テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

文字の大きさ
6 / 171
エリザベスの訪問

1-6

しおりを挟む







雲一つない快晴だった。
5月のレグランドらしいからっとした天気である。

その青色の空によく映えるように庭には白と黄色の薔薇が絶妙なバランスで咲き乱れていた。

王妃陛下はその庭を見渡し、気持ちよさそうに深呼吸をして微笑んだ。


「まあ、なんて素敵な庭なんでしょう…!」

シムはその賞賛に視線を彷徨わせたまま何と返せば分からず、結局何も黙りこくることしか出来なかった。
普段のシムならば嬉しくて顔をほころばせているところなのだが、今回ばかりは緊張で身体が言うことを聞かない。

そんなシムを気遣うように王妃陛下は言葉を続ける。

「この訪問は実は私の我侭なの、このお庭を拝見したいがためのね。
宮殿で噂なのよ、北の大地に綺麗な庭があると」

そう秘密ごとのように小声で話す王妃陛下の言葉に、思わずシムは顔を上げる。
この高貴な方は自分の育てた庭を見たいがためにわざわざ来てくれたというのか。
もしもそれが本当だったとしたら、なんて…なんて光栄なことだろう…

シムは気づけば感極まり、ありがとうございます…と震える声で呟いていた。
本来ならそんなくだけた礼など、ましてや王妃陛下に対する無礼極まりない行為だとしても、王妃陛下はその一言を受け止めるように微笑んだ。

「あなた20そこそこでしょう?
私よりも15程も若いあなたが、こんなに綺麗な花を咲かせるだなんて妬けるわね。
この薔薇はなんて言うの?」

そこからもうシムは自分の育てた愛情たっぷりの花達への説明を、どもりながらも楽しそうにゆっくりと始めていた。

「これは、グレアルという品種です!
虫に、少し弱いのですが、きちんと守ってあげると、本当に綺麗な色になります。
こっちはレグラニアガーデンで…」

一生懸命に説明するシムに王妃陛下も一生懸命に聞く、微笑ましい光景だった。
時折、これは宮殿にもあるが育ちが悪いのだ等、王妃陛下が所有されている庭の助言や情報を話し合っていた。





一方大広間では貴族の子息達や召使い、テューリンゲン夫妻が王妃陛下が中々庭から戻らないおかげで思わぬ暇を持て余していた。
子息達は元々さほど仲が良い訳ではないのか、若くは辺鄙な北の地方にこれといった興味がないのか、話に花が咲いている様子もなかった。

その中でジェーンはようやく大広間に姿を見せた。
皆の注目を集めるには十分な登場だった。

艶やかな長い髪を結って横に流し、薄い水色のドレスに身を包んだジェーンは可憐な姫君そのものである。

主人グリアムは足早にジェーンに近寄り、苛立たしげに声を荒げる。

「一体何をしていたんだ、全く。
もう皆様はとっくに到着しているのだぞ!」

ジェーンは然程気にしていない風に軽く頭を下げ申し訳御座いません、と平謝りしその姿勢のまま自分に視線を向けている子息達に会釈をした。

なんて綺麗な子だ…

子息達から思わず言葉が漏れる。こんな娘がいたとは、旅の目的地は捨てたものじゃないかもしれない。その可憐な少女に皆一様に生唾を飲み込んだ。

一方でジェーンは子息達には視線も合わせず、興味がなさそうな態度を見せ凛とした態度で席に着いた。

そんなジェーンの態度に子息達はますます興味を持つが、夫妻はジェーンの強情な側面を知っているため、どんな行動をされるか冷や冷やものであった。

魅力ある女性として振る舞えと、あの書斎で言っておいたというのに見事に強気な態度に、もはや主人はうっすら青筋を立てる。




その時、玄関の間から召使いが一人の大きな男を連れて大広間へと入ってきた。
主人グリアムに召使いがかけ寄り、「カスパル・ラザフォード様が遅れて到着されました。」と耳打ちをした。
主人は目を見開いて男を見たが、男が中に入った瞬間他の子息たちも皆目を見開いてその男を見つめた。


「ラザフォード将軍だ…」

その呟きとほぼ同時に、主人はカスパルの前に立ち敬礼をする。
カスパルもまた、軍人らしく堂々たる出立ちで敬礼を返した。

「テューリンゲン殿、突然の訪問申し訳ない。
私は護衛軍を統括するカスパル・ラザフォードと申します。
この村の2つ先で、山賊が出たため王妃陛下の帰還に同行するためこちらへ参りました。」

聡明そうな雰囲気を纏い、男らしい低く落ち着いた声で自身を名乗り上げる。
自信のようなものが男の身体から滲み出ていた。

カスパルはレグランドの同盟国であるルージッドの高名貴族ラザフォード伯爵の第一王子。戦技の才に大変恵まれていることから若くから国のために働き、レグランドの宮殿に派遣され活躍している、子息達から見れば光の存在であった。

カスパルは子息達へ顔を向け、久しいなと笑うものの子息達の顔から緊張は抜けていないようだった。
そんな微妙な会話がされている頃、ようやく庭に通じる扉が開き、外から幾らか緊張のほぐれた表情のシムと、まだ話足りなそうな王妃陛下が中へと入ってきた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

処理中です...