9 / 171
エリザベスの訪問
1-9
しおりを挟む「えー、本日は村の作物庫視察と、村の役人を交えた会食、それから…」
テューリンゲン主人グリアムの伝える今日のスケジュールをカスパルと夫人は馬車の中で静かに聞く。
「以上で御座いますが、何かご質問がありましたら…」
カスパルは主人の言葉に大丈夫だ、とだけ返す。
エリザベスは少し咳払いをし「今日はいつ城へ戻れるかしら?」と質問する。
「本日は午後18時を予定しております。到着したらすぐに晩餐会の準備がございますので」
エリザベスはありがとう、と伝えるがカスパルはどこか複雑な表情で黙っていた。
いつもと少し様子の違うカスパルの変化をエリザベスは見逃さずカスパルの脇を肘でつつく。
「城へ帰ったらシムに謝るのよ。」
その小声にカスパルはぎょっとする。
「何故ですか」
「当たり前でしょう。
貴方に無礼を働いている訳ではないのに、貴方があんなに怒ってシムを傷つけたのよ。」
カスパルはその言葉をバツが悪そうに受け止め、馬車の窓の外を眺める。
その小声に反応したのはテューリンゲン主人のグリアムであった。
「うちのシムに謝罪ですと、
何かありましたのかな?」
その言葉にエリザベスは微笑みながら、なんでもないの、と応える。
「本当に大したことは無いの、
カスパルが悪いだけよ。」
何か無礼を働いたのならばこの家の名前に傷が、と冷や汗をかきそうになったグリアムだったが、これ以上深く聞くことも憚られ、そうですか、と少し息を吐き気になる話題を持ちかけた。
「ところで、ラザフォード様
我が一人娘ジェーンですが、まだお話されておられなかったらぜひ、今夜にでもお話されてはどうでしょうか?
なんでしたら寝室にも寄越すことは出来ますぞ。
飽きない子です。」
グリアムの言葉にカスパルは軽く右手を降る。
「いや、昨日話はしました。
溌剌としていて子どもらしい、良いお子さんです。」
カスパルはその言葉に性的対象としては見ていないことを含む。主人もそれを感じ取ったのかそれはそれは…とつまらなそうに話を終わらせる。
エリザベスは「あら、モテるわね」と揶揄うがカスパルはその様な冗談に付き合う気持ちがないのか振り向かず窓の外を見やるだけだった。
「実はテューリンゲンさん、私からも少しお願いがあるのだけれど…」
その言葉に婚儀についてかと目を輝かせながらはい、と主人はエリザベスを見つめた。
「シム、昼飯置いといてやったのに食べて無いじゃないか~」
庭の遠くの方で馬引きの召使いが布に包まれたシムのパンをレンガの詰み上がった上に乗せる。
その言葉にシムは振り向きもせず庭仕事に没頭した。
「うーん、だめだこりゃ…」
全く聞こえていないシムに、馬引きの男は肩をすくめ自分の持ち場へ戻る。
シムはあの午前の一件から一度も屋内に入っておらず、言葉を発さず、無心に庭仕事をし続けていた。
もう時刻は夕方の18時、5月とは言え辺りはとてもひんやりしてきている。にも関わらずシムはよれたシャツ一枚で作業に没頭していた。
シムは今朝カスパルの怒りを一身に受け止め、狼狽したものの今は冷静に頭をゆっくり整理出来るようになってきていた。
先程は怖いとしか思えなかったが今思えば自分はそう言われてもおかしくない程、いや言われるべき程の挙動不審ぶりだっただろう。
何よりも花達の説明をこれっぽっちもあのカスパルという男にすることが出来なかった。
一番可哀相なのは花達だ。
自分で育てた自信のある綺麗な庭で、あんな嫌な空気を作ってしまったのは、全て自分の態度にあるのだ。
もう一度説明させてもらいたい。
カスパルの庭に関心があったということに、シムもきちんと花を用いて応えたい。
「せっかく、綺麗、なのに俺のせいで…」
切ない気持ちでそっと満開の薔薇に指を置く。
薔薇達の良い香りに背中を押されている気がした。
しかしまだ作業が終わった訳ではないので、どこかすっきりした表情で蔦の選定を開始させた。
エリザベス率いる御一行は予定通りに城へ戻り、そのまま大広間で晩餐会へと予定を移行させた。
だがエリザベスのみ最後の視察である収穫の書類に目を通すため、グリアムの書斎へと消えていきカスパルのみが先に大広間に通された。
一人になり暇を持て余したカスパルは大広間のソファで食前酒を少々嗜んでいたが、やはりシムが少し気がかりでそわそわと鐵持ち無沙汰にしてしまう。
このまま一言も声をかけないのもまた、人として如何なものかと考えたところで、唸り声のような音を口から出し乱暴にグラスを置き召使いを呼んだ。
「はい、如何致しましたでしょうか?」
「すまない、シムを部屋から呼んでくれないか…」
召使いは一瞬呆けた様に「シムですか…?」と驚いたものの、
頭を下げ「シムでしたら今日は朝から一日庭に出ておりますが…」と告げた。
その言葉に、ん?と窓の外を見やればすっかり外は暗い。
こんな夜まで作業をしているというのか、まさかあの朝からずっと。
カスパルは召使いに礼を言いながら、立ち上がり庭へと続く扉へ向かった。
扉を開ければ案の定泥だらけのシムが暗闇の中でも見つけられた。
何をしているかは暗すぎて判断がつかないがその動きは庭師の仕事内容を知らないカスパルが見ても丁寧な動きである。
カスパルは砂利の細い道へと足をつけ、ゆっくり庭作業をする青年へと近づく。
「…精が出るな。」
カスパルは恐る恐る話しかけてみる。
話しかけられたシムはもっと恐る恐ると振り向いた。
53
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~
TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】
公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。
しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!?
王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。
これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。
※別で投稿している作品、
『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。
設定と後半の展開が少し変わっています。
※後日譚を追加しました。
後日譚① レイチェル視点→メルド視点
後日譚② 王弟→王→ケイ視点
後日譚③ メルド視点
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる