テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

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エリザベスの訪問

1-7

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「ふふ、まさかあなたが来るなんてねカスパル」



宴は楽しく紡がなく行われていた。

王妃陛下を真ん中に、囲む様に子息達が座る。王妃陛下の右隣にはカスパルラザフォード、左隣にはテューリンゲン一族が席に着いている。

カスパルは礼儀を払いながらも豪快に北の恵みをたいらげていく。それは見ていても気持ちい程の食べっぷりであった。
「王妃陛下のお迎えです、私ですら役不足なくらいですよ。
それにしても、北の食事はなんと美味しい!酒も肴も絶品だ。」

そう口元を拭きながら王妃陛下の言葉に陽気に応えるカスパルに王妃陛下は呆れたように返した。

「こんなにお付きがいるのに貴方まで来てしまったら堅苦しいわ、私は楽しみに来たというのに」

「執事から伺っておりますよ。
何でも庭を見たいがために我侭を貫かれたとか?」

カスパルは意地の悪い笑みで王妃陛下をからかう。

カスパルは将軍といってもまだ25歳、一方王妃陛下は38。2人のこの砕けた会話は、外野は中々冷やりとする部分があるがこの2人が仲が良いこともまた有名なので会話を止める者は誰もいなかった。
子息達は2人の話に頷き笑うことに必死な面持ちでもあった。

「執事が話したのね。
そうなの、…とっても綺麗な庭だったわ。
そっくりそのまま持ち帰りたいぐらいにね」

それは無理ですな、と笑いながらも、そこまで感激している王妃を見てほお…と庭に関心を持つように窓へ目を向ける。

「そこまで褒められる庭か…。
それならば明日私もぜひ拝見してみたいですな。」

「あら、それはいいわ!
可愛らしい庭師のお話も聞くと良いわ。
きっとあなたも気に入る子よ。
とても可愛らしいんだから。」


ぱあっと顔を綻ばせ、今この宴にいないシムの話題が上がる。
その言葉に一言も発さず話を聞いていた夫人が嬉しそうに声を上げた。

「王妃陛下、シムを気に入ってくださって光栄ですわ!
庭の綺麗な色も、王妃陛下に似合うだろうと彼なりに考えた配色なんだそうですのよ」

それを聞いて王妃陛下はさらに嬉しそうにコロコロと笑う。
「そうだわシムという名だったわ、私の為にあの庭を…
本当に、あのまま持って帰ってしまいたい」
カスパルはその言葉に苦笑しながら酒をあおぎ、ジェーンはその遠くで嗜めるようにカスパルを見つめていた。







一方シムは殺風景な自室のベッドに倒れたまま放心していた。

今日の出来事は、夢だったのかもしれない…

自分がまさか王妃陛下という崇高な方と、花についてお話する時が来るだなんて。
王妃陛下は予想外に植物について詳しかった。話を聞けば学生時代に母親と庭いじりを嗜んでいたとかで知識を付けられたそうだ。

自分が愛情込めて育てた花にあんなに愛情を持って接してくれる人物はそういない。
目を閉じたら嬉しくて泣いてしまいそうな程シムの心は今震えている。

綺麗に咲いてくれてどうもありがとう…

口の中で花達に礼を言う。これは毎年シムのかかさない習慣だが、今回の礼は特に心の籠った礼となった。






宴で皆の酔いも程よく回った頃、カスパルの隣には柔やかに微笑むジェーンが座っていた。

「王妃陛下と母上、とても楽しそう」
王妃陛下と夫人の会話を楽しげに見やる。

「王妃陛下も元気なものだ、旅で疲れただろうにはしゃいでおられる。」
そう呆れながらカスパルは空きそうなグラスを傾けようとするが、カスパルの厚い胸板をそっとジェーンが触れた。

「お注ぎしますわ、カスパル様」

ジェーンは少し艶やかに見上げながら、ボトルを持ち上げる。
その様子をカスパルはどこか複雑な表情で受け止める。

「ああ…では、…お願いしよう」

ジェーンはお酒を注ぎながら「実は私…」と話を切り替える。

「私、火遊びをしたことがありませんの。
それなのにこんな歳の近い男性方とご一緒するのは、緊張しているのです…」

「齢14とあらば当然のことでしょう。
まあ確かに緊張するだろうが、あいつ達は悪い奴じゃありませんよ」
顔をくいっと子息達に向けながら、少し固く返答するカスパルにジェーンも負けじとあどけない表情で唇を尖らす。

「私はまだ咲かぬ蕾、父上からも心配されてます。
この私に優しく手解きしてくださるような男性を…探しているのですが、カスパル様は…その、」


その言葉に続くものを感じ取ったカスパルはぴくりと表情を固くした。


レグランドでは貴族は特に早期結婚文化は珍しくはないが、カスパルには大人の身体にもなり切れていないような少女に興味があまりない。

しかしこんなに未熟な少女が一生懸命色仕掛けの真似事をしているのが、何とも可哀相に見えるのもまた事実。
なんと応えてやればこの子が傷つかずに済むのだろう、カスパルは考えた末にやはりきちんと言うに越したことは無いという結論に至った。

「すまない…私は成熟した女性以外には
興味がないのだ…」

そう言いながら胸に添えられていた手をやんわりと退けた。

「……。」

ジェーンは目を見開き数秒カスパルを見たものの、今の会話は一切なかったかの様に立ち上がり、廊下の方へと去っていってしまった。

カスパルは傷付けてしまった申し訳なさでジェーンの背中を見つめた。





 




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