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無力の力
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しおりを挟むオーデッツは目の前の引き締まった身体のカスパルを警戒した様に見据える。
「如何にも…私がオーデッツだが、お会いしたことがあったかな?」
警戒の色を見せるオーデッツに、カスパルは真剣な表情のまま近寄った。
「以前、陛下の執務室にいらっしゃっていたのをお見かけした事があります。
…今少しだけ時間を頂けないでしょうか?」
「あぁ、あの時を見られていたのか…。
時間…?」
華麗に追い返されている場をあまり見られたくなかった様で気まずそう視線を彷徨わせる。
しかし目の前のカスパルが自分に何の用があるのか見当もつかない様で、非常に困惑した様に眉を顰めた。
「キンバリー、否…小風について少しだけお話したい事があります。」
「好きな所に掛けてくれ、と言っても陛下から借りている一間に過ぎないのだが。」
オーデッツはそう言いながら自室にカスパルを招き入れる。
カスパルは礼を言い、適当な椅子に腰掛ける。
オーデッツもその様子を伺いながら、先程とは打って変わって優しげに微笑みながら側にある長椅子に腰掛けた。
微笑む顔には多少のシワが刻まれているが顔自体は若々しく、白髪が老けている様に見せているため年齢の分からない不思議な風貌だった。
「それにしても小風の友人とは、彼は友人が居たことを私には何も話さなかったから本当に驚いた。
カスパル・ラザフォード君、護衛軍の隊長とはまた大した友人だ。」
カスパルはオーデッツを引き止めた際小風の旧友である事を明かした。
その言葉に大層目を見開いた後、この自室へと腕を引っ張らんばかりにカスパルを招いたのだった。
「私も小風がここに居ることは最近まで知りませんでした。
ルージッドの学校を出た後は祖国に帰っているものとばかり思ってましたから…。」
その時のことをオーデッツも思い出しているのか、懐かしむ様な哀れむ様な目つきで窓の外を見やる。
「あの子は可哀想な子でね、ルージッドにも祖国にも居場所がなくなってしまうところを引き取ったのだよ。
私は貿易商…特にルージッドとは長く商売をさせて貰っていて、あちらの知り合いから小風の相談を受けた。」
「そうだったんですね…。」
カスパルは国の陰謀に巻き込まれ祖国に帰れなかった訳ではないこと、そしてなによりオーデッツの小風を語る表情が優しいものだったことにとても安心し肩の力を抜いた。
「妻とは既に死別していてね、子供も居なかった。
小風の話を貰った時には、懇意にしているルージッドの頼みであるし….何より異国の地で鍛錬を積んだ真面目なあの子に恥じぬよう、私も責任を持とうと決めて養子として招き入れたんだよ。
…しかしあの騒動であの子は行方が分からなくなってしまった。」
オーデッツは瞳に暗い色を落とし、拳に力を込めた。
静かな怒りをじわじわと感じた。
「国王は…たった数人でも私兵を動かしてくれたらそれで構わないと言うのに、あのお方は小風の為に動こうとはしない。
…既に殺されていたとしてもきちんと弔ってやりたい。
私はこの国にあの子を招いた責任を取りたい。」
「オーデッツ様…」
あまりの気迫にカスパルは目を見開く。
目の前の男はずっと小風を大切にしていると同時に国王に酷く憤りを持っている様だった。
「…だから先程も陛下の寝室へ向かっていたのですね。」
「私の事が余程鬱陶しいのだろうね、最近は会うことも出来ないのだよ。
だからああして直談判に行こうと思っていたが思わぬ収穫だ。
君と出会えて本当に嬉しいよ。」
カスパルは下を向きながらカスパルが有する情報を伝えようか思案した。
伝えるのは自分の行動を披露するのと同義。
ましてや護衛軍隊長がこの緊迫した情勢の中のこのこと街をうろついていることは非難させるべき行動なだけに、言葉にすることは憚れる。
しかし目の前の男は小風を切に心配している様だった。
何よりカスパルの祖国であるルージッドと関わっていた人物となると、カスパルを売る様な真似はしないのではないかとも思った。
「これから私の話すことは他言無用でお願いしたいのですが、実は私も小風の行方を追うために独自に街に降りました。」
その言葉に一瞬表情をくしゃりと歪めながらオーデッツは長椅子から立ち上がる。
「本当か…!
あの子のために街に…!」
溢れる嬉しさと今も小風の行方が分からない不安に、複雑な表情で涙がうっすらと浮かんでいる様だった。
「はい。残念ながらまだ消息は分からないのですが、先日遺体集積所に行ってきました。
…小風の遺体はありませんでした。
よほどばらばらにならない限り、状態の悪いものでもあそこに集積されますがそこにはなかった。
まだ小風が生きている可能性はあります。
しかし私は陛下に直接護衛にあたるよう言われてしまっており、街に探しに出る時間が取れてないのでそれ以上の情報がまだないのですが…」
カスパルの言葉を聞き、オーデッツはあまりの安堵に力を抜かしその場に崩れる。
すかさずカスパルは駆け寄り身体を抱き上げる様に支えた。
「オーデッツ様…!」
「あぁ、良かった…。
本当に良かった……有難う、有難う」
そう詰まらせながら呟き、教会で祈りを捧げる時の様に胸の前に手を添えた。
カスパルは余程この情報を待っていたのだろう、勿体ぶった自分を恥じた。
オーデッツを長椅子に座らせ、落ち着かせる様に見守ると、幾分息も整ったのか再びカスパルに目線を合わせた。
「カスパル君、君に頼みがある。
これからもこうして小風の行方を追う際は、必ず私にも情報を流してくれないか。」
勿論言われずともそのつもりだったカスパルは首を縦に振るも、やはり時間がなかなか作れない事がネックでありそこをきちんと話すべきだと口を開いた。
「はい、それは勿論です。
しかし…」
「ああ、勿論私も相応の何かを君に渡そう。
…そうだな、公にはしていないが先程も言った通り、私は特にルージッドとの貿易商に携わっていたから今も実は内々に連絡を取り合っている。
君に半組織や国内外の事に関して、ルージッドと私が知る情報を渡そう。
他に何か希望はあるかな?」
「ルージッドとまだ連絡を…?
それは驚いた…」
「君は小風と同じルージッドの学校だったのだから驚くだろうね。
公にしてしまうとスパイだと言われてしまうからこの事も他言無用で頼むよ。」
近隣諸国からの説得や接触を拒否しレグランドの方から改宗騒ぎで喧嘩別れした様なものなのに、まだ内々に連絡を取れている者がいたとは、とカスパルは感心していた。
自分にあてたルージッドからの手紙も全く来ないので、自分宛のものは検問で全て妨げられているのが分かっていた分嬉しかった。
祖国とまだ連絡が可能な男が味方にいればカスパルにとっては非常に有利かつ安心出来る材料である。
その時、カスパルはシムの顔を思い浮かべた。
「一つだけお願いしてもいいでしょうか。」
「勿論だよ、何かな?」
自分がそこにいれないとしても隣に立つ事が出来ないとしても、シムを安全な地に送り出せるカードがあるならば自分は迷いなくそのカードを切るだろう。
「もしもの事がこの国にあった時に、我が祖国に一人逃して欲しい大切な者がいます。」
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