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 重い部屋の扉が開く音がする。遠くでしゃがれた女のうめき声がした。
「殺してやる、殺してやる、殺してやる……!」
 呪詛のような怨念の籠もった言葉を呟く女が階段を下りて来る。ペンダントの明かりで照らされた女の顔は、顔面の皮膚が半分焼けただれていた。
「!」
 ジュンは驚き目を見開く。あまりの恐ろしさに、化け物でもやって来たのかと思った。だが、それはイネスだった。
 牢屋を開けてイネスはジュンの体の上に跨る。
「おまえのせいだ! おまえがいなければ、全て上手くいったのに!!!」
 首を締められる。
「っ!」
 とても女の力とは思えない強い力が首にかかる。イネスの体から黒いものがにじみ出ている。彼女の魔力が暴走している。
「アル…ビ…オルッ……!」
 首の骨をへし折られるような痛みを受けながら、ジュンは掠れた声で愛する人の名前を呼んだ。
 赤い炎が視界の端から飛び込んで来て、イネスの体を壁に吹き飛ばした。
「げほっ! げほっ!!!」
 激しく咳が出た。あと一瞬遅かったら、首の骨が砕かれて死んでいただろう。
「イネス! 余はおまえをけして許さない!!」
 牢の外に、赤い炎を体にまとわせたアルビオルが立っていた。
「はなせ!!!」
 赤い炎が、彼女の体にまとわりついている。イネスは激しく暴れているが、アルビオルはそれを抑え込む。イネスから滲み出す黒い魔術も、アルビオルには効いていないようだった。
「捕まえろ!」
 突然、ガシャンガシャンと鎧を鳴らして兵士達が牢屋になだれ込んで来る。兵士達はアルビオルの押さえ込んでいるイネスに、魔力封じの枷を嵌めて、手足を鎖でしばった。
「ぐっ……」
 猿ぐつわを噛まされ、布を被せられたイネスは兵士達の手によって外に運び出された。
 残されたジュンは呆然としながら、その光景を見ていた。兵士達が去った後、アルビオルがジュンの側にやって来る。
「大丈夫か、ジュン」
 アルビオルの炎の魔法は消えていたが、彼自身が暗闇の中で明るく光っていた。
「あっ……」
 名前を呼ぼうと口を開いたが、うまく声が出なかった。
「きっと、首を締められた事で喉をやられたのでしょう」
 聞き覚えのある声に、ジュンは驚く。顔をあげてそちらを見ると、師匠のタラーが立っていた。
「!」
「無理に喋ろうとしなくて良い。今は体を休めさない。おまえが無事で良かった」
 タラーがジュンに触れて、回復魔法をかけてくれた。長い監禁生活の中で疲れた体から、痛みが引いていく。ジュンは、眠気を感じて、瞼を閉じた。 
「……すまない……もっと早くにココに来れていれば……」
 アルビオルに抱きしめられる。少年の小さな腕の中は、心底ほっとした。


つづく
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