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成長、彼の情
3-10
しおりを挟む冷めたオムライスを綺麗に平らげた小風とシムは、無骨な男に挨拶をしながら酒場を後にした。
「あっしたぁ!」
無骨な男はその顔つきに似つかわしくないほど笑顔で見送ってくれ、シムはその表情に目を見開くも、彼は職人気質で神父に似ているかもしれないと思うと、またここに来たいと思った。
「さあ、再開だ。
君の喜びそうな所に連れて行ってあげるよ。」
そう言って再びシムの腕を取った小風は慣れた様に大通りの雑多な道を難なく掻き分けて進み始めた。
シムはこの乱雑な光景がやはり慣れず、覚束ない足取りで小風の後に続く。
「少し大通りから離れるよ。」
そう言って華やかな大通りから一転、静かな日陰の細い路地に入った。
「わぁ……」
本当に城下町は道の雰囲気がそれぞれ全く違うのだなとシムはひたすら感心をする。
細い路地には商人は殆どおらず、怪しげな占いをしているらしいランプを掲げた老人一人ぐらいであった。
路地を小風はぐんぐん進み、シムも周りを見ながらもついていく。
上を見上げれば青い空の下にいくつもの紐が家と家の間に掛けられ、様々な洗濯物が干されていた。
「ど、どこへ行く、の」
あまりに説明が足りていない小風にシムは些か不安になり、短く問う。
小風は一度シムを見たものの再び前を向いてしまった。
「あと少しだよ。」
小風の返事に不安は消えず、今まで二人が通ってきた道をちらちらと見返す。
見慣れない街でこの速度での歩行はより不安に思えた。
細い路地は進むに連れてさらに細くなり、通る風も心なしか冷たくなってきている様に感じる。
行き止まりになるのだろうかという雰囲気を醸し出した瞬間、広い場所に出た。
どうやら細い路地は抜け道のようになっていたらしい。
突然視界が開けたことで一気に太陽光も再び降り注ぎ、シムは思わず目を瞑った。
「眩しい…」
シムの腕を取りぐんぐん進んでいた小風も足を止め、そのタイミングでシムは徐々に目を開いた。
「わ…!
す、凄い!!」
そこに広がっていたのは、広い公園に沿う様に設けられ広い面積を有した植物市場だった。
植物市場は遠目から見ても花の品種から薬草、観葉植物から種までの品揃えがある事が伺えた。
シムは感動のあまり小風に掴まれていた腕と反対の手で小風の腕を掴むほど感動を表現する。まるで今にも大人気なく飛び跳ねそうな勢いだ。
「君にここを見せたかった。
僕の生まれの東洋の花はないけれど、近隣諸国や珍しい海洋植物や高山植物にお目にかかれると思うよ。」
小風はさあ行っておいでと言わんばかりにシムの背中をそっと押してやる。
シムは目を瞬きをしながら、よたよたと初めて飛ぶ小鳥のように一人で市場へと向かっていった。
そんなシムの小風の細い背中を後ろから見やりながら、立派な20代がその歩き方はなんだ、と吹き出しそうになりながらもどこか満足げな表情を一人で浮かべる。
シム、君の気晴らしになれているか。
僕は友人として君の為になれているか。
きっとなれているはずだ、と小風は自分を肯定する。
シムを今日外に連れ出して良かったと小風は思うことにした。
友人としてやれることは決して多くないが、小風はシムにのびのびとこの場所で過ごしてほしいのだ。
小風も後を追う様に市場の中へと入った。
シムは薬草の集まる一角で丸くなり熱心に草花を見て回っていた。
「見たかった草が、こんなに、集まっているなんて…。
あ、あれも!図鑑で見た印象より、ずっと葉が大きい。」
すっかり自分の世界に没入しているシムの側で、何も言わず生い茂る草を掻き分けて小風は後をついていく。
「植えるならこのカッコ草ってのがいいぜ。
背も低いし根付きも良いし家庭菜園向きだ。」
不意に後ろから声をかけてきたのは、今シムの見ている店の主なのだろう腰巻きを付けた大柄な男だった。
その声に小風とシムは同時に振り返るも、シムは先程見ていた葉にすぐ目線を戻した。
少し大柄の男の雰囲気に緊張してしまい直視しながらの会話は無理だと瞬時に判断した為だった。
「い、一年草ではない、薬草が欲しいん、です。
自生してくれる、ような虫を避ける、ような…」
背中を向けたまましどろもどろに応えるシムにあまり動じず店主は少し考えるような動作をして、それなら…と呟く。
「それだと3種くらいあるなぁ…。
ちょっと来な。」
シムは背中越しの店主が種を返して動き出す気配を感じて急いで振り返る。
小風も一度シムを見てから、もう一度店主を見た。
「ついていく?」
一応念のための小風からの問いに、シムは一瞬悩むも頷き足を動かした。
店主はどうやら同じ市場の薬草を売る仲間と話をしているらしかった。
話し振りからとても親しそうに感じ、二言三言終えた店主はその知り合いらしい仲間の薬草を手に取った。
「これなんかは自生をするやつの中では一番扱いやすいぞ。」
そう言ってシムに見せてきた薬草は茶色の茎から大きな葉が疎らに生えている薬草であった。
「これ、薬草…なんですか?」
「あぁ。こいつは葉をな、すり潰すとスーッと鼻に抜ける様な匂いに変化すんだよ。
腫れ物に効くんだぜ。」
そう言いながら薬草を元あった場所に置いて次の場所に行こうとする。
「今のは勝手に木になるから、長い目で見りゃ、森になりそうだけどな。」
シムは店主の後をつきながら、急いで首を振った。
「も、森はだめ、です。
成長、しても、低い背丈の、ものは…ありますか?」
店主は一度立ち止まってシムを見るも、その傍らに佇む頑固さに少し肩を竦めて再び歩き出した。
「そしたら…このサリなんかどうだい?
背丈も低いし自生も可能だ。」
店主は、背丈が低く小さな葉が隙間を空けて生える植物を指差す。
シムはその草にかけ寄り、じっくりと観察をした。
背丈も主張しすぎない見た目もシムの理想に近い見た目をしていた。
「こ、これ、いいですね!
薬草としては、どんな効果が…?」
「あ~、薬にはなんねぇんだよ。
薬草というよりは毒草の類いでな」
その言葉にシムはあからさまに肩を落とす。
教会の周りに毒を植える訳にはいかない。
小風は落ち込むシムの背中に触れ、耳元に口を近づけた。
「残りの1種も見てもらおう。」
シムは小風なりに励ましてくれている事を感じ、控えめに微笑み顔を上げた。
「うん」
「……。」
店主は無精髭を指で軽くさすりながら、シムを感情の読み取れない表情でじっと見つめていた。
「そしたら、最後はその棚の上にある薬草だな。」
店主の指を指した棚には大小様々な苗木が置かれており、棚の右上に置かれた薬草は他とは少しが色味が違い、その存在を際立たせていた。
「あの、白っぽい葉の…」
「あぁ、それだ。
ウサギ草っつうんだけどな、葉の形が耳に似て色味もウサギに似てるんだよ。」
そう言って店主は髭を手で弄りながらただ…と言葉を続ける。
「こいつは土地に根付かせるのがなんとも、難しくてな…。
元々高山植物の従兄弟みたいなもんだから、…少しの間は手がかかるぜ?」
シムは棚の上のウサギ草をじっと見つめ、心を決める。
難しい、難しくないなどの理由で諦めるという選択肢はシムの頭の中には本来存在してなかった。
「こ、効果は?
効果は、何があるんですか?」
詰め寄るシムに若干店主は目を見開く。
店主は考える時の癖のようなのか、再び自らの髭をがさつに触りながら、何だったかを思い出す仕草をした。
「ん~…お、思い出した!
煎じて飲むと身体が温まるんだ、東の方の"漢方"っていう治療にも使われるんだよこれ。」
シムはほうほうと感慨深そうに頷きながらウサギ草を見つめた。
すると奥の方に一度潜っていた店主の顔なじみらしい小汚い男がひょっこりと頭を出して口添えをしてきた。
「寒い寒い高いお山でよ、この草だけが温さを人にくれるんだよ。
山の守り神だよな~」
そう詩人の振りをしながら歌うように言う男を、店主はクサい奴だな…と半ば無理矢理押し込めるように奥へと追いやった。
しかしシムにその言葉は確かに心に響いていた。
守り、神……
山に生い茂っているだろうこの草はそこに訪れる生き物を見守り温度を与えるのは、まさに寒々しい教会に相応しいのではないかと心が震えた。
「……さい」
小風はシムのあまりの小さな声にん?と顔を寄せる。
「どうした、シム?」
小風は注意深くシムの表情を読もうと覗き込むと、そこには予想よりもキラキラと輝く目があった。
「こ、これ…欲しいんですけど。
なるべく、あるだけ欲しいんですけど!」
シムの押し倒さんばかりの勢いは、小風を怯ませるほどのものがあった。
店主は太い腕を組みながらタダで寄越せと言われたのかと勘違いしたのか大きな声で反論する。
「おいおい、タダじゃねえからな!
儲けになんねえだろ、兄ちゃんも言ってやれよ。」
小風を顎で指しながら不満そうに零す店主に、小風は一度片手を上げて静止する。
そして長い手を顎に当てながら、何か考えてからシムに向かって口を開いた。
「宮廷に仕入れることは可能だが、恐らく庭師の責任者に一度話を通してからの方がいいんじゃないか?
庭師長は確か…」
「み、ミシアさんです」
「ミシアだな。
そしたら宮廷に帰ったらその方に頼んでみると良いよ。」
小風は店主を見る目とは打って変わり優しげに細められ、シムの肩に手を置く。
そんなやり取りを腕を組みながら聞いていた店主は何だか話が纏まったようだと一息付く。
縒れた煙草を胸ポケットから取り出しマッチを摩る。
しかしその目はやはりシムをじっと観察するように見つめていた。
そしてニヤッと笑うと
「まあ、また来な。青年」
この場で今買う気がないことが分かったのか、店主はシムを一度じっと見た後煙をふうと吐いてから片手をひらひらと上げて自分の持ち場へと帰って行った。
「あ、ありがとう、ございました!」
去っていく背中にシムは慌ててお辞儀をするも、その身体が振り向くことはなかった。
小風はシムの身体を起こさせ軽く笑った。
「どうせだから、花も見ていこう。
今の時期はきっと綺麗な花が揃っているよ。」
シムが薬草を見ている間、そっと側にいてくれたことへの感謝を募らせ、幸せを噛み締めながらと一つ頷いてみせた。
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