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エリザベスの訪問
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しおりを挟むその日は早朝から村は大変慌ただしい様子だった。
日の出から少し経ち、沢山の馬の足音が響いてくる。
朝から畑で農作業をしていた農民達は慌てて頭を下げてその御一行を見送る。
少し早めの到着に農民達は勿論、テューリンゲンの城中も動揺していた。
おかげで迎える準備が未だ終わっておらず、シムも庭の水やりを早く切り上げて農民達と一緒に作物や動物達の搬入から解体まで手伝いで大忙しだった。
「その花瓶はこちらに置いて、そのお皿達はこのテーブルの真ん中にね。
あの布はそういえばどこに行ったかしらね」
夫人も朝から宴の指示に忙しかった。
ジェーンは昨日の昼から自室にこもって以来顔を出していない。
シムは少しでも考えると緊張の渦に飲み込まれそうだったので、この忙しさは寧ろ救いだった。
今日この日のためにシムは服を3回洗い、念入りに汚れを落としてベッドの下に挟みアイロン変わりとして延ばした服を来ていた。
それでも貴族から見たら見窄らしくよれよれなのだが、シムにとっては背筋もしゃんとする程の服装のつもりで着ている。
その時大広間の扉が音を立てて開き、その場で作業していた人達は皆その扉に視線を向け動きを止めた。
「続けなさい」
そこに立っていたのはこの北の地の領主、グリアム・テューリンゲン。
テューリンゲン家の長であった。
その低く静かな一言に召使い達は我に帰ったように敬礼した後作業に戻った。
「…っ、」
シムも作業に戻りながら内心では冷や汗をたたえていた。
シムは元来威圧感のある人間はとても苦手で、グリアムのような圧のある声と表情の男、貫禄のある髭を生やした人間は最も苦手な存在であった。
主人グリアムが大広間に降りてきたということは宮廷からの御一行の到着はもうすぐなのだろう。
幸い宴の準備もほぼ終わり、あとは並べる料理の出来上がりを待つのみになっている。
その時、玄関の間の方から甲高い笛の音が聞こえてきた。到着の合図だ。
召使い達は玄関の間に急ぎ、一列に並んで床を見つめた。
シムも急いで召使いの端に並び辺りを見回すと、ご主人様と夫人が門の前に向かった。
執事2人が大きな門を開けた先に、宮廷からの使者らは馬を停めていた。
芸術品のような装飾の施されている大きな馬車の扉を開けて、沢山の侍女とともに気品と崇高な空気を身に纏ったエリザベス王妃陛下が降りてくる。
シムは王妃陛下自身が芸術品のように見える程、御一行の煌びやかさに魅せられ息をするのも忘れた。
「ようこそ、ようこそいらっしゃいました。
辺鄙な場所では御座いますが、どうぞごゆっくり御滞在なさってください」
夫人は最高敬礼で王妃陛下をお出迎えした。テューリンゲンの主人グリアムも男性が女性に送る最敬礼でお出迎えをし、それに軽く頷きながら王妃陛下は可憐に笑った。
「素敵なお出迎えをありがとう、ゆっくりさせてもらいましょう。」
そう言って召使いを呼び、滞在中の荷物を次々に城に運ばせる。
荷物を持っていたのは予想通り、伯爵以上の爵位を持つであろう今後側近や司令官候補の貴族の子息達
であった。
それを夫人もグリアムも目敏く把握し、後ろに控えていた執事にこっそり部屋から出てこないジェーンを迎えにいくよう耳打ちをした。
「さあ王妃陛下、長旅でお疲れでしょう。
宴のご用意は出来ております。
ご子息様もご一緒に心ゆくまでお楽しみになってください」
そう言って主人が大広間へ通そうとするが、王妃陛下は立ち止まって窓の外を見るような動きをした。
「いえ、その前に庭を拝見したいわ。
それを楽しみにして来たの。
いいでしょう?」
その言葉に夫人も、そしてなによりもシムが身体を震わす程に驚愕した。
急に王妃陛下は何を言うのだろう。
掌の汗が止まらない程瞬時に緊張が身体を襲う。
夫人は一瞬驚きで返答が遅れたものの、勿論です!と返答する。
「どうぞご覧になってください!
庭は私どもも自信を持っておりますの。
有能な庭師を紹介させてください。来なさいシム」
夫人がシムを呼ぶ声に顔面を蒼白にさせる。
震える足で近づき、最敬礼で項垂れた。
「は、はい、奥様…」
「王妃陛下をお庭へご案内して差し上げて!
お花の説明もぜひね。」
その言葉に何とか頷くと、ぎこちなく立ち上がる。
「有能な庭師さん、さあ案内してちょうだい。」
王妃陛下の少女のような笑顔を見た直後、視線をさまよわせ、おぼつかない足取りで庭まで案内した。
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