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結章
結章 第三部 第三節
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シゾー・イェスカザについて。
考えることは、ないではない―――少なくとも、子どもの頃には思いつきもしなかったことまで考えるようにはなっている。思えば、本当に子ども心には思いつきすらしなかった。自分が、シゾーと裏切り合うなんてことは。
その事実に逃げ回っていたのは二人ともで、だから、直面せざるを得なくなったのも二人同時だった。三年前になる。あやふやな記憶を手探りすると、必ず指先を刺しにきてくれる……その、針のような、絶望。それは、あの鐘の音色と同質であり同一だ。鐘の音―――現実的にはそれは武装犯罪者のアジトが容赦なく薙ぎ倒されゆく壊落の轟音だったのだろうが……だとしても、あの日から軋轢されるまま崩れゆく世界の慟哭には違いなかった。鐘の音のように―――音響すら鼓膜から失われたとしても、身体の芯に刻みこまれて消えない震え。
三年前、それは臥っていた万年床に現出した。
身長は追い抜かれていた―――肩幅も胸板も体重も靴のサイズですら。喉仏が張り、声色を下げ、丸みの削げた頬まわりの皮膚を毎日の髭剃りで硬くしていた。長く伸ばしたままの髪が煙草臭い。目の使い方となく口の回し方となく、道楽者の中でも女道楽に垢抜けた気配を嗅ぐ。予感どおり、ザーニーイをシヴツェイアと呼び出した。それなのにシゾー・イェスカザだった。裏切られた。
裏切っておいて、彼は逃げようとしなかった。どうあっても傍から離れず、ひたむきに呼びかけ続けた……ザーニーイにも、シヴツェイアにも。だから今では気付くしかない―――彼を裏切り、逃げ続けたのは、自分の方だ。逃げ続けて……こんな最果てまで、やってきてしまった。
だのに、シゾーは、ここにまで来るという。
(そんでも……こうして、ぼやぼやと。情けないな。俺は。いつだって)
床にへたばったまま、キルルが立ち去ってから何をするでもない―――シヴツェイアであることを突き付けられている時間の記憶はいつだって曖昧で、毎月の発作どころか三年前に自殺したことについても実のところ他人事だ。意識が清明になってきてからの自傷他傷の痛痒と傷痕が現実だから受け入れるしかない……そんな程度の日常。生きるか死ぬかといった―――だとしても、日常。子どもの頃には思いつきもしなかった、日常。
イェンラズハ。ジンジルデッデ。シザジアフ。以下、かつての日月もろとも同胞を切り落とした旗司誓<彼に凝立する聖杯>だからこそ、純潔貴族たるネモ族ンルジアッハ家のキアズマが義賊<風青烏>へと変遷を遂げ、エニイージーや騎獣が双頭三肢の青鴉の翼下に加わり、シゾーやゼラと並んで清爽とその御旗を率いた……その霹靂の幾星霜ですら、今は昔―――キルルとの邂逅を遂げ、【血肉の約定】の果てに、霹靂を殺して後継第一階梯を蘇らせても……まだ、これは続く。
だから、日常なので、これだって当然だ。
ドアを開けてこちらの姿を見咎るや否や、つかつかと間合いを詰めてくる両足。
間際まで来た即座、胸倉を締め上げにかかってくる両手。
その手に なすすべもなく床から吊り上げられて、真後ろの壁に思いっきり押し付けられる。勢いよく後ろ頭をぶつけた弾みで頭蓋骨が跳ねて、目から火が出た。それともこの瞬きは、暗くしてもらった室内へ廊下から差し込んできた急な明かりによって齎された倒錯か……どうであれ、ちかちかと星が明滅する視界の、そのど真ん中で―――ドスを利かされた怒声が、しわがれている。
「アンタまたちゃんと食べてませんね」
掴み上げた重さが、武装を抜きにしたところで軽すぎだと判断したらしい。確かめるように、こちらの右の二の腕を片手で握り込んだ直後、もう押し殺しすらせず叱りつけてきた。
「どーせンなこったろうと察しは付いてましたけどうっわ痩せたゼッテエ痩せた! あんたって人はいつだってストレスかかると覿面に食わなくなって酒と煙草に走りやがるんだから! アルコールもケムリも食い物じゃねえって口酸っぱく言ってるでしょう噛まないと呑み込めないものを食い物って言うんですコノヤロウ! 頭領職に落ち着いて一線から退いたのをいいことに、ここぞとばかりに好き放題しやがって! 僕だって副頭領なのに僕にだけ好き嫌いしてないでミウズメも食べなさいって義父さんが! 義父さんが! 僕ばっかり!」
(本当に……こんなにも……続いてしまう……ものなのか……)
詰め寄ってきた足から―――掴みかかってきている両手から、項垂れていた顔を上げる。
やはり、認めるしかない。こうなっては。
「シゾーなんだな」
「たりめーでしょうが。これで俺が僕じゃなかったらアンタこそ誰だってんですか。だから帰りますよ。ほら早く。ちゃんと立つ。シャキッとなさい木偶の坊」
「―――……シゾー・イェスカザ」
彼だった。
旗司誓こそ世を忍ぶ仮の姿と主張せんばかりに、今は小綺麗な服装にぴったりのオールバックへと髪を均して、左耳のピアスまで外している。滾る口気に負けず劣らず怒り狂っている顔つきを除けば、さも育ちのいい若紳士だ。本の虫で、泣き虫で、意地っ張りの見栄っ張りらしく一丁前だと鯱張りたがって、寝小便を隠すのがいつまでも下手糞で……こちらが兄貴分だと言って聞かせなければ弟らしく甘ったれることすら出来ず、寝しなに便所へ送り迎えする口実にさえ事欠くような、手のかかる弟分だ―――だった。はず。なのに。
ちゃんちゃらおかしい。おかしくて可笑しくて堪らない。これはなんだ―――?
(現実だ)
言うまでもない。としても、
「本当に―――なんで、お前なんだろうなあ?」
問いかける……譫言のように。誰にへだ? 神へか? わらえない。
だとしたら、これは譫言だ。楽園は失われた。ならば譫言で構わない。構わなかった―――のに。
シゾーが、こちらを突き放した両手をぱんぱんと打ち払いながら、ぎっと眼差しを研ぎ直して断言し続ける。加速度的に増していく苛々に、語気を沸き立たせながら。
「あーもう、もたもたグズグズぶつくさを湿気らせるとか、危なっかしいまでに即断即決即行動で、いつも無駄にキレッキレしたすばしっこさはどうしたんですか!? あんたのくせして、らしくないことしてんじゃないですってえの!」
「―――らしくない?」
繰り返す。
今度こそ、わらってしまっていた。どうしようもなく……わらえない現実に。ここは王冠城。自分の、お着せにされた衣服に長靴を見おろせば、さらしで押さえ込んでいない乳房が目立たない呼吸を繰り返している―――しゃきり・しゃきりと奏でられていく、長く絢爛な数多の羽の隙間から、それを見るしかない。産まれ落ちたことすら知らずにいた赤ん坊からザーニーイとなり、シヴツェイアと化したのみならず<彼に凝立する聖杯>の霹靂を抹殺し、後継第一階梯らしくア族ルーゼ家に生き返るどころか、いずれは国王陛下にまで召し上げられると言う、この化け物を。果てなく化けゆくものを。
「俺が人間に見えるか?」
投げかける。それを、続ける。
「俺らしいってのは、どんなだ?」
シゾーは―――
鼻を鳴らした。ふん、と。鼻で笑ったのだ。
「本っ当につくづく打ってつけだよな、俺ってやつは。言っとくけど俺は、いつだって、ほったらかしにされたんだからな」
とまあ、ぶっきらぼうに独りごちてくるものの。そうやった前置きでもしないと、やっていられなかったのだろう。
こちらの顎下に右手を掛けると、ぐいっと引き上げて上を向かせる。目の焦点が合っていることを確かめ終えると、彼は……さっと左手で己の左眉から もみあげまでを撫でつけて、あらぬ方向へ流し目を送ってみせた。薄い笑みを溶かした唇を ふっと開いて、勝ち誇ってくる。
「どうだ。この格好」
「は?」
「キマってるだろ?」
そうして、念押しも し終えて。その残響すらも消えて。
極めポーズだったらしい立ち居を瓦解させて、真っ赤にした怒り心頭の渋面に犬歯を剥きながら、シゾーが左手の拳から立てた二本指で、こちらの眉間を軽く突いた。頤へと固められた右手もそのままなので、ぽかんとされるがままになるしかない。
彼なりに噛んで含めるように、ひと言ひと言を―――彼だから、食いしばってきた。
「シゾーのくせしてイメチェンかと、指差して笑え。それが、小っさい頃から、よぉおおおおおぅく知ってるアンタです!」
沈黙。
やにわの、沈黙。
「……………………」
「…………………………………………」
やおらの、沈黙。
「……………………………………」
「…………………………………………………………」
「…………………………………………」
「………………………………………………………………」
にわかにも、ただただ深まりゆく、果てしない沈黙。
その中から―――呼気と吸気の間から、這い出たのは。言葉だ。ただの、声。
「あ―――」
「あ?」
指呼の間から疑問符を返してきたのは、これもまたシゾーだった。それにこたえるでもなく、ひと声は続く。
「あ―――」
ただただ、そう繰り返すうちに、しゃくりあげて泣いた時のような痙攣に臓腑が引っ張られる。特に声帯が、痛むほどに引き攣った。だからこそ、そこに繋がっている肉の管と、そこへ流れ込んでいる血液のざわめきを思い出す。涙液の むずがゆさ。唾液の温み。無味無臭だったそこから―――繋がりを、思い出す。取り戻した。切れていた糸だったと……それが今は分かる。
「あ……あ……」
「あ、が何だってんですか? なんとか言ってくれなさいよコラ。え? シヴツェイア・ザーニーイ・アブフ・ヒルビリ」
「あ……―――」
怒張させた面皮に、怪訝味をもうひと塗りして。こちらと視点を合わせるべく、やや前後の間合いを広げて、下げた両手を膝に中腰になってくるシゾーを目の前に。
呼ばれるならば。シヴツェイア・ザーニーイ・アブフ・ヒルビリ。彼女は―――
「阿呆かコルァアアアァァぁぁア!!」
絶叫するなり、眼下にある側頭めがけて、万力を込めた蹴足を回し込んだ。
「げふっ!?」
ノーガードのところに一撃を食らわされたのだから、これもまた当然だが。シゾーが横ざまにぶっ倒れる。となると、シゾーの真後ろに立ち尽くしていた―――らしいが気付かなかった―――キルルと、目が合った。立ちはだかっていた障害物がなくなったのだから……これもまたどうしようもなく、三メートルほどを挟んで、彼女と見つめ合う。呆然と。
またしても静まり返っていこうとする、その中で―――
「……んあ?」
きょとんと、呻く。
鐘の音がしない。これっぽっちも。頭痛もそうだ。まったく消えている。
その代わりに、がんがんと容赦なくねじ込まれてくるのは……
「痛ってえですね! 何しやがるんですかアンタは! いくらなんでも踵はないでしょ踵をこめかみにはっ!?」
蹴られた左耳あたりを抱えながら、がばっと身を起こして抗議してくるシゾーへと、今度は拳骨から右ストレートをくれてやる。さすがに見切られていたようで、あっさりと小首を傾げる程度の動きで躱されてしまうが。
空振りに終わった右手を持て余すまま、わきわきと結んで開いてをリピートさせつつ、結局は正面に居直ってくれたシゾーへと、しこたま怒鳴り返す。
「ぃやかましい! ド阿呆にしたって弩級だろがクソたれ目! こんなとこまでンっなケチつける為だけにノコノコやって来やがって! そんだけヨダレまみれの薄汚ねぇ寝言ゲロしまくってくれるほど夢遊病こじらせたイカレ患者の寝ぼけ半分ブッ飛ばすにゃ、涙ぐむくれぇの食らわせるくらいでナンボのモンてなカンフル剤だ! よお、お目覚めか! お目目パッチリあんよは上手か! イイ夢だったかションベンタレが!」
「お山の天辺にしたって説教のひと言だって聞こえないド頂点まで行っちまったもんだから、ひと言残らず聞き入れるしかないよーに首根っこ とっ捕まえに来てやっただけのことでしょーが! らしくないにしたってムッカつく腐れ方してたアンタが悪い! 違いますか!?」
「るっせー! るっせー馬ー鹿バーカ!」
「そっちだろ馬鹿! 似合いもしねえ昼行燈するためだけに、いつまでもこんなところで油を売ってブラブラぐだぐだと! 売ってただけ油こってり絞られるくらい、たりめぇにしたって当たり前のお仕置きだっつーのに、キレてんじゃねーですよ馬鹿! こっちまで逆ギレるでしょーが馬鹿っていう方がバーカ!」
「ざっけんな馬鹿にしたって馬鹿馬鹿しいんだよ言うに事欠いてこの場でミウズメで泣き言ぶっこきやがるかクソガキ! そのまま四の五の抜かすうちに咀嚼終わっだろ食え! もう呑め! 丸呑め! こっそり俺が食って誤魔化すにしたって限度あんだろスープにしようが焼き串にしようがミウズメに負け倒す威厳:低空飛行の副頭領におじさんどんだけ頭悩ませてたか! ハゲっぞ! ハゲとロン毛とアホ毛と美髪の超重奏リアルに来っぞ!」
「しょーがないでしょーミウズメだきゃあ煮ようが焼こうが苦いんだからどーしよーもないでしょー!」
「だったらどっからどーしたって俺に飯食えとか指図できたクチか!? てめえという奴ァ苦えのヤダヤダ麦茶にゃ砂糖三度の飯より菓子が好きのお子様ベロしやがって、イチモツついでに弁が立つようになったくれえで偉そうにいけしゃあしゃあと―――!」
「ああああああこんな最中でありながら逆ギレるって活用形と丸呑めって命令形はちょっとって考えあぐねかけてるあたしっておかしいのかしら!」
最後にはキルルまで色めき立って、取っ組み合い始めた二人に割って入ってくる。片手で相手の右顔面を押しのけながらもう片手で襟首を締め上げにかかっていた彼と、痛めつけられている頬肉の駄賃に噛みつき返してやろうと見せかけてエルボーを相手の喉仏にねじ込もうとしている彼女の合間に、わたわたと降参の手つきを固めて言い募ってきた。
「と、ともあれ二人とも。今は我の張り合いっこに血迷うより、逃げる方に力を裂いてほしいの」
「そうじゃないです。もう。僕らは」
妙なところに引っ掛かると、シゾーは目線を強くした。睨むほどのものでもなかったが、それでも素直に黙り込んだキルルを尻目に、こちらへと凄ませたままの目淵を寄越してくる。そして、組体操を放り出すなり身を立てなおして、廊下へ―――否、廊下より向こうへ、顎をしゃくった。
「何してんですか。帰りますよ。ほら早く。ついててやるから。これからも」
そのずけずけとした鉄面皮に、目を吊り上げて口角をひん曲げたヤクザ面を向けて、喧嘩の買い文句をチョイスしていた時だった。ほっと胸を撫で下ろして微笑んでみせたキルルに、目が留まる。
そんなこちらの様子を気取られたらしく、くすりとキルルが忍び笑いを食んだ。
「いえ。良かったわ」
「あん?」
「ちゃんと立てるみたいね。ごめんなさい。食事も満足に摂れていないって聞いてたから、安心しちゃって」
「けっ。生え抜きの旗司誓をお舐めにしてくれなさんな。ガキの時分にゃとっくに、悔踏区域から吹きっさらしにされがてらの呑まず食わずにゃ慣れっこよ。こんなぬくぬくした温室での甲羅干しなんざ、十月十日やってのけれらぁ。お袋の腹ン中より極楽ゴクラクってなもん―――」
「『ふたりじゃねえと立てねぇか? あんたの足は、ちょんぎられてもいねぇってのに』」
すっと耳に入ってこられた口上に、残りの啖呵を取りこぼしてしまう。
まるでそれを見越していたかのように―――キルルは、ぽつりと続けた。
「―――そう言ってくれた日のことが、愛おしいまでに恋しい」
「……キルル?」
違和感に語尾を捻るのだが、キルルどころか、目配せしたシゾーすらこちらを取り合おうとはしなかった―――と、その時までは思えていたのだが。それが思い違いであることを悟ったのは、キルルとシゾーの眼差しが通じ合ったのを見た瞬間だった。黙契を交わそうとしてのそれではない……交わし終えた約束に言葉は要らないとばかり、同種の沈黙を含んだ顔かたちは、親きょうだいよりも似通った面差しを作り上げていた。
そして無言のまま、キルルが廊下へと身を翻した。シゾーもそれに倣ったので、自分もまたそれに続く。
(ちっ。動きづれぇったらありゃしねぇな。まあ、革命ン時の正服よりはマシだ)
思わず舌打ちして、先程シゾーへと繰り出した手数を脳裏に反芻しながら、恨みがましく五体の関節を見やる。階梯順位にして第一位と目される未認定の羽かぶり―――で悪いか、死んでろクソが―――に何を当てがったものかと前例のない侃々諤々の末、落ち着くべきところに落着したとあからさまに物語ってくれる、やたら肌触りだけはいい生成のシャツとズボン。どちらも長袖であることだけはありがたいが、生地からして洗濯板にすら耐えられなさそうな弱々しい布目をしているし、そもそもやわな獣皮であることが足の裏の感触からして知れる靴は室外を歩く仕立てですらなく―――オ馬車をオ持ちのオ上品なオウケサマが土足にオなりになるはずがないってか、野糞らしく野垂れて死んでろクソったれ―――、これからのことを考えるだに憤懣は募った。愛用の手斧や剣までとは言わないが、せめて鉛鋲代わりになってくれそうな小石のひとつでも落ちていてくれたっていいものを、床の上には埃の欠片すら転がっていないとくる……広すぎる室内へざっと注視を流してみたところで、広すぎるからこそ でかすぎたりケバすぎたりしなければバランスが取れませんでしたといったような言い訳が通用しそうな家具やら調度品やらが散りばめられているだけだ。まさか潔癖なまでに清潔に整えられた客室に腹立たしさを覚える日が来るとは、思いも寄らなかったが。
(まあ、こいつらの格好よりは断然動きやすいか)
ちらと目をやって、前方を速足で進んで行くふたつの人影を見やる。型は違えど、どちらも値段の張りそうな正統着だ。ともすると、逢引きするためにお上品なパーティー会場から忍んできたカップルのような構図だが、鎖骨を越える丈まで伸びっぱなしの羽から無地の衣服に至るまで自分だけ爪弾きにされたようで気分は良くない。つい皮肉が口を衝く。
「にしても、何だってんだよ。お前ら雁首揃えるにしたって、おソロのコスチューム極めやがって。学芸会か? 漫才か? ツッコミならキルルにさせろよ。その白魚のよーなお手手に付き指されちゃかなわねぇから、俺が代打で殴っちゃる」
「毒つくにしたって あるだけバーゲンセールしてくれちゃってますけど、そもそも論あんたこそ何なんですか人間の分際で脳天から羽とか。脇とか股座とか笑えることになってんでしょ絶対。ぷっ。フッサフサ。ぷっ」
「なってねーよ長くなった先っちょから派手に開いてくんだからこの毛は何でか知らんけど! その証拠に、ほれ見ろ! 俺の睫毛も眉毛もテメーみてーにフツーに普通だろが!」
「どーかなー? 年がら年中びゅんびゅん流れてくる悔踏区域からの突風に劣化して、フッサフサになる前に切れちゃってるだけじゃないんですかーあ? お洋服の中はどんなもんじゃろか、信じられたもんじゃありゃしませんねー。ぷふふフフフ」
口許を片手で押さえて噴き出しかけているシゾーに、かちんとくるまま息巻いて、血縁―――だったら悪いかってんだ、おととい来やがれ死にぞこない―――へと矛先を返した。ぐっと握りこぶしを胸に、食い下がる。
「ざっけんな! 見せてやれキルル! 箱庭に篭って数日ぽっちの俺じゃミリ単位しか変わってねえから証拠にならねえ!」
「見せるわけないでしょー!」
「オーケイ分かった手を打とう! 百歩譲ってスネ毛で許す! 今こそネオなレディーとやらの先駆け過ぎた雄姿を披露する晴れ舞台だ!」
「レディーとしてお先真っ暗になるしかない舞台演目でしょーそれ!」
巻き添えになることに歯向かうキルルは、いやいやとかぶりを振って声を裏返らせるだけだ。無念だが、断念するしか無かろう。
そうして取りやめにしたのは、がなり合いだけでなく、歩行もだった……ちょうど部屋から出た袂だったこともあり、周囲を窺う意味で、総員で立ち止まる。外開きのドアを衝立にして、物陰から各自で注意をあちこちに振った。どこまでも左右に長い美術館のように横たわった王冠城の廊下は、あっさりと三人の掛け合いを飲み干し終えると、げっぷもせずに黙りこくってくれている。窓というよりか、馬鹿でかい硝子板の壁が、綺麗な穴だらけの石壁と交互に等間隔で並んでいるので、燈籠だの篝火だのによって焚かれた外部からの照度だけでも、夜目ならかなり見通しが利く。自分たち以外、人影はなさそうだ。
と。
「てことはキルルさんフッサフサなんですか。スネ」
なんの気なく独りごちたらしいシゾーだったが、キルルからのツッコミにわき腹を一撃され―――羽虫を追い払うような軽いチョップがどうクリティカルヒットしたものか、えらい苦悶の形相で頽れた。なにやら大袈裟に、つんのめらせた口先から呼吸までぶつ切れにして、鼻の下のくぼみに あぶら汗まで浮かせ始めている。
そのみすぼらしい四つん這いをキルルと並びながら見おろして、腕組みごしに軽蔑の睥睨をくれてやる。
「今のはシゾーが悪ぃな」
「最低限『ですか』の語尾にクエスチョンマークをつけるべきだったわね。信じらんない。根っこがこれなのに過去モテ男とか、外面取り繕うにしたってとび抜けたトンデモ仮面よ。詐欺師。ペテン師。どういった神経してるわけ?」
「どーもこーもねえ無神経だよ無神経。女に刺されたってのも案外痴情の縺れじゃなくて、上げ底の底の浅さが知れて業を煮やしたからなんじゃねえの? 打って変わっての素顔との落差にドン引きして、引いてく前の最後っ屁にドスッとひと突きくれてやったんだろ」
「きっと腋毛見せろとかスネ毛触らせろとかって迫ったんだわー。うわあ変態よ変態。ド変態。ド変態を上回るゾ変態。シゾーさんのゾはゾ変態のゾだったのね。知らなかったわー」
「うむ。こうしてまたひとつ、世界の闇はベールを脱いだ。このビクトリーを寿かんと共に、この先いよいよの発展を願って、ファンファーレ代わりに凱歌を送ろう。せーの、」
「「へーんーたいっ、へーんーたいっ♪」」
「僕の性癖も来歴も信じていただかなくて結構ですけど、この期に及んでアンタらにモテようとしていないこの場におけるこの正気だきゃあ疑わんといてもらえますか……」
ぐるぐる輪を描いて適当に踊り出した二人組の中心で、怨嗟のまま忌々しげに声音を震わせつつ、シゾーがふらふらと立ち上がった。
それを待っていたのだろう。キルルが―――颯爽と今迄の空気を脱ぐと、真剣に告げてくる。
「シゾーさん―――いえ、シゾー・イェスカザさん。そして、シヴツェイア・ザーニーイさん。行って頂戴。あなたたちは……ふたりだから―――のぞんだ風景へ」
「……キルル?」
違和感に、目を眇める。
キルル―――キルル・ア・ルーゼ。姫。異母妹。後継第二階梯。紅蓮の如き翼の頭衣。自分が知る限り、彼女は幼いだけの子どもだった。大勢の中に埋もれる幸せをのぞみ、その包まれている安心に居残ることを選びたがって、不幸にも訪れる未来像と現実の落差に絶望していた……ありふれた子どものひとりだった。その瞳、口ぶり、指先と、順繰りに見回して―――見回し終えて、矢も盾も堪らず、
「お前、キルルか?」
疑うのも愚かしい疑念を縒ってしまう。としても、それが誰に届くよりも、早かった―――当の相手が、豁然と口を開く方が。
「わたしも……キルル・ア・ルーゼも、ひとりで―――ひとり立ちする風景にいることを、決めた。超克を」
「キル―――?」
論及しようとした、その矢先だった。その叫び声が、こちらまで届いたのは。
違いない……間違いなく、それは確かにこちらへと投げかけられた、喉笛を張り裂かんばかりの絶叫だった。
たとえそれが、ちんぷんかんぷんな代物だったとしても。
「魔物おおおぉぉオ!!」
「ま?」
お門違いにしても異次元すぎたことに気を取られて、思わず意識が逸れてしまうのだが。
知った顔のキルルと、知ったことではないシゾーの両者の方が、動きが早かった。キルルが、小声で促してくる―――迸る大音声を追いかけるように、速度と音量を上げた足音が幾つも連なってやってくる廊下の奥へと一瞥をぶつけて、その正反対の方向の廊下へ片腕を振り上げながら。
「このまま行って! イヅェンは、わたしが食い止める!」
「感謝します」
「おいシゾーてめ、なに抜か―――」
反駁を刺そうとした刹那、横隔膜を貫通してきた痛撃に、せりふごと意識を折られた。
無論のこと、身体も二つ折りになるしかなく、その場に座り込みかかる―――のだがシゾーは、その悶絶させかけてくれた手刀を解いてこちらの肘の上を掴むなり、背負い投げする要領で担ぎ上げた。そのまま脱兎に徹すると、示された方向へ走り出す。
(くそっ、たれ……こんな後れすら取るまで鈍りやがって)
どれだけ悪態が膿んだところで、打たれた横隔膜はしばらく満足に動かない。ただただ脱力して―――こうして、恥じ入るしか。
頬からシゾーのうなじに凭れかかって、痛みと言うより猛烈な痺れと眠気が纏わりついてくる腹の底へと、しゃにむに抗う。そんな中でぺしぺしと首根っこを気楽にビンタしてくる黒髪の房―――またやたらと甘ったるくにおうのが一層に鼻につく―――に胃液でも吐いてやりたくなるが、ろくろく働かせていなかった胃袋には酸の一滴も湧いていないようで、ただただ痛恨を煮こごらせて脈打つだけだ。彼の肩から胸の方へ回されていた自分の左手で、口惜し紛れに爪を立ててみても、胸ポケットに仕舞っているらしい異物の感触がしただけで、なんの憂さ晴らしにもなってくれない。
途端。身を低くして、硝子板の壁面の区画を駆け抜け終えたシゾーが、急制動を掛けた。と同時に横へ跳ね、そこにあった大きな美術品を乗せた更に大きな台座の根元へと、こちらを担いだまま身を潜める。観察が行きわたる明度の中では直進するだけ見つかるとみて、いったん隠れることにしたようだ。それについては、もとより反論も無いにせよ―――むかっ腹の経つ脊梁と硬い石とにサンドイッチにされることには不服のひとつもぶつけたくなる。差し引いて考えても不可抗力の範疇ではあるが。ただし、むかっ腹は立ったので、左手ついでに右手でも胸倉を引っ掻いてやる。
それに対して、シゾーは置き去りにしてきた背後の局面を窺いながらも、横っ面で頭突きを返してくる。間近からなので痛くはないが、仕返しとは厚顔たけだけしい。
どうやら角を出した敵意を察したらしく、シゾーが手足を踏ん張って背面への圧力を上げた。むぎゅと押しつぶされて、今度こそ手も足も出なくなる。
そのひと悶着すらしなかった攻防とは裏腹な苛烈さでこちらまで肉薄してきたのは、喚き散らす叫声だけだ。青年の……怒るとも嘆くともつかない、狂い猛るばかりで壊れていく奔流―――
「あれぞ見紛うことなく、……魔物! 背の高い若い男の姿で―――追え……姉君までも、楽園まで招かれたまう前に―――此度こそ、ア族ルーゼ家への侵犯は……ゆるされてなるものかア―――!!」
「なんだあれ。頭おかしいのか? でもイヅェン? 後継第三階梯? あれが?」
ぶつぶつと口説いて、ようやくシゾーが身を起こした。
そして自分だけ前のめりにしゃがみ込むと、つま先を支点にくるりと半回転して、面と向き直ってくる。そのうえ、こちらの息差しから痛手の残滓よりも場当たり的な怒気を嗅ぎ分けると、すうっと目を細めるだけで機先を制してきた。
言ってくる。忠告を。
「あのなぁですけど。僕への反発じゃなく、状況の損得で考えなさい。今どうするのが得策ですか? え? 自分だけ心配なつもりでいてもらっちゃ困ります。言っておきますが、キルルさんは僕の恩人だ」
―――と。
聞き終える頃には、余裕も取り戻していた……少なくとも、シゾーの言い分にある利を数えることが出来る程度には。
胡坐をかいた足の上に頬杖をついて、空いているもう片手をひらつかせながら、負け惜しみをくれてやる。
「けっ。てめぇに冷や水かけられた気分にさせられるたぁ、カタナシにも程があるぜ」
「はっはっは。それはようこそ、歓迎しますよ同類項。情けない話でよけりゃあ、こちとら冷や水かけられるなら物理的に慣れっこですよ」
「そうかい。水で勘弁してもらえるうちに済んでよかったなスケこまし。供物がてめぇの生き血にランクアップされる前に足洗っとけ」
「ホンットそうデシタヨネエ~」
「なに俺に恨み節向けてんだよ。自業自得じゃねえか」
「ホンッッットーーーーに、そうデシタンデスヨネ~~~え?」
なにやら臍の横を押さえながら殺気立ってくれているシゾーを置いてきぼりに、自分もまた聞き耳を立てる姿勢へと身構え直す。いつでもばねを利かせることが可能なように屈身しながら、台座に身を隠したまま、意識を元来た側へと伸ばした。覗き見したいのはやまやまだが、こうにも頭から羽がこぼれてくれていては、光を吸うだに目に付くだけだろう。首を伸ばすのは幼馴染み―――どんぴしゃなことに毛先から面の皮・腹の中まで黒いも黒い―――に任せて、耳を澄ませることに専念する。に、せよ。
眼前を横切って、真横に陣取った彼へと、断っておく。
「分かってるっつの。様子を見るにしても、騒動の振幅と室内にいる人数が分かる秒数で切り上げる。判断の肝はキルルが無事かどうか、だ」
「判断?」
「一目散にトンズラかますか、トンズラかます前に一宿一飯の恩を踏み倒さずカチコミかけるか」
「気安く言ってくれますね。僕らの―――この今までの全部が全部、ご破算になるかもしれないことを。おじゃんで済むどころか、骨折り損のくたびれ儲けになるかも。分かってんですか? この分からず屋」
「けっ。俺の計算が合わねえのは いつものこった」
「臆病者のくせして」
「おうおう。合点承知の助じゃねえかシゾー。こわいとこは任せたぞ」
「うあ貧乏くじ。あーあ。僕も臆病風に吹かれときゃよかった」
「こんなお国の先っぽまでやってきといて、手遅れ千万なことガタガタ抜かすな」
「試してみます? 手遅れかどうか」
「しゃらくせえ。負け博打のしこり打ちにしたって、矛盾くれてんじゃねーぞ。臆病風に吹かれないとこまで、俺を蹴っぱなす。前に、そう立ち位置を自白したのはどこのどいつだ? 木枯しン中で仲良く並んでガタブル時間潰してられっか」
「んっとに屁理屈からして風上に置けない人ですよね、あんたときたら。今さっき実際に蹴られたのは僕じゃないですか」
「じゃあキックされた勢いで、もっと上行けるな。空か。あれかお前。神か」
「馬鹿こくにしたって馬鹿らしいでしょーよ馬鹿。馬と鹿どころか神と人までか馬鹿」
「―――あ。てめーこっそりと、なにしようとしてやがんだ。研磨石かそれ」
「もう片っぽ はキルルさんが持ってるんで」
「はあ!? ちゃっかりと仲良しこよしに、なに抜け駆けかましてんだコラ! 貸せシゾー貸せ! 俺に助けを呼んだところで、お前じゃ聞こえねーだろが!」
「だーもー独り占めしないでくださいよコレ一個っきゃないんだから! ほら、こうやって下から立たせるみたいに持つから、あんたは反対側から耳に押し当ててくれなさいって」
「へん、ドサンピンじゃねえならウスノロしでかすな。解決策があんなら、もったいつけてんじゃねえっての」
「解決する策かなぁ……今迄こんな使い方したことないし。混線するだけかも」
「知るか。祈っとけ。それだきゃあ出し惜しみすんじゃねえぞ。まったくもって、無料ほど高くつくものなんざ無ねぇんだ」
「身にシミてますっつの、そんなこと……あ、」
「どした?」
「台座の上の像。ここらへんから見ると、こかして踏んづけてくる時のジンジルデッデの、してやったりなニンマリ顔に瓜二つです。えんがちょ」
「マジでか。うわマジでだ。えんがちょ。悪ぃけどデデ爺、今回ぽっきりマジで見逃してくれな」
「ガチであの世からでもご都合主義モロ出しにしてやらかしにきそうだからなぁ……ジンジルデッデだし」
「だよなぁ。しかもデデ爺ときたら毎度毎度、それが自分の楽しみのベクトル増やさんがための八百長でしかないから、されるだけ俺らのドンパチ倍ドンすんだよな」
「しっかも今回の掛け金は、僕ら全員の命数と命運ですよ? そりゃ面白ぇやぽっちでサイコロ振られちゃ、こちとら洒落になりませんって。ううう、考えるだけでブルってくるぅ……」
「あーーーー畜生ーーーーっ、祈る祈るっ! 今回ばかりは目くらまし頼むぜ、カミサマ イカサマ ホトケサマ。あの出たら目に目を付けられませんよーに」
「ませんよーに。あ、」
「なんでい次々やぶから棒に」
「今ので最後のひとつ使っちゃったから、ジンジルデッデが本当に星になったんなら、きんきらきんの王冠だろうが七代祟る蛇神様だろうがお構いなしに、ガツンとブチ当たる方にどーしたって流れて来ちゃうんじゃあ……」
「そこはかとなく不吉さだけは伝わってくる風に目ン玉点にしてわなわなと血の気ひかせながら独りごちるな! なんなんだそれ!」
「だって……だって、しょーがないんですもん本当にこーなったら! もともと一から十まで一事が万事アンタのせいなのに!」
「なんで俺が悪いんだよ!?」
「そんなこと言ってないっ! ひどいっ! 謝れ馬鹿あっ!」
「あ? お。ご、めん?」
「そーだそうだ謝れ謝れぇっ! なんだよホントにもう本当にもう僕、僕だってえ……こうなるまで僕だってホントにホントに本っっっ当おおおぉぉオに頑張って……―――!」
「分かった分かった分ぁかったから泣き虫はお預けにしとけ! ええいクソ、任せろ! まとめて俺がなんとかしてやる! 大船に乗ったつもりで構えとけ! ……―――」
ひそひそとした すったもんだは、破れかぶれにも、今はとめどなく続く。嫌でも終わりにしてくれる終止符を先送りにするかのように―――真逆に、また好きこのんで始めてしまう切っ掛けとなる強調符の到来を手ぐすね引いて待ちわびるように。あるいは、今まで通りでしかないから、セオリーなりに、これからも。どれだとしても大差はなく……であるなら、どうであれ何もかも同じだとしても―――
いつだってこともなげに、引き金は引かれる。
考えることは、ないではない―――少なくとも、子どもの頃には思いつきもしなかったことまで考えるようにはなっている。思えば、本当に子ども心には思いつきすらしなかった。自分が、シゾーと裏切り合うなんてことは。
その事実に逃げ回っていたのは二人ともで、だから、直面せざるを得なくなったのも二人同時だった。三年前になる。あやふやな記憶を手探りすると、必ず指先を刺しにきてくれる……その、針のような、絶望。それは、あの鐘の音色と同質であり同一だ。鐘の音―――現実的にはそれは武装犯罪者のアジトが容赦なく薙ぎ倒されゆく壊落の轟音だったのだろうが……だとしても、あの日から軋轢されるまま崩れゆく世界の慟哭には違いなかった。鐘の音のように―――音響すら鼓膜から失われたとしても、身体の芯に刻みこまれて消えない震え。
三年前、それは臥っていた万年床に現出した。
身長は追い抜かれていた―――肩幅も胸板も体重も靴のサイズですら。喉仏が張り、声色を下げ、丸みの削げた頬まわりの皮膚を毎日の髭剃りで硬くしていた。長く伸ばしたままの髪が煙草臭い。目の使い方となく口の回し方となく、道楽者の中でも女道楽に垢抜けた気配を嗅ぐ。予感どおり、ザーニーイをシヴツェイアと呼び出した。それなのにシゾー・イェスカザだった。裏切られた。
裏切っておいて、彼は逃げようとしなかった。どうあっても傍から離れず、ひたむきに呼びかけ続けた……ザーニーイにも、シヴツェイアにも。だから今では気付くしかない―――彼を裏切り、逃げ続けたのは、自分の方だ。逃げ続けて……こんな最果てまで、やってきてしまった。
だのに、シゾーは、ここにまで来るという。
(そんでも……こうして、ぼやぼやと。情けないな。俺は。いつだって)
床にへたばったまま、キルルが立ち去ってから何をするでもない―――シヴツェイアであることを突き付けられている時間の記憶はいつだって曖昧で、毎月の発作どころか三年前に自殺したことについても実のところ他人事だ。意識が清明になってきてからの自傷他傷の痛痒と傷痕が現実だから受け入れるしかない……そんな程度の日常。生きるか死ぬかといった―――だとしても、日常。子どもの頃には思いつきもしなかった、日常。
イェンラズハ。ジンジルデッデ。シザジアフ。以下、かつての日月もろとも同胞を切り落とした旗司誓<彼に凝立する聖杯>だからこそ、純潔貴族たるネモ族ンルジアッハ家のキアズマが義賊<風青烏>へと変遷を遂げ、エニイージーや騎獣が双頭三肢の青鴉の翼下に加わり、シゾーやゼラと並んで清爽とその御旗を率いた……その霹靂の幾星霜ですら、今は昔―――キルルとの邂逅を遂げ、【血肉の約定】の果てに、霹靂を殺して後継第一階梯を蘇らせても……まだ、これは続く。
だから、日常なので、これだって当然だ。
ドアを開けてこちらの姿を見咎るや否や、つかつかと間合いを詰めてくる両足。
間際まで来た即座、胸倉を締め上げにかかってくる両手。
その手に なすすべもなく床から吊り上げられて、真後ろの壁に思いっきり押し付けられる。勢いよく後ろ頭をぶつけた弾みで頭蓋骨が跳ねて、目から火が出た。それともこの瞬きは、暗くしてもらった室内へ廊下から差し込んできた急な明かりによって齎された倒錯か……どうであれ、ちかちかと星が明滅する視界の、そのど真ん中で―――ドスを利かされた怒声が、しわがれている。
「アンタまたちゃんと食べてませんね」
掴み上げた重さが、武装を抜きにしたところで軽すぎだと判断したらしい。確かめるように、こちらの右の二の腕を片手で握り込んだ直後、もう押し殺しすらせず叱りつけてきた。
「どーせンなこったろうと察しは付いてましたけどうっわ痩せたゼッテエ痩せた! あんたって人はいつだってストレスかかると覿面に食わなくなって酒と煙草に走りやがるんだから! アルコールもケムリも食い物じゃねえって口酸っぱく言ってるでしょう噛まないと呑み込めないものを食い物って言うんですコノヤロウ! 頭領職に落ち着いて一線から退いたのをいいことに、ここぞとばかりに好き放題しやがって! 僕だって副頭領なのに僕にだけ好き嫌いしてないでミウズメも食べなさいって義父さんが! 義父さんが! 僕ばっかり!」
(本当に……こんなにも……続いてしまう……ものなのか……)
詰め寄ってきた足から―――掴みかかってきている両手から、項垂れていた顔を上げる。
やはり、認めるしかない。こうなっては。
「シゾーなんだな」
「たりめーでしょうが。これで俺が僕じゃなかったらアンタこそ誰だってんですか。だから帰りますよ。ほら早く。ちゃんと立つ。シャキッとなさい木偶の坊」
「―――……シゾー・イェスカザ」
彼だった。
旗司誓こそ世を忍ぶ仮の姿と主張せんばかりに、今は小綺麗な服装にぴったりのオールバックへと髪を均して、左耳のピアスまで外している。滾る口気に負けず劣らず怒り狂っている顔つきを除けば、さも育ちのいい若紳士だ。本の虫で、泣き虫で、意地っ張りの見栄っ張りらしく一丁前だと鯱張りたがって、寝小便を隠すのがいつまでも下手糞で……こちらが兄貴分だと言って聞かせなければ弟らしく甘ったれることすら出来ず、寝しなに便所へ送り迎えする口実にさえ事欠くような、手のかかる弟分だ―――だった。はず。なのに。
ちゃんちゃらおかしい。おかしくて可笑しくて堪らない。これはなんだ―――?
(現実だ)
言うまでもない。としても、
「本当に―――なんで、お前なんだろうなあ?」
問いかける……譫言のように。誰にへだ? 神へか? わらえない。
だとしたら、これは譫言だ。楽園は失われた。ならば譫言で構わない。構わなかった―――のに。
シゾーが、こちらを突き放した両手をぱんぱんと打ち払いながら、ぎっと眼差しを研ぎ直して断言し続ける。加速度的に増していく苛々に、語気を沸き立たせながら。
「あーもう、もたもたグズグズぶつくさを湿気らせるとか、危なっかしいまでに即断即決即行動で、いつも無駄にキレッキレしたすばしっこさはどうしたんですか!? あんたのくせして、らしくないことしてんじゃないですってえの!」
「―――らしくない?」
繰り返す。
今度こそ、わらってしまっていた。どうしようもなく……わらえない現実に。ここは王冠城。自分の、お着せにされた衣服に長靴を見おろせば、さらしで押さえ込んでいない乳房が目立たない呼吸を繰り返している―――しゃきり・しゃきりと奏でられていく、長く絢爛な数多の羽の隙間から、それを見るしかない。産まれ落ちたことすら知らずにいた赤ん坊からザーニーイとなり、シヴツェイアと化したのみならず<彼に凝立する聖杯>の霹靂を抹殺し、後継第一階梯らしくア族ルーゼ家に生き返るどころか、いずれは国王陛下にまで召し上げられると言う、この化け物を。果てなく化けゆくものを。
「俺が人間に見えるか?」
投げかける。それを、続ける。
「俺らしいってのは、どんなだ?」
シゾーは―――
鼻を鳴らした。ふん、と。鼻で笑ったのだ。
「本っ当につくづく打ってつけだよな、俺ってやつは。言っとくけど俺は、いつだって、ほったらかしにされたんだからな」
とまあ、ぶっきらぼうに独りごちてくるものの。そうやった前置きでもしないと、やっていられなかったのだろう。
こちらの顎下に右手を掛けると、ぐいっと引き上げて上を向かせる。目の焦点が合っていることを確かめ終えると、彼は……さっと左手で己の左眉から もみあげまでを撫でつけて、あらぬ方向へ流し目を送ってみせた。薄い笑みを溶かした唇を ふっと開いて、勝ち誇ってくる。
「どうだ。この格好」
「は?」
「キマってるだろ?」
そうして、念押しも し終えて。その残響すらも消えて。
極めポーズだったらしい立ち居を瓦解させて、真っ赤にした怒り心頭の渋面に犬歯を剥きながら、シゾーが左手の拳から立てた二本指で、こちらの眉間を軽く突いた。頤へと固められた右手もそのままなので、ぽかんとされるがままになるしかない。
彼なりに噛んで含めるように、ひと言ひと言を―――彼だから、食いしばってきた。
「シゾーのくせしてイメチェンかと、指差して笑え。それが、小っさい頃から、よぉおおおおおぅく知ってるアンタです!」
沈黙。
やにわの、沈黙。
「……………………」
「…………………………………………」
やおらの、沈黙。
「……………………………………」
「…………………………………………………………」
「…………………………………………」
「………………………………………………………………」
にわかにも、ただただ深まりゆく、果てしない沈黙。
その中から―――呼気と吸気の間から、這い出たのは。言葉だ。ただの、声。
「あ―――」
「あ?」
指呼の間から疑問符を返してきたのは、これもまたシゾーだった。それにこたえるでもなく、ひと声は続く。
「あ―――」
ただただ、そう繰り返すうちに、しゃくりあげて泣いた時のような痙攣に臓腑が引っ張られる。特に声帯が、痛むほどに引き攣った。だからこそ、そこに繋がっている肉の管と、そこへ流れ込んでいる血液のざわめきを思い出す。涙液の むずがゆさ。唾液の温み。無味無臭だったそこから―――繋がりを、思い出す。取り戻した。切れていた糸だったと……それが今は分かる。
「あ……あ……」
「あ、が何だってんですか? なんとか言ってくれなさいよコラ。え? シヴツェイア・ザーニーイ・アブフ・ヒルビリ」
「あ……―――」
怒張させた面皮に、怪訝味をもうひと塗りして。こちらと視点を合わせるべく、やや前後の間合いを広げて、下げた両手を膝に中腰になってくるシゾーを目の前に。
呼ばれるならば。シヴツェイア・ザーニーイ・アブフ・ヒルビリ。彼女は―――
「阿呆かコルァアアアァァぁぁア!!」
絶叫するなり、眼下にある側頭めがけて、万力を込めた蹴足を回し込んだ。
「げふっ!?」
ノーガードのところに一撃を食らわされたのだから、これもまた当然だが。シゾーが横ざまにぶっ倒れる。となると、シゾーの真後ろに立ち尽くしていた―――らしいが気付かなかった―――キルルと、目が合った。立ちはだかっていた障害物がなくなったのだから……これもまたどうしようもなく、三メートルほどを挟んで、彼女と見つめ合う。呆然と。
またしても静まり返っていこうとする、その中で―――
「……んあ?」
きょとんと、呻く。
鐘の音がしない。これっぽっちも。頭痛もそうだ。まったく消えている。
その代わりに、がんがんと容赦なくねじ込まれてくるのは……
「痛ってえですね! 何しやがるんですかアンタは! いくらなんでも踵はないでしょ踵をこめかみにはっ!?」
蹴られた左耳あたりを抱えながら、がばっと身を起こして抗議してくるシゾーへと、今度は拳骨から右ストレートをくれてやる。さすがに見切られていたようで、あっさりと小首を傾げる程度の動きで躱されてしまうが。
空振りに終わった右手を持て余すまま、わきわきと結んで開いてをリピートさせつつ、結局は正面に居直ってくれたシゾーへと、しこたま怒鳴り返す。
「ぃやかましい! ド阿呆にしたって弩級だろがクソたれ目! こんなとこまでンっなケチつける為だけにノコノコやって来やがって! そんだけヨダレまみれの薄汚ねぇ寝言ゲロしまくってくれるほど夢遊病こじらせたイカレ患者の寝ぼけ半分ブッ飛ばすにゃ、涙ぐむくれぇの食らわせるくらいでナンボのモンてなカンフル剤だ! よお、お目覚めか! お目目パッチリあんよは上手か! イイ夢だったかションベンタレが!」
「お山の天辺にしたって説教のひと言だって聞こえないド頂点まで行っちまったもんだから、ひと言残らず聞き入れるしかないよーに首根っこ とっ捕まえに来てやっただけのことでしょーが! らしくないにしたってムッカつく腐れ方してたアンタが悪い! 違いますか!?」
「るっせー! るっせー馬ー鹿バーカ!」
「そっちだろ馬鹿! 似合いもしねえ昼行燈するためだけに、いつまでもこんなところで油を売ってブラブラぐだぐだと! 売ってただけ油こってり絞られるくらい、たりめぇにしたって当たり前のお仕置きだっつーのに、キレてんじゃねーですよ馬鹿! こっちまで逆ギレるでしょーが馬鹿っていう方がバーカ!」
「ざっけんな馬鹿にしたって馬鹿馬鹿しいんだよ言うに事欠いてこの場でミウズメで泣き言ぶっこきやがるかクソガキ! そのまま四の五の抜かすうちに咀嚼終わっだろ食え! もう呑め! 丸呑め! こっそり俺が食って誤魔化すにしたって限度あんだろスープにしようが焼き串にしようがミウズメに負け倒す威厳:低空飛行の副頭領におじさんどんだけ頭悩ませてたか! ハゲっぞ! ハゲとロン毛とアホ毛と美髪の超重奏リアルに来っぞ!」
「しょーがないでしょーミウズメだきゃあ煮ようが焼こうが苦いんだからどーしよーもないでしょー!」
「だったらどっからどーしたって俺に飯食えとか指図できたクチか!? てめえという奴ァ苦えのヤダヤダ麦茶にゃ砂糖三度の飯より菓子が好きのお子様ベロしやがって、イチモツついでに弁が立つようになったくれえで偉そうにいけしゃあしゃあと―――!」
「ああああああこんな最中でありながら逆ギレるって活用形と丸呑めって命令形はちょっとって考えあぐねかけてるあたしっておかしいのかしら!」
最後にはキルルまで色めき立って、取っ組み合い始めた二人に割って入ってくる。片手で相手の右顔面を押しのけながらもう片手で襟首を締め上げにかかっていた彼と、痛めつけられている頬肉の駄賃に噛みつき返してやろうと見せかけてエルボーを相手の喉仏にねじ込もうとしている彼女の合間に、わたわたと降参の手つきを固めて言い募ってきた。
「と、ともあれ二人とも。今は我の張り合いっこに血迷うより、逃げる方に力を裂いてほしいの」
「そうじゃないです。もう。僕らは」
妙なところに引っ掛かると、シゾーは目線を強くした。睨むほどのものでもなかったが、それでも素直に黙り込んだキルルを尻目に、こちらへと凄ませたままの目淵を寄越してくる。そして、組体操を放り出すなり身を立てなおして、廊下へ―――否、廊下より向こうへ、顎をしゃくった。
「何してんですか。帰りますよ。ほら早く。ついててやるから。これからも」
そのずけずけとした鉄面皮に、目を吊り上げて口角をひん曲げたヤクザ面を向けて、喧嘩の買い文句をチョイスしていた時だった。ほっと胸を撫で下ろして微笑んでみせたキルルに、目が留まる。
そんなこちらの様子を気取られたらしく、くすりとキルルが忍び笑いを食んだ。
「いえ。良かったわ」
「あん?」
「ちゃんと立てるみたいね。ごめんなさい。食事も満足に摂れていないって聞いてたから、安心しちゃって」
「けっ。生え抜きの旗司誓をお舐めにしてくれなさんな。ガキの時分にゃとっくに、悔踏区域から吹きっさらしにされがてらの呑まず食わずにゃ慣れっこよ。こんなぬくぬくした温室での甲羅干しなんざ、十月十日やってのけれらぁ。お袋の腹ン中より極楽ゴクラクってなもん―――」
「『ふたりじゃねえと立てねぇか? あんたの足は、ちょんぎられてもいねぇってのに』」
すっと耳に入ってこられた口上に、残りの啖呵を取りこぼしてしまう。
まるでそれを見越していたかのように―――キルルは、ぽつりと続けた。
「―――そう言ってくれた日のことが、愛おしいまでに恋しい」
「……キルル?」
違和感に語尾を捻るのだが、キルルどころか、目配せしたシゾーすらこちらを取り合おうとはしなかった―――と、その時までは思えていたのだが。それが思い違いであることを悟ったのは、キルルとシゾーの眼差しが通じ合ったのを見た瞬間だった。黙契を交わそうとしてのそれではない……交わし終えた約束に言葉は要らないとばかり、同種の沈黙を含んだ顔かたちは、親きょうだいよりも似通った面差しを作り上げていた。
そして無言のまま、キルルが廊下へと身を翻した。シゾーもそれに倣ったので、自分もまたそれに続く。
(ちっ。動きづれぇったらありゃしねぇな。まあ、革命ン時の正服よりはマシだ)
思わず舌打ちして、先程シゾーへと繰り出した手数を脳裏に反芻しながら、恨みがましく五体の関節を見やる。階梯順位にして第一位と目される未認定の羽かぶり―――で悪いか、死んでろクソが―――に何を当てがったものかと前例のない侃々諤々の末、落ち着くべきところに落着したとあからさまに物語ってくれる、やたら肌触りだけはいい生成のシャツとズボン。どちらも長袖であることだけはありがたいが、生地からして洗濯板にすら耐えられなさそうな弱々しい布目をしているし、そもそもやわな獣皮であることが足の裏の感触からして知れる靴は室外を歩く仕立てですらなく―――オ馬車をオ持ちのオ上品なオウケサマが土足にオなりになるはずがないってか、野糞らしく野垂れて死んでろクソったれ―――、これからのことを考えるだに憤懣は募った。愛用の手斧や剣までとは言わないが、せめて鉛鋲代わりになってくれそうな小石のひとつでも落ちていてくれたっていいものを、床の上には埃の欠片すら転がっていないとくる……広すぎる室内へざっと注視を流してみたところで、広すぎるからこそ でかすぎたりケバすぎたりしなければバランスが取れませんでしたといったような言い訳が通用しそうな家具やら調度品やらが散りばめられているだけだ。まさか潔癖なまでに清潔に整えられた客室に腹立たしさを覚える日が来るとは、思いも寄らなかったが。
(まあ、こいつらの格好よりは断然動きやすいか)
ちらと目をやって、前方を速足で進んで行くふたつの人影を見やる。型は違えど、どちらも値段の張りそうな正統着だ。ともすると、逢引きするためにお上品なパーティー会場から忍んできたカップルのような構図だが、鎖骨を越える丈まで伸びっぱなしの羽から無地の衣服に至るまで自分だけ爪弾きにされたようで気分は良くない。つい皮肉が口を衝く。
「にしても、何だってんだよ。お前ら雁首揃えるにしたって、おソロのコスチューム極めやがって。学芸会か? 漫才か? ツッコミならキルルにさせろよ。その白魚のよーなお手手に付き指されちゃかなわねぇから、俺が代打で殴っちゃる」
「毒つくにしたって あるだけバーゲンセールしてくれちゃってますけど、そもそも論あんたこそ何なんですか人間の分際で脳天から羽とか。脇とか股座とか笑えることになってんでしょ絶対。ぷっ。フッサフサ。ぷっ」
「なってねーよ長くなった先っちょから派手に開いてくんだからこの毛は何でか知らんけど! その証拠に、ほれ見ろ! 俺の睫毛も眉毛もテメーみてーにフツーに普通だろが!」
「どーかなー? 年がら年中びゅんびゅん流れてくる悔踏区域からの突風に劣化して、フッサフサになる前に切れちゃってるだけじゃないんですかーあ? お洋服の中はどんなもんじゃろか、信じられたもんじゃありゃしませんねー。ぷふふフフフ」
口許を片手で押さえて噴き出しかけているシゾーに、かちんとくるまま息巻いて、血縁―――だったら悪いかってんだ、おととい来やがれ死にぞこない―――へと矛先を返した。ぐっと握りこぶしを胸に、食い下がる。
「ざっけんな! 見せてやれキルル! 箱庭に篭って数日ぽっちの俺じゃミリ単位しか変わってねえから証拠にならねえ!」
「見せるわけないでしょー!」
「オーケイ分かった手を打とう! 百歩譲ってスネ毛で許す! 今こそネオなレディーとやらの先駆け過ぎた雄姿を披露する晴れ舞台だ!」
「レディーとしてお先真っ暗になるしかない舞台演目でしょーそれ!」
巻き添えになることに歯向かうキルルは、いやいやとかぶりを振って声を裏返らせるだけだ。無念だが、断念するしか無かろう。
そうして取りやめにしたのは、がなり合いだけでなく、歩行もだった……ちょうど部屋から出た袂だったこともあり、周囲を窺う意味で、総員で立ち止まる。外開きのドアを衝立にして、物陰から各自で注意をあちこちに振った。どこまでも左右に長い美術館のように横たわった王冠城の廊下は、あっさりと三人の掛け合いを飲み干し終えると、げっぷもせずに黙りこくってくれている。窓というよりか、馬鹿でかい硝子板の壁が、綺麗な穴だらけの石壁と交互に等間隔で並んでいるので、燈籠だの篝火だのによって焚かれた外部からの照度だけでも、夜目ならかなり見通しが利く。自分たち以外、人影はなさそうだ。
と。
「てことはキルルさんフッサフサなんですか。スネ」
なんの気なく独りごちたらしいシゾーだったが、キルルからのツッコミにわき腹を一撃され―――羽虫を追い払うような軽いチョップがどうクリティカルヒットしたものか、えらい苦悶の形相で頽れた。なにやら大袈裟に、つんのめらせた口先から呼吸までぶつ切れにして、鼻の下のくぼみに あぶら汗まで浮かせ始めている。
そのみすぼらしい四つん這いをキルルと並びながら見おろして、腕組みごしに軽蔑の睥睨をくれてやる。
「今のはシゾーが悪ぃな」
「最低限『ですか』の語尾にクエスチョンマークをつけるべきだったわね。信じらんない。根っこがこれなのに過去モテ男とか、外面取り繕うにしたってとび抜けたトンデモ仮面よ。詐欺師。ペテン師。どういった神経してるわけ?」
「どーもこーもねえ無神経だよ無神経。女に刺されたってのも案外痴情の縺れじゃなくて、上げ底の底の浅さが知れて業を煮やしたからなんじゃねえの? 打って変わっての素顔との落差にドン引きして、引いてく前の最後っ屁にドスッとひと突きくれてやったんだろ」
「きっと腋毛見せろとかスネ毛触らせろとかって迫ったんだわー。うわあ変態よ変態。ド変態。ド変態を上回るゾ変態。シゾーさんのゾはゾ変態のゾだったのね。知らなかったわー」
「うむ。こうしてまたひとつ、世界の闇はベールを脱いだ。このビクトリーを寿かんと共に、この先いよいよの発展を願って、ファンファーレ代わりに凱歌を送ろう。せーの、」
「「へーんーたいっ、へーんーたいっ♪」」
「僕の性癖も来歴も信じていただかなくて結構ですけど、この期に及んでアンタらにモテようとしていないこの場におけるこの正気だきゃあ疑わんといてもらえますか……」
ぐるぐる輪を描いて適当に踊り出した二人組の中心で、怨嗟のまま忌々しげに声音を震わせつつ、シゾーがふらふらと立ち上がった。
それを待っていたのだろう。キルルが―――颯爽と今迄の空気を脱ぐと、真剣に告げてくる。
「シゾーさん―――いえ、シゾー・イェスカザさん。そして、シヴツェイア・ザーニーイさん。行って頂戴。あなたたちは……ふたりだから―――のぞんだ風景へ」
「……キルル?」
違和感に、目を眇める。
キルル―――キルル・ア・ルーゼ。姫。異母妹。後継第二階梯。紅蓮の如き翼の頭衣。自分が知る限り、彼女は幼いだけの子どもだった。大勢の中に埋もれる幸せをのぞみ、その包まれている安心に居残ることを選びたがって、不幸にも訪れる未来像と現実の落差に絶望していた……ありふれた子どものひとりだった。その瞳、口ぶり、指先と、順繰りに見回して―――見回し終えて、矢も盾も堪らず、
「お前、キルルか?」
疑うのも愚かしい疑念を縒ってしまう。としても、それが誰に届くよりも、早かった―――当の相手が、豁然と口を開く方が。
「わたしも……キルル・ア・ルーゼも、ひとりで―――ひとり立ちする風景にいることを、決めた。超克を」
「キル―――?」
論及しようとした、その矢先だった。その叫び声が、こちらまで届いたのは。
違いない……間違いなく、それは確かにこちらへと投げかけられた、喉笛を張り裂かんばかりの絶叫だった。
たとえそれが、ちんぷんかんぷんな代物だったとしても。
「魔物おおおぉぉオ!!」
「ま?」
お門違いにしても異次元すぎたことに気を取られて、思わず意識が逸れてしまうのだが。
知った顔のキルルと、知ったことではないシゾーの両者の方が、動きが早かった。キルルが、小声で促してくる―――迸る大音声を追いかけるように、速度と音量を上げた足音が幾つも連なってやってくる廊下の奥へと一瞥をぶつけて、その正反対の方向の廊下へ片腕を振り上げながら。
「このまま行って! イヅェンは、わたしが食い止める!」
「感謝します」
「おいシゾーてめ、なに抜か―――」
反駁を刺そうとした刹那、横隔膜を貫通してきた痛撃に、せりふごと意識を折られた。
無論のこと、身体も二つ折りになるしかなく、その場に座り込みかかる―――のだがシゾーは、その悶絶させかけてくれた手刀を解いてこちらの肘の上を掴むなり、背負い投げする要領で担ぎ上げた。そのまま脱兎に徹すると、示された方向へ走り出す。
(くそっ、たれ……こんな後れすら取るまで鈍りやがって)
どれだけ悪態が膿んだところで、打たれた横隔膜はしばらく満足に動かない。ただただ脱力して―――こうして、恥じ入るしか。
頬からシゾーのうなじに凭れかかって、痛みと言うより猛烈な痺れと眠気が纏わりついてくる腹の底へと、しゃにむに抗う。そんな中でぺしぺしと首根っこを気楽にビンタしてくる黒髪の房―――またやたらと甘ったるくにおうのが一層に鼻につく―――に胃液でも吐いてやりたくなるが、ろくろく働かせていなかった胃袋には酸の一滴も湧いていないようで、ただただ痛恨を煮こごらせて脈打つだけだ。彼の肩から胸の方へ回されていた自分の左手で、口惜し紛れに爪を立ててみても、胸ポケットに仕舞っているらしい異物の感触がしただけで、なんの憂さ晴らしにもなってくれない。
途端。身を低くして、硝子板の壁面の区画を駆け抜け終えたシゾーが、急制動を掛けた。と同時に横へ跳ね、そこにあった大きな美術品を乗せた更に大きな台座の根元へと、こちらを担いだまま身を潜める。観察が行きわたる明度の中では直進するだけ見つかるとみて、いったん隠れることにしたようだ。それについては、もとより反論も無いにせよ―――むかっ腹の経つ脊梁と硬い石とにサンドイッチにされることには不服のひとつもぶつけたくなる。差し引いて考えても不可抗力の範疇ではあるが。ただし、むかっ腹は立ったので、左手ついでに右手でも胸倉を引っ掻いてやる。
それに対して、シゾーは置き去りにしてきた背後の局面を窺いながらも、横っ面で頭突きを返してくる。間近からなので痛くはないが、仕返しとは厚顔たけだけしい。
どうやら角を出した敵意を察したらしく、シゾーが手足を踏ん張って背面への圧力を上げた。むぎゅと押しつぶされて、今度こそ手も足も出なくなる。
そのひと悶着すらしなかった攻防とは裏腹な苛烈さでこちらまで肉薄してきたのは、喚き散らす叫声だけだ。青年の……怒るとも嘆くともつかない、狂い猛るばかりで壊れていく奔流―――
「あれぞ見紛うことなく、……魔物! 背の高い若い男の姿で―――追え……姉君までも、楽園まで招かれたまう前に―――此度こそ、ア族ルーゼ家への侵犯は……ゆるされてなるものかア―――!!」
「なんだあれ。頭おかしいのか? でもイヅェン? 後継第三階梯? あれが?」
ぶつぶつと口説いて、ようやくシゾーが身を起こした。
そして自分だけ前のめりにしゃがみ込むと、つま先を支点にくるりと半回転して、面と向き直ってくる。そのうえ、こちらの息差しから痛手の残滓よりも場当たり的な怒気を嗅ぎ分けると、すうっと目を細めるだけで機先を制してきた。
言ってくる。忠告を。
「あのなぁですけど。僕への反発じゃなく、状況の損得で考えなさい。今どうするのが得策ですか? え? 自分だけ心配なつもりでいてもらっちゃ困ります。言っておきますが、キルルさんは僕の恩人だ」
―――と。
聞き終える頃には、余裕も取り戻していた……少なくとも、シゾーの言い分にある利を数えることが出来る程度には。
胡坐をかいた足の上に頬杖をついて、空いているもう片手をひらつかせながら、負け惜しみをくれてやる。
「けっ。てめぇに冷や水かけられた気分にさせられるたぁ、カタナシにも程があるぜ」
「はっはっは。それはようこそ、歓迎しますよ同類項。情けない話でよけりゃあ、こちとら冷や水かけられるなら物理的に慣れっこですよ」
「そうかい。水で勘弁してもらえるうちに済んでよかったなスケこまし。供物がてめぇの生き血にランクアップされる前に足洗っとけ」
「ホンットそうデシタヨネエ~」
「なに俺に恨み節向けてんだよ。自業自得じゃねえか」
「ホンッッットーーーーに、そうデシタンデスヨネ~~~え?」
なにやら臍の横を押さえながら殺気立ってくれているシゾーを置いてきぼりに、自分もまた聞き耳を立てる姿勢へと身構え直す。いつでもばねを利かせることが可能なように屈身しながら、台座に身を隠したまま、意識を元来た側へと伸ばした。覗き見したいのはやまやまだが、こうにも頭から羽がこぼれてくれていては、光を吸うだに目に付くだけだろう。首を伸ばすのは幼馴染み―――どんぴしゃなことに毛先から面の皮・腹の中まで黒いも黒い―――に任せて、耳を澄ませることに専念する。に、せよ。
眼前を横切って、真横に陣取った彼へと、断っておく。
「分かってるっつの。様子を見るにしても、騒動の振幅と室内にいる人数が分かる秒数で切り上げる。判断の肝はキルルが無事かどうか、だ」
「判断?」
「一目散にトンズラかますか、トンズラかます前に一宿一飯の恩を踏み倒さずカチコミかけるか」
「気安く言ってくれますね。僕らの―――この今までの全部が全部、ご破算になるかもしれないことを。おじゃんで済むどころか、骨折り損のくたびれ儲けになるかも。分かってんですか? この分からず屋」
「けっ。俺の計算が合わねえのは いつものこった」
「臆病者のくせして」
「おうおう。合点承知の助じゃねえかシゾー。こわいとこは任せたぞ」
「うあ貧乏くじ。あーあ。僕も臆病風に吹かれときゃよかった」
「こんなお国の先っぽまでやってきといて、手遅れ千万なことガタガタ抜かすな」
「試してみます? 手遅れかどうか」
「しゃらくせえ。負け博打のしこり打ちにしたって、矛盾くれてんじゃねーぞ。臆病風に吹かれないとこまで、俺を蹴っぱなす。前に、そう立ち位置を自白したのはどこのどいつだ? 木枯しン中で仲良く並んでガタブル時間潰してられっか」
「んっとに屁理屈からして風上に置けない人ですよね、あんたときたら。今さっき実際に蹴られたのは僕じゃないですか」
「じゃあキックされた勢いで、もっと上行けるな。空か。あれかお前。神か」
「馬鹿こくにしたって馬鹿らしいでしょーよ馬鹿。馬と鹿どころか神と人までか馬鹿」
「―――あ。てめーこっそりと、なにしようとしてやがんだ。研磨石かそれ」
「もう片っぽ はキルルさんが持ってるんで」
「はあ!? ちゃっかりと仲良しこよしに、なに抜け駆けかましてんだコラ! 貸せシゾー貸せ! 俺に助けを呼んだところで、お前じゃ聞こえねーだろが!」
「だーもー独り占めしないでくださいよコレ一個っきゃないんだから! ほら、こうやって下から立たせるみたいに持つから、あんたは反対側から耳に押し当ててくれなさいって」
「へん、ドサンピンじゃねえならウスノロしでかすな。解決策があんなら、もったいつけてんじゃねえっての」
「解決する策かなぁ……今迄こんな使い方したことないし。混線するだけかも」
「知るか。祈っとけ。それだきゃあ出し惜しみすんじゃねえぞ。まったくもって、無料ほど高くつくものなんざ無ねぇんだ」
「身にシミてますっつの、そんなこと……あ、」
「どした?」
「台座の上の像。ここらへんから見ると、こかして踏んづけてくる時のジンジルデッデの、してやったりなニンマリ顔に瓜二つです。えんがちょ」
「マジでか。うわマジでだ。えんがちょ。悪ぃけどデデ爺、今回ぽっきりマジで見逃してくれな」
「ガチであの世からでもご都合主義モロ出しにしてやらかしにきそうだからなぁ……ジンジルデッデだし」
「だよなぁ。しかもデデ爺ときたら毎度毎度、それが自分の楽しみのベクトル増やさんがための八百長でしかないから、されるだけ俺らのドンパチ倍ドンすんだよな」
「しっかも今回の掛け金は、僕ら全員の命数と命運ですよ? そりゃ面白ぇやぽっちでサイコロ振られちゃ、こちとら洒落になりませんって。ううう、考えるだけでブルってくるぅ……」
「あーーーー畜生ーーーーっ、祈る祈るっ! 今回ばかりは目くらまし頼むぜ、カミサマ イカサマ ホトケサマ。あの出たら目に目を付けられませんよーに」
「ませんよーに。あ、」
「なんでい次々やぶから棒に」
「今ので最後のひとつ使っちゃったから、ジンジルデッデが本当に星になったんなら、きんきらきんの王冠だろうが七代祟る蛇神様だろうがお構いなしに、ガツンとブチ当たる方にどーしたって流れて来ちゃうんじゃあ……」
「そこはかとなく不吉さだけは伝わってくる風に目ン玉点にしてわなわなと血の気ひかせながら独りごちるな! なんなんだそれ!」
「だって……だって、しょーがないんですもん本当にこーなったら! もともと一から十まで一事が万事アンタのせいなのに!」
「なんで俺が悪いんだよ!?」
「そんなこと言ってないっ! ひどいっ! 謝れ馬鹿あっ!」
「あ? お。ご、めん?」
「そーだそうだ謝れ謝れぇっ! なんだよホントにもう本当にもう僕、僕だってえ……こうなるまで僕だってホントにホントに本っっっ当おおおぉぉオに頑張って……―――!」
「分かった分かった分ぁかったから泣き虫はお預けにしとけ! ええいクソ、任せろ! まとめて俺がなんとかしてやる! 大船に乗ったつもりで構えとけ! ……―――」
ひそひそとした すったもんだは、破れかぶれにも、今はとめどなく続く。嫌でも終わりにしてくれる終止符を先送りにするかのように―――真逆に、また好きこのんで始めてしまう切っ掛けとなる強調符の到来を手ぐすね引いて待ちわびるように。あるいは、今まで通りでしかないから、セオリーなりに、これからも。どれだとしても大差はなく……であるなら、どうであれ何もかも同じだとしても―――
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