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成長、彼の情
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しおりを挟む植物市場の鑑賞花の苗木や種の場所は薬草の場所からあまり離れておらず、薬草の場所よりも随分と華やかな雰囲気であった。
それぞれ細かく区切られた区画で売る店主も女性が目立つ。
まさに先ほどとは全くの別の場所の様相だった。
やはり、花は美しい
なんて高潔な存在なんだ。
宮廷に来てから華やかに咲く花は、ミシアの手掛ける正門周辺の庭でしか見ていなかったので、シムは久々の花に静かに感嘆する。
やはり自分は花が心から好きなのだと再認識した。
「綺麗だな。」
シムの感動する気持ちを汲み取ったのか全く同じ気持ちを味わっていたのか、小風は花達の前で呟く。
「うん、本当に、綺麗だ。」
小風とシムは穏やかに流れる時間の中でゆっくり歩きながら花を楽しんだ。
花の中には手のひらを広げても足りないくらいの大輪を掲げる立派なものから、小さな花をぎっしり咲かせるものまでひしめき合っているがそのどれもが全て違う形色をしている。
「この薔薇なんて、特に立派だな。」
小風はシムに見せる様に大輪の真っ赤な薔薇を掌で前に寄せる。
わぁ、とシムはその圧倒的な存在感に息を漏らす。
「すごい綺麗な、赤ですね」
シムは薔薇を見つめながら数ヶ月前に言われたテューリンゲン夫人の言葉を不意に思い出した。
"今年私にも薔薇の選定を手伝わせてちょうだいね。"
もしシムが宮廷に行っていなければきっと今頃の時期、テューリンゲン夫人と黄色の薔薇グレアムの選定をしていたのだろう。
夫人はたまに手伝ってくれていた。
そんな彼女にシムはどこか母親に寄せる様な感情を抱いていたことも否定できない。
そしてそのグレアムは、シムが王妃陛下の為に植えた薔薇であり、シムがカスパルに初めて見せた薔薇でもあった。
シムが初めてカスパルと話が出来た薔薇だった。
「……」
カスパルへの感情の名前に悩み苦しむシムだが、出会ったあの頃を思い返すとやはり心に広がる気持ちは、幸福の一言だった。
「カ、……カスパルさんに、初めて見せた花も、薔薇だった。」
小風の前でカスパルの名前を出すのはやはり先日の気まずさを引くものがあったが、お互いの唯一の知り合いはやはりカスパルで、さらにこんな幸福な思い出をくれたカスパルにどんな感情を抱いていたとしても、避ける事の方がシムは失礼な気がした。
小風はシムからその名前が出る事に若干驚くも、悟られない様あえていつも通りの飄々とした態度をとってやる。
「それは、初耳だな。
こんな赤色の?」
シムは、わざといつも通りにしてくれているのだろう小風の優しい態度に些か安堵し、首をふるふると横に振った。
「黄色!
グレアムって、言うんだ。」
ここにあるかな…と呟くシムはとどうやら小風に見せたくなったらしく、側で見ながら笑みを噛む。
先日はあんなに動揺していた癖に、結局カスパルの関わる話題はこんなに楽しそうに話すのだから小風はいじらしい気持ちも湧く。
カスパルに見せてやりたいくらいだ、いややはり見せたくないかもしれない。
優越感に似た気持ちさえあった。
小風とて、シムに対して名前の付け難い感情が混ざっていることは否定できないが、小風にとってもカスパルは大切な旧友である。
二人がやはり穏やかに笑えるのであれば、この大変な情勢の中
幸福な事に思えるのであった。
「早く見つけ出して僕に見せてくれ、グリアン…だっけ?」
先程の話をあまり聞いてなかったのか、とシムは思わず吹き出しながら小風へと顔を向ける。
「グレアム、だよ!グレアム」
あははっと、小風の間違えたグリアンという名前が妙にツボに入ったのか珍しく声を出して笑うシムに、小風は変な男だな君はと呟きながら一緒に笑った。
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