114 / 171
無力の力
4-32
しおりを挟むイリス率いる反政府組織の者達は、再び本拠地である酒屋の隠し部屋に戻った。
その道中、無駄口を叩く者は誰一人おらず、表情も暗い面持ちであった。
本拠地の椅子に着席しても尚その静寂は続く。
皆、イリスの発言を待っていた。
イリスはテーブルの上で腕を組み、項垂れるように下を向き冷静になろうと考えた。
キンバリー、否、小風の声が頭の中に蔓延り、永遠と再生を繰り返す。
あれは間違いなくカスパルの友人として紹介された東洋人だった。
よりにもよって何故あいつ一人が貴族として捕らわれているのだ。
あいつは貴族ではあるものの異国人。
顔形がまるで我々とは違う。
おまけに貴族と言っても養子縁組なのは明らかだろう。
その様な者を宮廷の前で惨たらしく処刑したとして、誰の心に響くというのだろう。
「…皆、意見は一つだと思う。」
誰も言葉を発しないこの場で、重い腰を上げるように静かに語り始めた。
そのイリスの少しかすれた少年と青年の間を彷徨う声色に、姿勢を正しイリスに目を向ける。
「今、あの貴族を処刑したところで貴族や王族が動くか怪しい。
その理由として、今の時点であいつを全面的に捜索する様な動きが一つもないからだ。
それならばやはり他の従者だった捕虜から使う他ないだろう。」
「でも、従者達を殺したら…、街の者の中にはその家族や知人だっている筈だぜ…。
市民からの信用を失う恐れがあるんじゃないのか。」
咄嗟に出席している一人が反論する。
その意見もごもっともである。
そう言うようにイリスは、深く帽子を被った頭で頷き、話を続ける。
「その通り。
処刑したら今度は住民の味方を失いかねない。
だけど選択が遅れれば、王政に先手を取られる可能性は高い。」
「俺の考えなんだが、近いうち…明日晩にでも声明を発表するのはどうだろう。
もうこちらは情報を得ている、貴族どもが疎開しようと亡命を画策しようと全て先回りして阻止出来る情報も手段も用意している、てね。
そうすれば屋敷を失って匿われている貴族どもと国王は真相究明や手配で混乱するだろう。
その混乱の間、こちらにも時間が生まれる。
その間に従者達から別荘や頼りそうな親類の情報を聞き出すんだ。
素直に話せばきちんと帰すし、話さなければ処刑する。」
どうだろう、と話を終わらすと周囲の者達の反応は実に様々だった。
それしかないだろうと頬を緩める者、
そんな心理戦が果たして本当に上手く行くのだろうかと眉をひそめる者、
従者を利用することにどうしても臆する者、
全ての者の気持ちを手に取るようにイリスの心に入ってくる。
どの感情も当然の感情だ、少々無理な案であることも承知している。
しかしイリスは一貫してこの内乱をなるべく早く収束させたい思いが念頭にあり、この些か強引な手段が最も速度のある案には違いなかった。
イリスは戸惑う者もいる中、椅子から立ち上がる。
心にある思惑を、皆の心が動く様な言い回しに落とし込んでいった。
「戸惑う気持ちも分かるよ、従者と言っても市民だからね。
でも俺達には時間がないんだ。
増税も決定された。
俺達の行動が遅れれば遅れるだけ渡したくもない俺達のお金が吸い上げられていく。
暮らせなくなる者ももっと増えるだろうね。
それに立ち向かうにはやはり早い決断が必要だ。
…もう俺達は犠牲を恐れる段階ではないだろう?」
「確かに…。
このまま渋っていたら、頑張った屋敷襲撃も水の泡…」
「私達の生活を守るために立ち上がったんだから、イリスの言う通りだわ…!
多少の無理も早く終わらせられるなら必要よ!」
同調する様に周りの者達が立ち上がり賛同し拍手して行く。
もうその時点でイリスの案に反論するものはいなくなった。
しかしまだ動揺を残す者達は控えめな拍手だった。
恐らく従者の中に知り合いと思われる様な者もいるのだろう。
その者達をイリスは見逃さなかった。
「どうしても納得できなければ今この段階で抜けてもいいよ。
俺達は攻めないし追わない。
でも従者達の事情聴取には、なるべく物腰の柔らかい人にやってもらいたいんだ。
今は苦しいと思うけど、それをやってくれる人がいたらぜひ力になってほしい。
どうだろう。」
イリスによって設けられた救済は動揺する者の目に光を与えた。
「それならば、イリス…。
国のために、俺達は何でもしよう…」
深夜、青白い月の光で薄ら照らされた宮廷内の廊下を歩く二つの影があった。
一人は豪華な刺繍の施されたマントを床に引きずっていた。
その傍らには厳かに礼服に身を包んだ男も後をついてきている。
「どこまで着いてくる気だ、トーマス。
私の蜜事まで監視するつもりなのか。」
トーマスと呼ばれた初老の執事は、辺りを見渡しながら国王の後を申し訳なさそうに尚も着いてくる。
「今の情勢は非常に危険です陛下。
この様な夜更けに歩き回る事は本来はしていただきたくありません…。
なのでせめて私が着いている次第で御座いますが、陛下…一体どちらへ…?」
この様な夜更けに一体どこの女の元に行こうと言うのだ、と言わんばかりの視線を受け止めながらも国王は執事を振り返らず、ふん、と鼻をすすった。
「お前はここで待っていろ、いいな。」
そう突然言って立ち止まった目の前には白く大きな扉があった。側室のために造られた部屋の一つである。
執事はその扉の先の人物を勿論知っていた。
「何故この様な夜更けにジェーン様の部屋に…?」
国王は暗がりでも薄く分かる様な、残虐的で仄暗い微笑みを少し垣間見せた。
「何故それをお前に言わなくてはならないのだ。」
そう言って扉の取手に手をかけた。
31
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~
TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】
公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。
しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!?
王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。
これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。
※別で投稿している作品、
『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。
設定と後半の展開が少し変わっています。
※後日譚を追加しました。
後日譚① レイチェル視点→メルド視点
後日譚② 王弟→王→ケイ視点
後日譚③ メルド視点
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる