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無力の力
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しおりを挟む「憲兵がいない今、移民を受け入れるのは治安を壊滅させる恐れがあります。
ここは少し様子を見た方が…」
「いや、私達の屋敷の復興が何よりも先でしょう!
その為に何としても財源を確保するべきです。
今直ぐに移民受け入れと税を徴収しましょう!」
「それよりも身の安全を確保すべきです!
ここはもう安全ではない。
我々貴族は疎開し他の場所に新宮廷を再建しましょう!
その為にも税の増額を図るべきです!」
一日が経過しても前に進まない平行線の会議に国王は黙ったまま鎮座していた。
唾を飛ばす勢いで持論を続ける周りの貴族の大臣達の言葉はどれも的を得ている様で自分本位な意見ばかりだった。
国王は難しい顔をしながら腕を組んでもう何時間も経つ。
軽く脂汗さえかいていた。
国王はこの不測の事態は全く予想だにしておらず、家族や王族の為にお金を市民一同が自分に尽くすことを不思議に思わない環境で成長したせいか、国の民が何に腹を立てて武力行使にまで発展してしまったのか理解に苦しんでいた。
何故怒る?自国の上流階級の暮らしが豊かな事は、即ち国の繁栄と同義であるというのに。
原因が分からなければ対策も分かりようがない。
しかし国王は以前の近隣諸国との定例会議で改宗する事を発表し大反感を食らっており、その影響で近隣諸国との平和同盟も離脱してしまった。
自国はどこよりも強くどの近隣諸国よりも秀でている事からの過信だったが、国王はその判断を失敗だとは思っていなかった。
どのみち事件が起こらずとも財源は枯渇していたのだ。
移民受け入れは必須だった。
しかし憲兵も行方知らず、その他の軍も宮廷の護衛に稼働させてしまっている為、確かに移民を受け入れた場合起こりうる事態に備える人員は完全に欠員していた。
「移民の受け入れは確かに一時見送った方が得策かもしれないが、財源の確保はどうするべきだろうか。」
口論し続ける大臣達に国王は問いかける。するとお互いを否定し合っていた者達はこぞって口を開き始めた。
「ですから増税を!」
「個人で所有している建物や土地を国の物にする法律を作るのはどうでしょう!」
「増税で市民が怒っていると言う話も聞きます。
宮廷の運営資金を絞った方が良いのではないでしょうか。」
「おかしなことを言え!
税金は国民の義務だぞ、下々に起こる権利などないわ!」
やはり多い意見としては増税という言葉が多く飛び交う。
国王もその案が得策なのではないかと考えていた。
「よし、そうだな。
確かに税金を納めるのは国民の義務だ。
今回の事件の責任を己達で取らせる形で、増税の発表しよう!」
国王の言葉に、殆どの者がその言葉を待っていたかの様に快活な拍手で賛同する。
「移民の受け入れも一時見送る。
自国民ではない者が籍を移すことも一時禁ずることにする!」
国王の発表に皆一様に何かに記しながら拍手を続けた。
国王の発表を聞き終わった後大臣達は思い思いに腕を伸ばしたり首を鳴らしたりし徹夜の身体を慰めた。
「たった今私が申した事は号外として宮廷内外問わず明日には発表するのだ。
そしてもう今夜はお開きにしよう。」
国王も披露した様に幾分か隈のある目元を抑えながらひらひらと片手を泳がせて退席を促した。
大臣達は一人一人立ち上がり鎮座する国王に向かい敬礼をして退出していった。
出て行くばかりの扉から一人の執事がトレイを持ったまま器用に入室してきた。
「国王陛下、お待たせ致しました。
軽食をお持ち致しました。」
執事はそう言いながら傍に備えられている飾りの小さなテーブルにトレイを置いた。
「ああ。」
国王は疲れた様に返事をし片手を伸ばした。その他に執事はすかさずカップを持たせる。
「国民はそこまで怒る事だろうか。」
お茶を啜りながら一言零す。執事は頭を下げたまま答えた。
「国王陛下の御心を察せず、私も心が痛みます。」
予想できる言葉を聞きながら国王は何処かあらぬところを見つめながらクッキーに手を伸ばした。徹夜の身体に甘いクッキーは幾分か気持ちがましになった。
あの、と執事はやや顔を上げながら遠慮しがちに国王に話しかけた。
「陛下…この様な事を陛下の御耳に入れる程ではないという事は重々承知しているのですが、少々気になるものを拝見致しまして…」
国王はカップから執事に目を向ける。
「気になるもの?」
「はい陛下。先程夜食を取りに向かっていたところ、この様な時刻にも関わらず図書館に灯りが点いておりまして、中を覗いてみたところここに働く身分の低い者が本を漁っていたのです。」
国王はカップを荒々しく起き、なんだと!と声を少々荒げた。
「身分の低い者が本を?!
何と文武不相応な。
侵入罪で処罰しろ。」
「はい、…それが、その者はきちんと護衛軍から許可を得て夜本を読みに来ている様なので御座います。
しかし読んでいる本は幼児の読む様な絵本を漁っておりました。」
非常に奇妙そうに話す執事の顔に釣られて国王も奇妙そうに眉を寄せる。
なぜ身分の低い者が幼児の本を漁るのかさっぱり理解できないでいた。
「幼児の本を…?
知恵遅れなのか?
その様な者を何故入廷させたんだ。
一体どこの誰だ。」
「はい、其処までは私も分かりかねますが、その名はシムと言う男で、庭師をしている者の様で御座います…」
シム?国王は一度その聞きなれず言いなれない見知らぬ名前を呟いた。
どちらにしも知恵遅れで、かつ許可を得ている以上何かをしでかさない限りは問題はないかと判断するが念のため執事に対して口を開いた。
「一応、何かをしでかさないか気を付けて図書館を気にして見ておけ。
万が一盗んだり怪しい部分があれば直ぐに幽閉でもしてしまえ。」
「畏まりました…」
一度頭を下げる執事を見ながら国王は再び紅茶を口に含む。
シムか、と国王はもう一度だけ小さく呟いてみた。
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