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動き出す2人
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アルフレドが初心どころかもっと手前の「優しいセックスとは」と、今更ながら間抜けなことを言い出した早朝、リーエンはリーエンで「ああ、どうしたらいいの……」と頭を悩ませていた。
アルフレドと夢の中で交わった時に彼は射精をした。インキュバスというものはそういうものらしく、全てが夢の中だというのに射精については物理的に発生しているらしい。そして、夢での交わりが終わったからといってリーエンが目覚めるわけではないため、アルフレドが「寝ているリーエンの中に放ったものを処理してから帰る」というとんでもないことをしでかしたのだ。
寝ている間に何をどうされたのかはわからないが、とりあえず目覚めた時に下着が変わっていた。どう考えても脱がされて、何かをされて、新しい下着に交換されている。
(そんなこと、そんなことおっしゃらなかった……!! 目覚めたら、わたしが、自分で処理をするのだと……)
その処理も、正直なところ出来るかどうかリーエンには怪しかったが、とにかく中に放たれるのだから、立てば零れるのでは……それぐらいしか考えていなかったし「それなら、女性の月のものと同じだと思えば……」という心構えでいたのに、まさか。まさかアルフレドがしれっと自分で処理をしていってしまうなんて思ってもみなかった。
(夢の中で、アルフレド様が下着の上から)
あれやこれやをしたせいで、夢では下着がとんでもなく濡れてしまっていたが、それは現実にはそうはなっていないはずだ。多分。なのに履き替えていたということは、どう考えても「射精されたものをアルフレドが処理をしたのでその際下着が濡れたため替えた」しか考えられない。
「あああ、ああ、うう、ううん、考えても仕方がない、仕方がないのよ……!」
かといって、女中に「わたしの下着は」と聞く勇気もない。いや、聞いた方が良いのだろうか。だって、絶対に誰かは洗っている。いや、本当に洗っているのだろうか?
(そのまま捨てているのかも)
と思いついた次には「アルフレド様が持ち帰ったりは、さすがに……それは……」と恐ろしい想像までしてしまう。いや、それは彼の性癖がどう、という話ではなく、あくまでも「女中に勘ぐられるのも嫌だろうから持ち帰って捨ててくれたのでは」という良い意味での想像だ。だが、そうすると「今はいている新しい下着は一体どこから……」と疑問が尽きない。尽きないが、正直なところ誰にも聞きたくない。
「もう少し……寝ないと……今日はコーバス先生がいらっしゃるし……」
夢で交わっている間は、睡眠時間にあまりカウントされないようなことをアルフレドが言っていたし、確かに睡眠が足りないという体感はある。もぞもぞと毛布の中に入りながら、リーエンはついに
「アルフレド様の……バカ!!!」
と、声に出した。わかっている。彼は優しい。魔王のくせに本当に優しく、リーエンに対して寛容で、彼なりにいつも気遣ってくれている。だが、反面、どうにもこうにも女心をわかっていない。
なんとなくわかる。彼ならケロっと「俺が放ったものだし、俺が処理した方が良いと思ったのでな」とでも言うだろう。最近少しだけアルフレドの脳内がわかるようになってきた。そんな彼の前ではリーエンの悩みなど、本当に些細なものなのだろう。
「バカ、だなんて、淑女が使う言葉ではないわ……」
恥ずかしさを紛らわせたくて口にしてしまったけれど、よろしくない、と反省をする。
「でも、でもでも……」
でも、やっぱり。本人に言うことは出来ないが、リーエンは「アルフレド様のバカ」ともう一度呟き、顔を真っ赤にして、頭まで毛布の中に潜った。
2度目の「バカ」は、事後の処理をしたことへのコメントではない。最中のことを思い出して、つい口にした言葉だ。
アルフレドの「優しくする」はもう絶対に信じない、と思う。いや、きっと彼は素が「ああ」だから、あれでも「優しくした」結果なのだろうと思うけれど。初日に比べれば、怖くなかった。そういう意味では優しかったし、前戯にも時間をかけてくれたが、何故かよくわからないけれど彼は「優しくない」とリーエンは思う。
悪気はないのかもしれないが、彼はいちいちリーエンが恥ずかしくなるようなことを言う。いや、だからといって黙ってやれと言うわけではないが、もうちょっとどうにかならないのだろうか、と思ってしまう。
(でも、わたしも……ああいうことを全然知らないからそう思うだけで、あれが普通なのかしら……本当はとても優しくしてくださっているのに、わたしが思い違いしているだけなのかしら……)
と、自分に騙されそうになって「いや、違う」と思うリーエン。大体なんだ、あれは。下着ごとの愛撫なんて。それを非難したら「直接触って欲しいのか」とはどういうことだ。もう少し言いようがあるのではないか……。
「っ……」
1つ思い出したら、あれもこれもと脳内に浮かんできてしまう。あんなことをされた、こんなことをされた、でも、現実では触られていなくて……リーエンはむくりと起きて、彼が執拗にキスマークを付けた胸元をちらりと覗いたが、そこについているはずのものはなかった。それに、体の疲れも別に残っていない。本当に、あんなに生々しいセックスをしたように思うのに、それは現実ではなかったのだ。
「全部が夢……」
そう思うと。アルフレドとのセックスは、まるで自分が妄想して見た夢のようにも思えてしまって、リーエンは恥ずかしさに苛まされ再び毛布に潜った。そんなことはない。自分はただなされるがままになっていただけだ。夢だけれど自分が見たくて見た夢ではないのだ……となんとなく言い訳をする。
だが、こうやって思い出していくと「仕方なく抱かれた」とはいえ恥ずかしさが強いだけで、彼が自分を求めてくれること、そのこと自体はそこまで嫌ではなかった……と思う。
夜伽を断った時に「せめてもう少しだけ、アルフレド様のことを教えていただいてから」と自分は言った。そして、彼からインキュバスの血について話を聞いた時、彼ともう一度交わる勇気を出そうとしたリーエンにアルフレドは言ったではないか。
――お前は言っただろう。もう少し俺のことを教えてもらってから、と。もうそれはこれで十分ということなのか?――
あの時は、まだ全然足りていないと思ったのに。夢の中で抱かれて、彼とまるで2人きりの時間を長く過ごしたような気持ちになって、そして、彼の役に少しでも自分が立てたと思えば、嬉しくて……そうだ。今、自分は確かに「嬉しい」と感じている。
リーエンは、もしかしたら自分が思っている以上にアルフレドに好意を持っているのでは、と己のことを疑いだした。魔界に来た時点で身寄りがなくなった自分にとって、アルフレドだけが頼れる相手なので、彼に対して特別な意識があるのは当然なのだが……。
(でも、どうしても堂々巡りなのよね……)
アルフレドのことをどう思っているのかという命題を考えると、なんだかそれは途中でぼんやりして「今、何を考えていたんだっけ」となってしまう。前からそうだったわけではない。
(倒れた後ぐらいからかしら……? なんだか、あまり考えたくなくなってしまうようになって……ストレスにでもなると無意識で思ってるのかしら)
もし、恋しているならば確実に「特別だ」と思える強い感情があるならば、そもそも考える必要もなければ、考えている間にそれをどうでもいいように思うはずがない。リーエンはそう思う。
だから、自分はアルフレドのことを「求められて仕方なく嫁ぐ相手なので、折角ならば悪い感情は持ちたくない」ぐらいにしか思っていないのだと。そう思わざるを得なかった。そして、そうなのだと思うと少しだけ、ほんの少しだけ悲しい。
(なのに、フェーリスさんの言葉にはなんだか悲しい気持ちになるし、アルフレド様が綺麗な方と歩いているのを見てもやもやするなんて、感情が伴わないのに居場所だけを主張する子供のようね……)
リーエンの情緒はとにかく忙しかったが、きちんと寝ないとまた倒れて迷惑をかけてしまうと思い、わずかでも寝ようと必死に瞳を閉じる。
(ああ、最近は疲れのせいなのか。あの神官様のことを考えようとしても、なんだか)
思考が白いもやに包まれて、考えたくなくなってしまう。まるで、アルフレドのことをどう思っているのかを考えられなくなってしまうように。
さて、アルフレド達の話に戻る。朝の間抜けなセックス談義の後、謁見を何件か済ませてから再度執務室に戻ったアルフレドは、ジョアンに頼みごとをした。
「ガートラの始祖から情報を得たいのだが」
「お珍しい」
ガートラとは、ジョアンの一族名だ。そして、アルフレドが「始祖」と呼ぶのは、ガートラ一族の生みの親で、ジョアンの城の奥にいつも眠っている「なんだかよくわからない触手を大量に持つ生き物」のことなのだが、これもまた魔界のトップシークレットとして扱われる案件だ。
「魔王妃候補の巡礼で魔力を集める話があるだろう」
「ああ……今回も妖精界に魔石は持って行かないといけないのでしょう?」
魔界の魔力を妖精界で使う時には、魔力の変換が必要だ。いや、正しくは「妖精界という世界構築」に使う時に必要なのだが、その辺りの定義は都度妖精王に確認しないとアルフレドも理解をしていない。
古の契約で妖精界から魔界に渡された魔石は、半永久的にその変換を簡単に行う、他に代わりが効かないとんでもない代物だ。それゆえ、魔力を注入しても変換をされてしまうため、魔族の魔力測定では検知出来ず、妖精界に渡す時にようやく確認が出来る。
今は魔石への魔力注入そのものが出来ないためアルフレド個人の魔力を妖精界に貸しているが、それを変換するために妖精王が日々力を注ぎ続けなければいけない。魔石を仲介しないからだ。そして、妖精王がそちらに力を割いているため「魔界は責任取って妖精界と冥界の境界の強化を妖精王の代わりにやっとけ」と依頼が来た……というのが、今現在アルフレドの魔力バランスを著しく崩している要因の1つだ。
指輪には研磨されていないいびつな形の魔石が6つ、円型のフレームがついた台座に雑にはめ込まれていて、結婚式の儀式に使われるようなロマンティックさはない。完全に機能重視のものだ。6つなのは、妖精界が6つのエリアにわかれているためと言われているが真実はわからない。妖精界の元女王が当時の魔王妃から魔力を吸い取って封じた指輪とされているため、代々の魔王妃候補は「呪いの指輪」とも言えるそれを、魔王妃になるために巡礼に持ち歩かなければいけないのは皮肉なものだ。
「知っての通り、魔王城の資料には何一つ記述がない。歴代魔王妃のみが立ち入る場所で発生していたことだし、昔は秘匿として別の形で俺の眷属の間だけで伝えられていたことかもしれないが、俺の父親の代よりも前にそういったものは消えてしまったらしいし、情報がなさすぎる」
「それで、一番魔界で情報を蓄えている始祖に尋ねたいと」
「ああ……あまり、期待はしていないのだが。ガートラ一族が情報を蓄えるのは、代々の当主が魔王補佐の執務官になっているからなんだし、魔王の立場で知らないことを執務官が知るわけもないだろう……とはいえ、魔界ご長寿ナンバーワンと言えば、お前のところの始祖殿だし、なんといっても情報の宝庫だ」
ジョアンが当主であるガートラ一族は、みな額に3つめの目を持っている。その目で得た情報は、すべて始祖が情報として蓄えているし、念話の応用で音声もそれなりに取得をしている。それは単に始祖の中に集積されていくだけのもので、始祖自身が情報を引き出して何かをする、ということはほぼない。それは、情報を蓄積することが生命活動と直結する生物だからなのだという。
だが、ジョアンが執務官としてアルフレドの片腕になっているのは、その始祖の力を使うためだし、逆に魔界の情報を始祖に蓄積するためでもある。アルフレドが目を通す書類は全てジョアンが先に目を通して、必要であれば始祖からの情報を付加し、公用語を使えない一族からの書類は始祖の知識をジョアンの脳に流すことで、一時的にジョアンが読み書き出来るようになる。魔王とガートラ一族当主の組み合わせが魔界のトップとして固定されるようになってから相当な代を重ねている。
そんな彼らだが、こうやって直接「始祖に聞きたい」と魔王が言い出すことはなかなかないし、ジョアンも珍しく驚いたようだった。
「直接お会いになりますか? 早い方が良ければ、許可を今からとりますが」
「打診してもらえるか。今」
「は」
ジョアン達ガートラ一族は、一族内部では自分達を始祖の「端末」と認識している。執務室にいながら、ジョアンは脳内で始祖に語りかけた。基本的にはいつも「繋がっている」ため、始祖が寝ていなければ――とはいえ本当に睡眠が必要な生き物なのかどうかも誰もよくわかっていないのだが――反応は早い。
ジョアンが3つの目すべてを閉じて始祖とコンタクトをとっている様子を、アルフレドは珍しそうにじっと見ている。
(過去にも、始祖にちょっと聞いてもらいたい、と頼んだことはあるが……こんなに集中した感じだっただろうか……?)
と、いささか違和感があったからだ。
「アルフレド様」
「ん?」
やがて、ほどなくジョアンはガタンと立ち上がった。始祖と話がついたにしては、表情が暗い。
「大変申し訳ございませんが、少し離席をお許しいただけますか」
「どうした?」
「……始祖が……ちょっと……わがままを言い出しまして……」
「わがまま……?」
「ちょっと、わからせてきます」
そう言うとジョアンは一礼をして、アルフレドの返事も聞かぬまま魔法陣を展開して即座に転移してしまった。ガートラ一族で発生している「嫁が可愛いので俺に寄越せ」的な、始祖とジョアンの間に発生している揉め事については割愛するが、アルフレドは珍しいジョアンの暴走に肩を竦めた。
(少しでも始祖が情報を持っていると助かるのだが……今でこそ俺の魔力を貸し付けているが、この状態は俺自身のことを置いても、実際よろしくない。この先妖精王が代替わりをいつするのかもわからないし、次の妖精王が今の妖精王よりも力が劣っていれば、魔力の変換をし続けることが出来ないかもしれない。それに、見ようによっては、俺がやっていることはいくら妖精王から直々の嘆願でも越権行為スレスレだしな……)
それに。
昨晩、リーエンの夢の中でセックスをして。
(とんでもなく良かった……)
という、ストレートな感想を抱いたアルフレドは、とにかく諸々の問題を解決して、一日も早く普通にリーエンとセックスをしたい欲が、それはそれはとてつもなく大きくなってしまったのだ。言葉を選ばずに言うと、セックスのせいで仕事の優先順位が変わったということだが、それは本来最優先事項になるべき課題なのだし、リーエンのおかげでアルフレドが「無理をしない」正常を目指すなんて、ヴィンスが聞けば飛びあがって喜ぶ進歩だ。
(以前だったら、そんなことのために、ただでさえ忙しいのにあれこれ調べる気も起きなかっただろうが……)
ああ、ヴィンスの「ご馳走」の例え話はなかなかに正しかった。人は一度美味しいものを味わうと、もう一度食べたいと思うものだ。そして、今のアルフレドはまさしくその状態だった。だが、そこにあるのは性欲だけではない。
彼は、夢の中だったとはいえマーキングの時よりはインキュバス寄りの自分を抑えることが出来た。(リーエンがどう思っているかはともかく)だからこそ、更に自覚が深まる。ああ、そうだ。自分が自分としてリーエンを抱くと、こんなに心も大きく揺さぶられるものなのか、とわからされた。
(何故あんなにリーエンは可愛いんだ?)
と、これまた間抜けなことを思うのだから重症だ。しかし、アルフレドは自分のその疑問をさほどおかしいと思っていない。自分が彼女に好意を抱いているとは思っているものの、未だに彼は彼女への恩義と恋情がごちゃまぜになっているからだ。彼もまた、リーエンとは別意味で恋の無自覚が存在している。そのせいで、リーエンの「どうしてわたしを妻に選んだのか」という不安をまったく解消出来ていないことに彼は気付いていない。
だが、彼は夢の中で素直に彼女を可愛いと思い、ずっとこうしていたいと思い、甘やかしたい、抱きしめたい、触れていたい……それらの感情は、マーキングの時には生まれなかったものだ。夢でこうなのだから、現実だったらどうなっていたのだろうかと思う。
とはいえ、セックスのために仕事を頑張るのか、というと語弊がある。条件が揃ったのでようやくその問題に着手出来る、というのが本音だ。昨日一昨日までは、以前ダリルが「緊急で」と持ってきていた大きな案件の山場だったし、本当に彼は多忙に多忙を極めており、距離を置くも置かないも考えられぬほど、ただただ忙しくてリーエンと過ごせなかった。
だが、今は他にも問題が片付きつつある。冥界の境界線で戦ってくれる竜人族当主が前回の戦いで深い怪我を負ったため、一時的にアルフレドが僻地の防衛強化をたった1人で行っていた。が、回復した当主に頼んで竜人族から増員させることになったので、明日にはそちらに回していた魔力も不要になる。他にもいくつかそういった案件が出てきて、魔界召集以来ごたついていた魔界が少し平和になり、アルフレドも無理な魔力運用を続けなくてすむようになる。「なかったこと」にする必要も減って来たし……。
(リーエンを抱いたせいか、インキュバス側も今日は楽に抑えられているし、魔力も体も少し楽になってきた。頭も心も僅かだがクリアになっているような気がする。どれだけ自分が無理をしていたのかは、回復と共に気付くものなのだな……)
だから、そろそろなのだ。リーエンに対することを準備しなければいけない。そして、ここまで日々放置していた彼女に、もう少し会いにいける時間を増やさなければ。巡礼に行く彼女が少しでも心穏やかでいられるように、また倒れることがないように、自分が寄り添わなければとアルフレドは思うのだった。
アルフレドと夢の中で交わった時に彼は射精をした。インキュバスというものはそういうものらしく、全てが夢の中だというのに射精については物理的に発生しているらしい。そして、夢での交わりが終わったからといってリーエンが目覚めるわけではないため、アルフレドが「寝ているリーエンの中に放ったものを処理してから帰る」というとんでもないことをしでかしたのだ。
寝ている間に何をどうされたのかはわからないが、とりあえず目覚めた時に下着が変わっていた。どう考えても脱がされて、何かをされて、新しい下着に交換されている。
(そんなこと、そんなことおっしゃらなかった……!! 目覚めたら、わたしが、自分で処理をするのだと……)
その処理も、正直なところ出来るかどうかリーエンには怪しかったが、とにかく中に放たれるのだから、立てば零れるのでは……それぐらいしか考えていなかったし「それなら、女性の月のものと同じだと思えば……」という心構えでいたのに、まさか。まさかアルフレドがしれっと自分で処理をしていってしまうなんて思ってもみなかった。
(夢の中で、アルフレド様が下着の上から)
あれやこれやをしたせいで、夢では下着がとんでもなく濡れてしまっていたが、それは現実にはそうはなっていないはずだ。多分。なのに履き替えていたということは、どう考えても「射精されたものをアルフレドが処理をしたのでその際下着が濡れたため替えた」しか考えられない。
「あああ、ああ、うう、ううん、考えても仕方がない、仕方がないのよ……!」
かといって、女中に「わたしの下着は」と聞く勇気もない。いや、聞いた方が良いのだろうか。だって、絶対に誰かは洗っている。いや、本当に洗っているのだろうか?
(そのまま捨てているのかも)
と思いついた次には「アルフレド様が持ち帰ったりは、さすがに……それは……」と恐ろしい想像までしてしまう。いや、それは彼の性癖がどう、という話ではなく、あくまでも「女中に勘ぐられるのも嫌だろうから持ち帰って捨ててくれたのでは」という良い意味での想像だ。だが、そうすると「今はいている新しい下着は一体どこから……」と疑問が尽きない。尽きないが、正直なところ誰にも聞きたくない。
「もう少し……寝ないと……今日はコーバス先生がいらっしゃるし……」
夢で交わっている間は、睡眠時間にあまりカウントされないようなことをアルフレドが言っていたし、確かに睡眠が足りないという体感はある。もぞもぞと毛布の中に入りながら、リーエンはついに
「アルフレド様の……バカ!!!」
と、声に出した。わかっている。彼は優しい。魔王のくせに本当に優しく、リーエンに対して寛容で、彼なりにいつも気遣ってくれている。だが、反面、どうにもこうにも女心をわかっていない。
なんとなくわかる。彼ならケロっと「俺が放ったものだし、俺が処理した方が良いと思ったのでな」とでも言うだろう。最近少しだけアルフレドの脳内がわかるようになってきた。そんな彼の前ではリーエンの悩みなど、本当に些細なものなのだろう。
「バカ、だなんて、淑女が使う言葉ではないわ……」
恥ずかしさを紛らわせたくて口にしてしまったけれど、よろしくない、と反省をする。
「でも、でもでも……」
でも、やっぱり。本人に言うことは出来ないが、リーエンは「アルフレド様のバカ」ともう一度呟き、顔を真っ赤にして、頭まで毛布の中に潜った。
2度目の「バカ」は、事後の処理をしたことへのコメントではない。最中のことを思い出して、つい口にした言葉だ。
アルフレドの「優しくする」はもう絶対に信じない、と思う。いや、きっと彼は素が「ああ」だから、あれでも「優しくした」結果なのだろうと思うけれど。初日に比べれば、怖くなかった。そういう意味では優しかったし、前戯にも時間をかけてくれたが、何故かよくわからないけれど彼は「優しくない」とリーエンは思う。
悪気はないのかもしれないが、彼はいちいちリーエンが恥ずかしくなるようなことを言う。いや、だからといって黙ってやれと言うわけではないが、もうちょっとどうにかならないのだろうか、と思ってしまう。
(でも、わたしも……ああいうことを全然知らないからそう思うだけで、あれが普通なのかしら……本当はとても優しくしてくださっているのに、わたしが思い違いしているだけなのかしら……)
と、自分に騙されそうになって「いや、違う」と思うリーエン。大体なんだ、あれは。下着ごとの愛撫なんて。それを非難したら「直接触って欲しいのか」とはどういうことだ。もう少し言いようがあるのではないか……。
「っ……」
1つ思い出したら、あれもこれもと脳内に浮かんできてしまう。あんなことをされた、こんなことをされた、でも、現実では触られていなくて……リーエンはむくりと起きて、彼が執拗にキスマークを付けた胸元をちらりと覗いたが、そこについているはずのものはなかった。それに、体の疲れも別に残っていない。本当に、あんなに生々しいセックスをしたように思うのに、それは現実ではなかったのだ。
「全部が夢……」
そう思うと。アルフレドとのセックスは、まるで自分が妄想して見た夢のようにも思えてしまって、リーエンは恥ずかしさに苛まされ再び毛布に潜った。そんなことはない。自分はただなされるがままになっていただけだ。夢だけれど自分が見たくて見た夢ではないのだ……となんとなく言い訳をする。
だが、こうやって思い出していくと「仕方なく抱かれた」とはいえ恥ずかしさが強いだけで、彼が自分を求めてくれること、そのこと自体はそこまで嫌ではなかった……と思う。
夜伽を断った時に「せめてもう少しだけ、アルフレド様のことを教えていただいてから」と自分は言った。そして、彼からインキュバスの血について話を聞いた時、彼ともう一度交わる勇気を出そうとしたリーエンにアルフレドは言ったではないか。
――お前は言っただろう。もう少し俺のことを教えてもらってから、と。もうそれはこれで十分ということなのか?――
あの時は、まだ全然足りていないと思ったのに。夢の中で抱かれて、彼とまるで2人きりの時間を長く過ごしたような気持ちになって、そして、彼の役に少しでも自分が立てたと思えば、嬉しくて……そうだ。今、自分は確かに「嬉しい」と感じている。
リーエンは、もしかしたら自分が思っている以上にアルフレドに好意を持っているのでは、と己のことを疑いだした。魔界に来た時点で身寄りがなくなった自分にとって、アルフレドだけが頼れる相手なので、彼に対して特別な意識があるのは当然なのだが……。
(でも、どうしても堂々巡りなのよね……)
アルフレドのことをどう思っているのかという命題を考えると、なんだかそれは途中でぼんやりして「今、何を考えていたんだっけ」となってしまう。前からそうだったわけではない。
(倒れた後ぐらいからかしら……? なんだか、あまり考えたくなくなってしまうようになって……ストレスにでもなると無意識で思ってるのかしら)
もし、恋しているならば確実に「特別だ」と思える強い感情があるならば、そもそも考える必要もなければ、考えている間にそれをどうでもいいように思うはずがない。リーエンはそう思う。
だから、自分はアルフレドのことを「求められて仕方なく嫁ぐ相手なので、折角ならば悪い感情は持ちたくない」ぐらいにしか思っていないのだと。そう思わざるを得なかった。そして、そうなのだと思うと少しだけ、ほんの少しだけ悲しい。
(なのに、フェーリスさんの言葉にはなんだか悲しい気持ちになるし、アルフレド様が綺麗な方と歩いているのを見てもやもやするなんて、感情が伴わないのに居場所だけを主張する子供のようね……)
リーエンの情緒はとにかく忙しかったが、きちんと寝ないとまた倒れて迷惑をかけてしまうと思い、わずかでも寝ようと必死に瞳を閉じる。
(ああ、最近は疲れのせいなのか。あの神官様のことを考えようとしても、なんだか)
思考が白いもやに包まれて、考えたくなくなってしまう。まるで、アルフレドのことをどう思っているのかを考えられなくなってしまうように。
さて、アルフレド達の話に戻る。朝の間抜けなセックス談義の後、謁見を何件か済ませてから再度執務室に戻ったアルフレドは、ジョアンに頼みごとをした。
「ガートラの始祖から情報を得たいのだが」
「お珍しい」
ガートラとは、ジョアンの一族名だ。そして、アルフレドが「始祖」と呼ぶのは、ガートラ一族の生みの親で、ジョアンの城の奥にいつも眠っている「なんだかよくわからない触手を大量に持つ生き物」のことなのだが、これもまた魔界のトップシークレットとして扱われる案件だ。
「魔王妃候補の巡礼で魔力を集める話があるだろう」
「ああ……今回も妖精界に魔石は持って行かないといけないのでしょう?」
魔界の魔力を妖精界で使う時には、魔力の変換が必要だ。いや、正しくは「妖精界という世界構築」に使う時に必要なのだが、その辺りの定義は都度妖精王に確認しないとアルフレドも理解をしていない。
古の契約で妖精界から魔界に渡された魔石は、半永久的にその変換を簡単に行う、他に代わりが効かないとんでもない代物だ。それゆえ、魔力を注入しても変換をされてしまうため、魔族の魔力測定では検知出来ず、妖精界に渡す時にようやく確認が出来る。
今は魔石への魔力注入そのものが出来ないためアルフレド個人の魔力を妖精界に貸しているが、それを変換するために妖精王が日々力を注ぎ続けなければいけない。魔石を仲介しないからだ。そして、妖精王がそちらに力を割いているため「魔界は責任取って妖精界と冥界の境界の強化を妖精王の代わりにやっとけ」と依頼が来た……というのが、今現在アルフレドの魔力バランスを著しく崩している要因の1つだ。
指輪には研磨されていないいびつな形の魔石が6つ、円型のフレームがついた台座に雑にはめ込まれていて、結婚式の儀式に使われるようなロマンティックさはない。完全に機能重視のものだ。6つなのは、妖精界が6つのエリアにわかれているためと言われているが真実はわからない。妖精界の元女王が当時の魔王妃から魔力を吸い取って封じた指輪とされているため、代々の魔王妃候補は「呪いの指輪」とも言えるそれを、魔王妃になるために巡礼に持ち歩かなければいけないのは皮肉なものだ。
「知っての通り、魔王城の資料には何一つ記述がない。歴代魔王妃のみが立ち入る場所で発生していたことだし、昔は秘匿として別の形で俺の眷属の間だけで伝えられていたことかもしれないが、俺の父親の代よりも前にそういったものは消えてしまったらしいし、情報がなさすぎる」
「それで、一番魔界で情報を蓄えている始祖に尋ねたいと」
「ああ……あまり、期待はしていないのだが。ガートラ一族が情報を蓄えるのは、代々の当主が魔王補佐の執務官になっているからなんだし、魔王の立場で知らないことを執務官が知るわけもないだろう……とはいえ、魔界ご長寿ナンバーワンと言えば、お前のところの始祖殿だし、なんといっても情報の宝庫だ」
ジョアンが当主であるガートラ一族は、みな額に3つめの目を持っている。その目で得た情報は、すべて始祖が情報として蓄えているし、念話の応用で音声もそれなりに取得をしている。それは単に始祖の中に集積されていくだけのもので、始祖自身が情報を引き出して何かをする、ということはほぼない。それは、情報を蓄積することが生命活動と直結する生物だからなのだという。
だが、ジョアンが執務官としてアルフレドの片腕になっているのは、その始祖の力を使うためだし、逆に魔界の情報を始祖に蓄積するためでもある。アルフレドが目を通す書類は全てジョアンが先に目を通して、必要であれば始祖からの情報を付加し、公用語を使えない一族からの書類は始祖の知識をジョアンの脳に流すことで、一時的にジョアンが読み書き出来るようになる。魔王とガートラ一族当主の組み合わせが魔界のトップとして固定されるようになってから相当な代を重ねている。
そんな彼らだが、こうやって直接「始祖に聞きたい」と魔王が言い出すことはなかなかないし、ジョアンも珍しく驚いたようだった。
「直接お会いになりますか? 早い方が良ければ、許可を今からとりますが」
「打診してもらえるか。今」
「は」
ジョアン達ガートラ一族は、一族内部では自分達を始祖の「端末」と認識している。執務室にいながら、ジョアンは脳内で始祖に語りかけた。基本的にはいつも「繋がっている」ため、始祖が寝ていなければ――とはいえ本当に睡眠が必要な生き物なのかどうかも誰もよくわかっていないのだが――反応は早い。
ジョアンが3つの目すべてを閉じて始祖とコンタクトをとっている様子を、アルフレドは珍しそうにじっと見ている。
(過去にも、始祖にちょっと聞いてもらいたい、と頼んだことはあるが……こんなに集中した感じだっただろうか……?)
と、いささか違和感があったからだ。
「アルフレド様」
「ん?」
やがて、ほどなくジョアンはガタンと立ち上がった。始祖と話がついたにしては、表情が暗い。
「大変申し訳ございませんが、少し離席をお許しいただけますか」
「どうした?」
「……始祖が……ちょっと……わがままを言い出しまして……」
「わがまま……?」
「ちょっと、わからせてきます」
そう言うとジョアンは一礼をして、アルフレドの返事も聞かぬまま魔法陣を展開して即座に転移してしまった。ガートラ一族で発生している「嫁が可愛いので俺に寄越せ」的な、始祖とジョアンの間に発生している揉め事については割愛するが、アルフレドは珍しいジョアンの暴走に肩を竦めた。
(少しでも始祖が情報を持っていると助かるのだが……今でこそ俺の魔力を貸し付けているが、この状態は俺自身のことを置いても、実際よろしくない。この先妖精王が代替わりをいつするのかもわからないし、次の妖精王が今の妖精王よりも力が劣っていれば、魔力の変換をし続けることが出来ないかもしれない。それに、見ようによっては、俺がやっていることはいくら妖精王から直々の嘆願でも越権行為スレスレだしな……)
それに。
昨晩、リーエンの夢の中でセックスをして。
(とんでもなく良かった……)
という、ストレートな感想を抱いたアルフレドは、とにかく諸々の問題を解決して、一日も早く普通にリーエンとセックスをしたい欲が、それはそれはとてつもなく大きくなってしまったのだ。言葉を選ばずに言うと、セックスのせいで仕事の優先順位が変わったということだが、それは本来最優先事項になるべき課題なのだし、リーエンのおかげでアルフレドが「無理をしない」正常を目指すなんて、ヴィンスが聞けば飛びあがって喜ぶ進歩だ。
(以前だったら、そんなことのために、ただでさえ忙しいのにあれこれ調べる気も起きなかっただろうが……)
ああ、ヴィンスの「ご馳走」の例え話はなかなかに正しかった。人は一度美味しいものを味わうと、もう一度食べたいと思うものだ。そして、今のアルフレドはまさしくその状態だった。だが、そこにあるのは性欲だけではない。
彼は、夢の中だったとはいえマーキングの時よりはインキュバス寄りの自分を抑えることが出来た。(リーエンがどう思っているかはともかく)だからこそ、更に自覚が深まる。ああ、そうだ。自分が自分としてリーエンを抱くと、こんなに心も大きく揺さぶられるものなのか、とわからされた。
(何故あんなにリーエンは可愛いんだ?)
と、これまた間抜けなことを思うのだから重症だ。しかし、アルフレドは自分のその疑問をさほどおかしいと思っていない。自分が彼女に好意を抱いているとは思っているものの、未だに彼は彼女への恩義と恋情がごちゃまぜになっているからだ。彼もまた、リーエンとは別意味で恋の無自覚が存在している。そのせいで、リーエンの「どうしてわたしを妻に選んだのか」という不安をまったく解消出来ていないことに彼は気付いていない。
だが、彼は夢の中で素直に彼女を可愛いと思い、ずっとこうしていたいと思い、甘やかしたい、抱きしめたい、触れていたい……それらの感情は、マーキングの時には生まれなかったものだ。夢でこうなのだから、現実だったらどうなっていたのだろうかと思う。
とはいえ、セックスのために仕事を頑張るのか、というと語弊がある。条件が揃ったのでようやくその問題に着手出来る、というのが本音だ。昨日一昨日までは、以前ダリルが「緊急で」と持ってきていた大きな案件の山場だったし、本当に彼は多忙に多忙を極めており、距離を置くも置かないも考えられぬほど、ただただ忙しくてリーエンと過ごせなかった。
だが、今は他にも問題が片付きつつある。冥界の境界線で戦ってくれる竜人族当主が前回の戦いで深い怪我を負ったため、一時的にアルフレドが僻地の防衛強化をたった1人で行っていた。が、回復した当主に頼んで竜人族から増員させることになったので、明日にはそちらに回していた魔力も不要になる。他にもいくつかそういった案件が出てきて、魔界召集以来ごたついていた魔界が少し平和になり、アルフレドも無理な魔力運用を続けなくてすむようになる。「なかったこと」にする必要も減って来たし……。
(リーエンを抱いたせいか、インキュバス側も今日は楽に抑えられているし、魔力も体も少し楽になってきた。頭も心も僅かだがクリアになっているような気がする。どれだけ自分が無理をしていたのかは、回復と共に気付くものなのだな……)
だから、そろそろなのだ。リーエンに対することを準備しなければいけない。そして、ここまで日々放置していた彼女に、もう少し会いにいける時間を増やさなければ。巡礼に行く彼女が少しでも心穏やかでいられるように、また倒れることがないように、自分が寄り添わなければとアルフレドは思うのだった。
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