テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

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エリザベスの訪問

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テューリンゲンは地方自治を仰せつかっている貴族のため、年に一度の頻度で爵位を持つ宮廷の使いという体で貴族が視察にやってくる。
その季節は5月、庭が最も美しい季節であった。


しかし、今年の視察はいつもと大きく違っていた。


今年の視察は宮廷の使いではなく、レグランド王妃エリザベス直々の訪問なのであった。
その報せは異例で前例がなく、テューリンゲン家はもちろん、村の民も5月を迎える準備の前からどこか緊張が漂っている。

そしてそれは、無論シムも同じく緊張を感じていた。





「精が出るわね、シム」

いつものように腰辺りまで泥を目一杯つけて庭で無心に薔薇と向き合っていたシムは、その声にハッと上体を起こし、袖で軽く泥と汗を拭きながら朗らかに微笑む。

「奥様、いらして、いたのですね。」

テューリンゲン夫人は砂利の敷かれている道をゆっくり歩きながらこれから咲くであろう蕾のついた薔薇の枝を見る。

「早く王妃陛下にこの素晴らしい花達を見て頂きたいわね、」

シムは少しはにかみながら、ぱらぱらと身体についた泥を払いながら夫人のそばにかけ寄る。

「王妃陛下に、見ていただくのは、す…少し緊張しますが、どれも今年も、キレイに咲いてくれそうです。この子も、あの子も…」

吃音の気は昔からで、夫人もそれをよく理解している上でゆっくりシムの言葉に耳を傾けてくれている。
シムにとってそのように優しさを見せてくれる夫人は唯一のおしゃべり友達のようで、一度話してしまうと楽しくて楽しくてシムはもっともっとと言葉が出てきてしまうのであった。

「王妃陛下はキレイな金色の、髪なので、
このグレアルをたくさん植えました。
今年の庭は、キレイな黄色と、白に包まれる、庭になるように。」

シムはとても嬉しそうに庭を眺めた。
夫人はその言葉を聞いて、そうなのね、と感嘆したように呟いた。
「なんて素敵な考えでしょう。今度私にも薔薇の選定を手伝わせて頂戴ね。」

「勿論です!
お怪我をしないように、ちゃんと棘を、切っておきます」

シムはより詳しく、今年の薔薇の特徴とほんの少し土の湿度が去年と違うかもしれないことなど、沢山の話を交わした。
最後に夫人はシムに部屋に飾る用の七部咲きほどの薔薇を花瓶に生けてもらった。

「いつもありがとうシム。
ところで…今晩、夕食を取った後に時間はあるかしら?
あなたに少し言っておきたいことがあるのだけど」

「?はい、俺はいつでも大丈夫です。
奥様のお部屋に、伺います。」

ええではそれで、と夫人は一つ頷き綺麗な生けられた花瓶を大切そうにもって城の中へ消えていった。
シムは何の話だろうと思いながら、中断していた庭の手入れを再会させたのであった。

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