青眼の烏と帰り待つ羊

鉄永

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3部

教習所で習ったわけじゃないけど、免許は持ってるよ

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「やっぱり後輩は先輩の足になるのが大事な仕事じゃない?」
 そう言って、律日を山間の広い空き地に連れてきたかずさは、ペーパーですらない律日にハンドルを握らせた。
 ちなみに律日とは生の新しい名前である。
 かずさに名前の由来を聞かれ、正直に答えると「小説家にでもなるの?」と鼻で笑っていた。
 曰く、かっこつけたペンネームみたいで腹が立つ、らしい。彼女はかなり理不尽だった。
「どうせ免許センターとか行っても、ほとんど安全の講義だ。行くだけ無駄」
 横から腕を伸ばして「これがウィンカー、これがライト、そんでこれがワイパーだろ」と、戸惑う律日をよそに、理不尽な先輩は雑な運転講座を始める。
「動かしたかったらアクセルを踏む。止めたいならブレーキを踏む。曲げたかったらハンドルを回す。分かった?」
 今更「法に触れる」なんて突っ込みを入れる気は律日には無かったが、ややこしい日本の市街地の中を実地訓練のみでいきなり走らされるのは不安があった。
「標識に詳しくないので、公道に出たとき困ります」
 律日のせめてもの抗議を、かずさは「知りたいならググれば?」と一蹴した。

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