様。大声を出すから気づかれて寄ってきているのか魔物に好かれやすい体質なのか。顔を塞ごうとするスライムは切り捨てて、御者が迎えに来るまで遊んでもらっていた。

「い、痛い、痛いよう～～～」

「そりゃスライムに溶かされたら痛いに決まってますって」

　でも酷い怪我は一つもない。ちょこっとヒールをかければ治る感じの、平民なら「舐めときゃ治る」って言われるレベルだし。でも油断するとすぐにスライムまみれになっている……うーん、変な人だ。


「カナンが魔物に好かれやすい？知らんなぁ。ワシ自身魔物が出る場所に行ったのはこの前の魔王ダンジョンツアーが初めてじゃ。カナンを連れて危ない場所に行ったことなどないぞ」

　大旦那様もそんなことを言ってたし、カレリオ様も同じような感じ。まあ腕が立たない貴族は魔物が出る場所に行ってレベルを上げるなんてことは確かにしないかぁ？数人残っていた昔からバンドール家にいる人達に聞いても「わからない」だったから、ホント良く分からないけど。

「ぎにゃああああああ！」

「……」

　旦那様が歩けば魔物に囲まれる。ダンジョンに点在している魔物達が全部この一ヵ所に集まってしまったんじゃないかと思う位、皆寄ってくる。す、好きなの？？？

「頼む！助けて、助けてくれ！！リドリー！！金なら払う！」

「旦那様が自由になる金なんて100ゴールドもないでしょ？どうやって払うんですかぁ？」

「うわあああああああ！！」

　今日も魔物達から大歓迎を受ける旦那様。なんだかボス部屋にいるボスまで扉の傍まで寄って来て中からカリカリひっかいて旦那様が来るのをソワソワ待ってる気がするんだよなあ。

　うーん？そういえばなんか美味しそうな匂いがする？俺もお腹減ってんのかな？？旦那様って齧ったら美味しいのかな？？？