溺愛魔王は優しく抱けない

今泉 香耶

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リーエンの想い

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「おお、これは、先程お断りいたしましたが、ご相伴にお与かりしてもよろしいでしょうか」

「はい。ヴィンス様には先日も助けていただきましたし、是非とも」

 何やら彼らが拗れに拗れているというわけのわからない曖昧な情報が真夜中の居住エリアに飛び交い、夜番の女中達はありったけのものを用意してリーエンの部屋に運び込んだ。アルフレドは「やめろ」という権利がないことをよくわかっていて、借りて来た猫のようにおとなしくソファに座っている。

「結婚式のために選んだドレスが入らなくなると嫌なので、本当は暴飲暴食は避けたかったのですが……食べることで、一旦心を落ち着けようと思います。わたしにとって、これは本当に最終手段なのですけれど」

 最終手段に出るほど、自分は混乱している。そうリーエンは宣言をしているのだ。だが、それにしても、若干人の手を煩わせはするものの、彼女のそういった自分自身をコントロールする術は凄いものだとヴィンスは評価した。

 人は、時に不安な気持ちなどに耐えられず、暴食に走ることがある。食べている時は忘れられるとか、食べている間は他のことをしなくて良いからとか、美味しいと感じることが幸せに直結するとか。理由は様々だが人間も魔族もその辺りはあまり変わりがない。だが、それを「自分のコントロールのために意識的に」するとなると話は違う。意識して行うなら本当の意味の暴飲暴食には繋がらないし、己を落ち着かせよう、一旦フラットな状態に持っていこうという自制術の1つとしてリーエンは明確な理解をしている。しかも、正しくその方法の短所も理解している様子だ。ヴィンスは「切替も早い。なかなかの逸材ですなぁ」と笑った。

「リーエン様。食べながらお話いたしましょうか。それとも、終わってからお話しましょうか」

「そうですね。そろそろ、食べながらでもお話を聞けるぐらいには落ち着いてきたように思います」

 木いちごのパイ2つにスコーン1つを食べ終わった頃、リーエンはクッキーに手を出しながらそう答えた。そこまで、まるで発言権を失ったかのように静かにしていたアルフレド――リーエンもあえて彼に一言も声をかけなかったのだが――はソファに座り直して「すまなかった……」と謝罪を口にした。

「すまないも何も、話がまったく見えておりません」

「そう、そうだろうな。うん」

「アルフレド様は、あの時の神官様だったのですか。あの時お会いしたから、わたしを魔界召集で娶ったのですか」

 リーエンはもぐもぐと食べながら、感情の整理と共に色々と考えていたのだろうと思う。木いちごのパイ2つ分とスコーン1つ分考えていれば、初手から核心に迫った質問が出るのもおかしくはない。そして、それこそアルフレドが彼女に一番勘違いをして欲しくない部分だったので、ありがたいことに彼は即座にはっきりとした返答を出来た。

「あの日に会ったのは偶然だったし、本当に助かった。だが、これだけははっきり言っておくが、お前が魔界召集に選ばれたのは俺のせいではない。魔界召集は魔王である俺ですらいつ発生するかわからず、自分から決めることも出来ないものだ。とはいえ、発生するとわかってからは……お前が候補にあがるかもしれないとは前もって調べてあって……もし、お前が魔界に来たら、あの時の恩を返すために俺が娶ろうと思っていた。決して、お前を最初から魔界に転移させようと思っていたわけではない」

「……あれ以来、わたしは風邪ひとつ引かずに健康に過ごしました。それは、10年前にお別れする時にくださった祝福のおかげだったのでしょうか」

「それは……まあ、そうだ……その……そのせいで、お前が健康だからという理由で……姉ではなくお前が魔界召集の対象に選ばれたことは、少し申し訳ないような気持ちはある。いや、どちらにしてもお前の姉はもともと体が弱かっただろうが……うん……」

 そう言ってアルフレドは自分の前に置かれた、まったく手つかずのまま冷めた茶を飲んだ。ヴィンスは呑気に「この茶は美味しいですなぁ」などと言っている。

 アルフレドはリーエンに、当時自分が行っていた「魔王後継者の巡礼」について簡単に説明をした。自分が何故人間界にいて、何故あの森にいたのか。そして、魔力を使えないながらに、何かをリーエンに返したいと思って別れ際に祝福を施したということ。そして、その際に記憶操作や認識阻害の術は必須なのだということを話し、改めて「黙っていてすまなかった」と謝罪をした。

 それから、残りの巡礼3回の間、リーエンへ施した術が大丈夫か確認するために実はそっと見に行っていたと言えばヴィンスが「気持ち悪がられますから、黙っていた方がよろしかったのに」と茶々を入れる。それはヴィンスが正しい、とリーエンは思ったが黙ってスコーンに手を伸ばした。

「いつかは話すつもりだったのだが、事情があってお前の認識阻害を簡単に解くことが出来なかったので……それが、出来る状況になったら話そうと思っていた。それに、俺がお前を魔界に連れて来るために策を弄したのだと勘違いされたくなかったし、諸々のことが込み入って……こんな形で説明することになったことを、心から謝る」

 アルフレドを哀れと思ったのか、わずかながら彼の弁明を助けるヴィンス。

「リーエン様、このお方は魔界召集が発生すると聞いて、すぐにあなた様が対象になる可能性がどれだけあるのかあなたの国の貴族令嬢を調べさせました。可能性が高いと知ってからは、他の魔族からあなた様を守るため、あなた様しか娶らぬと決めて準備していらしたのですよ」

 リーエンは話を聞きながら、もぐもぐと2つめのスコーンを飲み込んだ。普段、こういった真面目な話をする時に彼女は物を食べながら聞く女性ではない。だが、今は逆にそうでもしなければ聞いていられない、といえるような心境なのだ。彼女にしては相当行儀悪く唇についたクリームを拭って茶を一口飲んでから

「わかりました。わたしとしては、謎がいくつかとけて、少しだけほっとしています。この10年とわたしはあの神官様のお顔や名前が思い出せなかったので、それがどうしてなのかずっと不安に思っていました。でも、それはわたしがどうかしていたのではなく、アルフレド様が施した術のせいだったと考えて良いのですね?」

と、冷静に尋ねる。

「そうだ。多分その……10年前の俺のことを……あの神官のことを思い出そうとすると、記憶になんとなくもやがかかったようだっただろう」

「ええ、そんな感じです」

「それは、当時の俺がとてつもなく下手くそな術でかけた認識阻害のせいだ。お前は人の名前はともかく、顔を忘れることは少ないだろうから、きっと思い出せなくて不安だったと思う。が、術を解けば……すぐにでも思い出せる」

「わかりました……10年前のお話は、あの、その……わたしも、色々とお話したいことがあるのですが……それは後ほど2人の時に……」

 今はヴィンスが同席しているので、という意味だろう。アルフレドはそれへ軽く「そうだな」と返した。

 ヴィンスが未だ同席しているのは、当然この後に続く「あるべき形」でリーエンが5日目の巡礼を行うためにやらざるを得ないことについて話し合うためだ。まだ、まったくそこまで話が進んでいない。

「ああーー……お腹いっぱいです……おかげで……少し落ち着きました……」

「よく食べたな」

「はい……よく食べました……」

 そう言ってリーエンは小さくアルフレドに微笑む。よかった、こんな状況になったのに、まだリーエンはきちんと自分に微笑んでくれるのだ。そう思ってアルフレドは少しだけ救われた気持ちになった。

「最小限の魔力で術をかけるため、ちょと小細工をして普通とは違う術のかけかたをしてしまってな……こんな風に、お前が魔界に来るだろうなんてことは当時考えていなかったし、一生お前が健康で人間界で生きられれば良いと思っていた。だから、それを取り消す可能性なんて考えていなかったんだ。そのせいで、取り消した時に相応のペナルティを与えられるような、粗悪な術を使ってしまったんだ」

「ペナルティと言うのは?」

「取り消すと、10年分運用していた魔力と等価の俺の魔力が暴走をする」

「暴走……?」

「魔族は自分が持つ魔力を当たり前のように手足のように使う。生まれた時からもっていたものだからな。だが、自分の思う通りにいかない魔力が体内に発生することがあって、それを暴走と表現する。抑えようと思ってもなかなか抑えられず、使おうと思ってもなかなか使えない魔力となって、突然意味もなく能力を発動させる種火のようになったり、突然自分の他の術を邪魔したりと、制御を超える力となる。それが10年分発生するということは、結構なことでな……そして、本来10年分阻害されていたお前の体にも影響が及ぶ。お前に発生するペナルティは俺が肩代わりするので心配しなくても良い。それに、俺は幼い頃から魔力の暴走には慣れている」

「わたしの分も引き受けようとおっしゃるのですか」

「そうだな……というか、そうせざるを得ない。今のお前がそれを受ければ、もともと持ち合わせていない魔力の影響を受けてしばらく寝込むことになるだろう。1日、2日のような話ではない。魔力を持たない人間にとって魔力は時に悪影響を及ぼすため、魔力漏れから身を守るバングルを渡したほどなので、それほどのものだとわかって欲しい」

 もともと、取り消す未来をまったく想定していなかった、ということをリーエンは責めることは出来ない。本来、別々の世界に住んでいる間柄だったわけだし、再会をしたことの方が確率が低い出来事だったのだとは理解をしている。

「なので、おまえの分も引き受けるつもりで、俺の魔力が安定してからそれを行おうと思っていたのだ。ここ最近、良い感じに整ってきたので……その、お前を先日襲おうとした後のことだが……このままなら、ペナルティを受け止められると思っていた矢先だった」

 それへ、ヴィンスは苦々しく補足をする。

「が、今は難しくなってしまいましたなぁ……」

「えっ? どうしてですか……?」

「本日、石扉の向こうへ強引に転移しましたので。あれは、アルフレド様でなければ誰もなしえない所業でございましたよ。折角安定してきたところにあんなとんでもないことをやってしまわれて、いや、おかげさまで術式解析を久しぶりに楽しくさせていただきわたくしめは大喜びですが、魔界が半分ほど吹っ飛ばされてもおかしくない程の魔力を運用なさったでしょう。しかも、使い捨てで。今はまた、もともと体から切り離していた魔力を補填して、無理矢理馴染ませようとしているところでしょうから、安定してるとは言い難いですなぁ……」

 ヴィンスの話は難し過ぎるが、自分が巡礼を失敗したせいでアルフレドがまた唯一無二と言えるほどの力でありえないことをやったのだということはリーエンにもわかった。

「それゆえ、今アルフレド様はとんでもなくインキュバス寄りになりかけているところを、ぎりぎり保っているという状況でもあります。それもあって、今リーエン様とあまり2人きりにしたくなかったのですよ。なのに、あなた様はよくもまあ、そんな状態で眠っているリーエン様の看病をなさっておりましたね?」

「俺もやれば出来るんだ」

「出来ていませんよ。おかげで、フラッフラじゃないですか。また、今は『なかったこと』にして回避しているだけでしょう? ええ、よろしくない、まことによろしくないです。そんなことをしていれば、ペナルティを受けるどころの騒ぎではない」

 ヴィンスは「フラッフラ」と表現したが、リーエンの目にアルフレドはそうは見えない。が、きっと彼が言うならば、アルフレドは見た目よりも大変なことになっているのだ、とリーエンは気付いて

「あの、あの、アルフレド様が大変でしたら、わたしはこのまま当分、神官様……10年前の、その、認識阻害? とやらの状態のままでも大丈夫ですから……」

と彼を心配する声をあげる。が、アルフレドは「リーエン」と彼女の言葉を遮った。

「その状態のままでは巡礼は失敗する。しかも、脳に直接影響を及ぼす術だ。何度も何度も受けさせることは望ましくない。少しずつ弱めてはまた巡礼をして、それでまた無理ならもっと弱めて……なんてことを繰り返させるわけにはいかないので、俺がどんなに酷い目にあおうと、今が解除する時なのだと思う」

「あ……」

「それで、だ……ここからが本題なのだが」

「ええっ、ここからですか?」

 ここまででも相当本題だった気がするが、とリーエンは驚きの声をあげた。

「ヴィンス師がおっしゃるように、俺は今相当インキュバス寄りに戻ってしまって、それを抑えている。最近はその……インキュバス寄りになっている時でも、お前しか抱きたくないのだがそうも言っていられない」

 お前しか抱きたくない、と直接的な言葉に「え」と声をあげるリーエン。嬉しい気持ちと、そこまで自分を、という戸惑いと、自分が彼にきちんと応えられていないのにという不安、多くの感情が一瞬でまざって無意識に出た声だ。

「インキュバス側を抑えている魔力や制御にかかっている意識や何やらは案外と大きいのでな……うまくいくかはよくわからないが、一旦、その……抑制を解除して、サキュバス達の力を借りて、欲求を満足させることで自然な形で抑え、かつそちらに使っていた分の魔力を使用して安定させようと思ってだな……」

「ええっ……」

「要するに、サキュバス達を抱いて来ようと思っているのだが、許されるだろうか」

「ふ、ふ、複数人必要なのですか……」

 リーエンのその言葉にヴィンスは「そこですかな?」と驚きの声をあげたが、リーエンは真剣だ。それへ、アルフレドも真剣に答える。

「必要だと思う。今の俺はお前だけを抱きたいのだし、その欲求が1人のサキュバスで満たされるとはどうにも思えない」

「で、でしたら、わたしがっ……」

「無理をするな。最初にお前を抱いた時の俺を思い出せば怖いだろう」

「それは、その、少しは……怖いです……でも、おかしいじゃないですか。わたし、わたしとアルフレド様が結婚するために、どうしてわたしではなくて他の方がアルフレド様と性交をしなければいけないんですか……そんなの、絶対におかしいです」

 そのリーエンの言葉にアルフレドは目をぱちぱちと瞬かせた。まったくそんな発想はなかった。以前リーエンに話した通り、彼にとってはサキュバスとのセックスは治療のようなものだったからだ。それはある意味正しかったが「リーエンとの結婚のためにリーエンの代わりに抱く」という視点がそこに加われば、確かに話はおかしいのかもしれない。

 そして、ヴィンスもまたアルフレドと同様で「他の女性とセックスするのであれば、それはまあ事前に話しておいた方が良いでしょうなぁ」程度に思っていたものの、リーエンのような発想には至っていなかった。男2人は目から鱗が落ちたように、この状況で少しばかりきょとんとしている。

「ヴィンス師、俺の提案はおかしいだろうか?」

「う、ううーむ、確かに、そう言われればそうかもしれませんなぁ……」

 きっとここにダリルでもいれば、リーエンの気持ちを解せない男2人を「脳なしだ」と一刀両断したに違いないが、残念ながら彼はいないので、リーエンは1人で立ち向かうしかない。

「おかしいですよ。それに、それにですね……あの、この先もアルフレド様がそうならない保証はないわけですよね……? 年を重ねれば、インキュバス側になりにくくなる実績があるとはお伺いしましたが、いつそうなるのかはわからないわけですし……」

「まあ、そうだな……」

「結婚後も他の女性のところに行かなければいけない、ということが続くのであれば……だって、それをどうにかしようということで……この前、夢の中で行ったじゃないですか……だから、その、わたしは、怖いですけど、もうあの時から……どういう状況でも、わたっ……わたしだけにと……出来れば……」

 少し声が小さくなっていくが、それは「こんなことを自分が言える立場ではない」という遠慮がリーエンにあるからだ。

 ヴィンスはちらりとアルフレドを見て、ふわっとロッキングチェアを浮かせた。ここからは2人で話しあった方が良いのだろう、という彼の意思表示だ。彼は退出の言葉も告げずにドアに向かい、リーエンもそれに声をかけずに言葉を続ける。

「我儘を申し上げているのはわかっています……怖がったのはわたしの方ですし、距離を置いたのもわたしです……でも、それでも……わたっ、わたしは、わたしのことを好きだと……そうおっしゃってくださったアルフレド様が他の女性のところにいかれるのは……おかしいと……いえ……わたし、嫌……嫌です……」

 そう告げながら、リーエンはまたボロボロと泣き始めた。アルフレドは「今日は泣かせてばかりだな……」と言いながら彼女の隣に移動をして、彼女が泣き止むまで「まいったな」と大いに反省をしながらそこに居続けたのだった。
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