テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

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愛について

5-16

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「国王陛下、今朝方届いた暗号電報です。
先程解読を終えました。」


若い執事が黒い礼服に身を包み、天井の高い応接間に入室して来た。

その応接間は豪奢な金や派手な色合いではないものの、価値ある白い大理石に包まれた非常に洗練された芸術的光景であった。

大理石の応接間を有する大きな宮廷もそれと同じく、白い大理石を基調とした広く天井の高い開放的な雰囲気の宮廷であった。

中心に大きな刺繍の施された重厚なソファー。
傍に大きな暖炉が轟々と火を絶やさず燃やされていた。


執事の持っていた解読済みの電報をソファーに腰掛けていた男、ルージッド国、国王は立ち上がり受け取った。

「随分早く解読出来たんだな、有難う。」


国王の身に纏う服もまたレグランドのものとは異なり、無駄な装飾は施されていない。
しかし生地と同系色の糸で施された国の象徴である花の模様を遇らった技術力の高い物だった。

受け取った電報を開き、国王は少し眉を潜める。


「…電報はレグランドのスパイからですな、なんと?」


応接間にいたもう一人の人物は窓の側に立ち平和な時間を送る祖国を眺めていた。
その者はカスパルと顔の似た齢50程の男、クレイグ・ラザフォード。
カスパルの父であった。


「スパイと言うな、私の大切な命綱だ。
…カスパルは今も宮廷にいる様だね。
それも護衛軍の任を剥奪されて、あちらの王族に首輪を繋がれている様だ。

この国に亡命させたい者の名を預かっている、…それは……貴族でもないのか…?」

「そんな事はどうだっていいです国王陛下。
爵位を与えられているラザフォードの正当な血筋である我が息子が…ぞんざいな扱いを受けているのを父として見過ごせない!」

激情するクレイグ・ラザフォードの言葉によって国王は口を閉ざす。
国王は今一度電報の文章を目で追い、紙切れを丸めさっさと暖炉に放り投げた。


「この電報も本当に久しぶりの報せなのだ。
私の友人も今は動きが取れない状況なのだろう…。」


国王も窓の方へと歩み寄りクレイグ・ラザフォードの隣に立つ。


「こちらからは既に、公的な手段を踏んでカスパルの返還命令は出し続けているが無視されている。
だが勿論死なせる気はない、その為に向こうの友人にもこうして協力を仰いでいるのだ。」


「こちらの命令を無視する無礼は、武力で対抗するべきです。
直ちに攻め入り宮廷を制圧させましょう。」

憎々しげに顔を歪ませるクレイグに国王は静かに息を吐いた。


「改宗されてレグランドと近隣諸国との関係は最悪になったが、こちらから仕掛けては領土問題に発展する事は避けられない。
各国から圧倒的に批難されるのはこちらだ。
正式に攻め入る事は一国の王としては賛同出来ない。」

クレイグは国王に食ってかかる様に怒鳴ろうとした口を歪めて荒い息を吐く。

「それならば一刻も早く…!息子を帰還させる様に手回してください!
ラザフォードの未来の頭首はカスパルです。
一族の正当な血をあんな惨たらしい国に捧げてやる気はない…!」

「それなんだが、クレイグよ…。」

怒りを国王に打つけ荒々しく退出しようとするクレイグに国王が呼び止める。


「カスパルの強制帰還がもし成功したとしても平和的帰還でない限りは、
国王の側で…向こうの国家機密に触れる書類の側で職務をしていたカスパルに爵位を与え続ける事は出来ない。
そして政治に関われる程の君達ラザフォード一族の頭首として認める事も国王としては出来ないと思っている。
……私がレグランドの情報を持つカスパルを利用していると…他の国は思うだろうからな…。」


「……、国王陛下…」

クレイグは国王の言葉に信じられないと言った様に目を見開き、顔を白く血の気の失せたものにさせる。


「そんな……そんなのは、あんまりだ……。」


それだけ極僅かな声で呟き力を失った足でよろよろとクレイグは退出した。

国王はクレイグの背中を見送り再び窓の方に目を向けた。
その国王もクレイグと同じく悲しみと苦しみの色を見せていた。


「……ちょっと来てくれ。」

国王が声を掛けると応接間の隣に小さく備わっている控え室の扉から、先程電報を手渡した若い執事が出て来て礼をする。


「はい、こちらに。」

国王は自身の白髪の混じる髪を耳にかけ振り向く。
周りに人の発する音がないか耳をすませる為だった。

「もう武器はあちらに輸送し終えたな?」

「はい、恙無く終えております。
こちらの援助であると嗅ぎつけられない様に何名かの手によって梯子させて送らせております。
時間は要したと思いますが、そろそろあちらに着いて宜しい頃合いかと。」

「そうか、遠藤をかけたな。
……ちゃんとやってくれよ。
レグランドの民よ。」










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