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求婚
しおりを挟む今日、彼女に求婚する。
いつもの待ち合わせ場所に向かう足が無意識に速くなる。柄にもなく花束など抱えているので、すれ違う人たちの視線が気になってしまう。
彼女は受けてくれるだろうか。
いや、今回断られても諦めない。
自分には彼女しかいないのだから。
傷痕だらけのこの腕の中で目を覚まして、いつもはにかんで、おはよう、と言ってくれる声を、この先もずっと俺だけのものにしたい。
予想もしない告白で、困らせてしまうかもしれない。だが答えがイエスでもノーでも、彼女なら俺の気持ちは受け入れてくれると思える。
きっと、彼女は驚いた顔をして―――それからゆっくり笑顔になって、いつもの明るい声で、返事をくれる。
店の建ち並ぶ通りを抜けて広場に出る。
控えめな服装の彼女がこちらを見てぱっと笑顔になった。赤みがかった髪に、去年贈った髪飾りが挿されているのを認めて期待が膨らむ。
「おはようアイザック。
こんな時間に呼んでくれるの、珍しいね」
「うん、どうしても、今日会いたくて」
右手に抱えていた花束を徐に差し出す。
彼女は琥珀色の目を細めた。
「くれるの? ありがとう。きれいね。
今日、なにかの日だった?」
うるさいほどの心臓の音が耳の奥に響く。
吸いづらい空気をなんとか肺にためて、この数ヶ月、頭の中で何度も反芻した音を作る。
「ノア、きっと幸せにする。
俺と結婚してほしい」
広場を通りかかった人々の足が止まり、二人に視線が注がれた。
驚いて目を見開いた彼女は、ぱちぱちと瞬きをしてからゆっくりと笑顔になって、いつもの明るい声で言った。
「え、ちょっと何言ってるか分かんない」
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