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三章 二年生 特級魔法使い

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 寝袋はふかふかで意外にも寝心地が良かった。さて、今日から試練の始まりだ!

 クラビスに作って貰った朝ごはんを食べて、遺跡に行く。

「じゃあ、まずはここからだね」

 左の壁の一番手前の部屋に入る。

「はい」

 長い廊下を歩いて行くと、開けた場所に出る。

「へ」

 そこには、大小様々なサイズの宝石の山がそこら中に出来ていた。

「な、なんですかココ!?」

「ここは『装飾部屋』と言って、文字どおり装飾品のある部屋なんだ」

「へ、へーこれ盗まれたりしないんですか」

「盗み目的でこの部屋から宝石を出そうとすると、ペナルティがあるみたいだね。実は僕がこの遺跡に来た時に、部屋の中と外で宝石を抱えた骸骨をいくつか見たよ」

 私は背筋が寒くなる。

「まぁ、盗まなければ大丈夫大丈夫」

 私は部屋の中を見渡す。宝石にまざって、金銀の装飾品も見える。クラビスが中央に置かれた石版の字を読む。

「『汝、力を得たきもの。自身の装飾を手に取れ』。つまり、自分にぴったり合う装飾品を見つけなさいって事だね」

「ぴったり合う……」

「やり方としては、自分の内側とこの部屋に置かれた装飾品達とで響き合うものを探り当てる感じかな」

 私は目を閉じてみる。しかし残念ながら、全く見つからない。

「うーん、探知は技術がいるからね。少しずつ部屋を歩きながら試してみるしか無いかな」

「わかりました」

 返事をしながら、およそ体育館ほどもある部屋の中を見渡した。

「ちなみにこの部屋の装飾品は未来にこの部屋を訪れる人を予知して、一つ一つ用意されたものらしいよ」

「す、凄いですね」

「そんな彼らでも滅びるしかなかったんだから、天災というのは恐ろしいね」

 彼がズボンのすそを上げる。

「ちなみにこれが僕の」

 足首にシンプルな金色の鎖が付いていた。一つだけ白い石が付いている。

「実は一度これに命を助けられてね。これを作った人物は本当によく未来が視えた人だったんだろうね」

「未来予知って、今でも出来る方がいるんですか?」

「いるとも。しかしそれは技術ではなく、才能だ。どこからともなく彼らはその才能を持って現れる」

「未来が視えるってどんな気持ちなんでしょうか」

「……想像もつかないな。憶測でモノを言えば、先が視えるのは大変そうだ。危機を回避すれば、別の危機が発生するだろう。そしたら、どの危機を被るか選ばなければいけない。無数の選択のの中から、自分の未来をカスタマイズしなければいけない。ふむ……大変だな」

「そうですね」  

「それじゃ僕は外に出てるから、困った事があったら呼んでくれ」

 連絡用の四角い装置を渡される。金色の台座に緑の石が付いている。

「ありがとうございます」

「がんばってね」

 クラビスの背を見送って、私は辺りを見渡した。

「よしやろう」

 部屋は広いけど、一つ一つやっていけば大丈夫だ。



 悲しいお知らせがある。端から順々に歩いていったのだが、全部見て回っても自分の装飾品は見つけられなかった。

「なぜ!?」

 何故もなにも見落としたのだ。私は再び部屋の端に行って、装飾品達を見て行く。今度はさっきよりもさらにゆっくりと、丁寧にやった。しかし部屋の半ばまで来ても、全く反応は無かった。

「どうしよう……」

 まさか一日目からこんなに試練が大変だとは。

『全く、才能が無いにもほどがあるな』

 突然、私の後ろから声が聞こえた。

「へ」

 振り向くと、神官風の白い布をまとって装飾品を付けたリザードマンが杖を持って立っていた。声からすると、少女だろうか?

「どなたですか」

『私は、この神殿を守るものだググと呼ぶが良い』

「ググさん…」 

 部屋に人が入って来た気配は全く無かった。

『全く、まったく。おまえは、本当に才能が無いやつだな。なぜ見落とすのだ』

 私は眉を下げる。

「すいません」

『一つ教えてやるが、おまえの探知範囲はおまえが思っている以上に狭いぞ』

「そうなんですか!?」

『そうだな、その足元のブロック一つ分くらいだろう』

 せまっ!

『おまえ、今後困るから探知魔術を練習した方が良いぞ』

「そうします」

『そら、範囲を意識しながらもう一回部屋の端から探して来い』

 私は頷いて、部屋の端から順々に探す。一歩一歩進んで、五歩目で私は自分の魔力と共鳴し合う装飾を見つけた。

「あ」

 私は屈んで、装飾の山の上から一つをつまんだ。

「これだ」

 綺麗な光沢を帯びた白いリボンを私は手に取った。光の角度によっては、赤に見えたり青に見えたりもする。

『見つけたか』

「見つけました」

『全く、我が予知でおまえが一番最初に立ち寄る場所に置いておいたと言うのに、まさかスルーして行くとは思わなかったぞ!』

 お、怒られている。

「すいません」

『まぁ、良い』

 少女は立ち去ろうとする。

「あの、ググさんは幽霊か何かなんでしょうか」

 彼女は振り返る。

『そうだが』

 足まできっちりあるし、全く透けてもいない幽霊だった。

「ずっとここにいるんですか」

『あぁ、そうさ。ここが私の仕事場だからな。用は済んだな、私は帰る』

 今度こそググさんは向こうを向いて消えてしまった。

 私は滑らかな手触りのリボンを、髪に結んで撫でる。

「しまった、お礼言うの忘れてた」

 今度会った時に言わなければ。



 どうにか無事に一つ目の試練を突破した。





つづく
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