溺愛魔王は優しく抱けない

今泉 香耶

文字の大きさ
39 / 46

天啓の言葉

しおりを挟む
 その夜、リーエンは早めに湯あみを済ませると、部屋のチェストにしまっておいた姉と揃いの手鏡を取り出した。金属製の美しいフレームに楕円形の鏡が埋め込まれており、裏返すとふっくらとした貝殻に美しい花の浮彫を施したものがはめ込まれている。

「ダリル様に持って来ていただいて、本当に良かったわ……」

 その浮彫部分は外せるようになっており、リーエンはそこに「忘れたくない言葉」を書き写した小さな紙を3枚挟んでいた。彼女は昔から言葉を一言一句間違えずに覚える、ということがあまり得意ではなかった。が、時には意味を理解していても「その言葉だからこそ響く」ものがあるとも知っている。だから、大切だと感じた言葉はいつでも見返せるように、旅行に行く時にも持ち歩いていたこの手鏡に忍ばせていたのだ。

 1枚目は父親が語った貴族の矜持。2枚目は在りし日の母親が教えてくれた令嬢としての心得。そして3枚目は。

(ミランダ様……)

 10年前のあの日。歌姫ミランダがリーエンに「天啓」を伝えようとしたが、消耗したミランダは倒れてしまい、リーエンは天啓すべてを聞くことは出来なかった。

 リーエンのもとに一通の手紙が届いたのは、母親の葬儀が終わった数日後のこと。それは、リーエンの母親の死去を知ったミランダが「リーエン様が落ち着いた頃に届けて欲しいのです」と当時の訪問先であるファザーラ卿に託したものだった。

 どうやらミランダは読み書きがあまり得意ではなかったようで、多くのことは書かれていなかった。だが、天啓のすべての文言は間違いなく書かれており、リーエンは「もう終わったことだけど」と思いつつも「折角いただいた言葉だから」と書き写して手鏡の裏に入れておいたのだ。

――あなたは近々、彷徨い困っている青年と出会い、その青年から生涯の助けを得るでしょう。ですが、青年を助けるかどうかは、あなたの意思で。それは大きな……――――

 手紙には、その続きがしたためてあった。

「それは大きな力に翻弄される者ゆえ困難も多く、時にあなたを苦しめますが、あなたを必要としています。もし、手を差し伸べなければあなたは静かな人生を送り、青年はただ困難と共に生きていくことでしょう」

 リーエンは、これを読んだ時に「彼が仲間に森に捨てられたこと、あらぬ容疑をかけられて追いかけられたことが困難だったというなら、すべて終わっているわ」と思った。そして「生涯の助けというのは、お別れの前に神官様がわたしにしてくれた祝福のことなのでしょうね……」と思った。だって、この先の人生に彼と再び接点が用意されているなんて、これっぽっちも思えるはずもなかったから。

 そう。終わったことだと思っていたのだ。だが。

「ミランダ様は、すごいお力を持つ方だったのね……」

 今ならばわかる。彼女の天啓の文言は、当時のアルフレドとリーエンに対する言葉ではない。彼が大きな力に翻弄されているのも、困難が多いのも、そして、リーエンが苦しんでいるのも、あの夜ではなくて今のことだ。

 感極まったリーエンは、自分が書き写した小さな紙をそっと胸に寄せて瞳を閉じた。ああ、なんということだろう。アルフレドの認識阻害を解除してもらったらすべてがはっきりとしてきて、今、自分の心は彼を愛しいと思う気持ちで満ちている。

 彼が施していた術は、10年前のアルフレドが「自分を認識させない」ためのものだった。が、アルフレドがそれを解除してしまったあの夜、夢の中でリーエンは間違いなく「神官の顔」をはっきりと見た。そして、映像記憶に優れているリーエンは、彼が術を掛け直すまでの僅かな時間で無意識に「あの神官はアルフレド」と脳内で紐づけてしまっていた。その結果「10年前のアルフレドを認識させない」術でありつつも、いくらか「アルフレドを認識させない」ような作用も起きていたのだろう。

 勿論、そのことを知らないリーエンは「どうしてあの日からアルフレド様のことを考えると、ぼんやりするようになったのかしら……」と思っていたのだが、これはアルフレドにとっても誤算で、推測不可能な現象だったと言える。

 とにかく、10年前のアルフレドを思い出せないだけだったはずの術を解除したら、現在のアルフレドに対して抱いていた「ぼんやりとした感情」までも、突如鮮明に感じられるようになった。以前のように、自分が彼のことをどう思っているのか考えている間に「どうでもよくなる」ような不可思議な現象が消えた。

 そして。

「ああ……どうしよう……わたし……」

 まるで、突然心に流し込まれたかのような強烈な感情が広がっていく。リーエンはそれを持て余して、戸惑い、呆れ、恐れる反面、じんわりと噛み締めずにはいられない。

 アルフレド様にお会いしたい。お話したい。それから。

(触れて欲しい。今度こそ、ちゃんと好きですってお伝えして、幸せな気持ちに満たされながらあの人に抱きしめて欲しい)

 そんな感情が沸々とわいてきてしまって、リーエンは「ああ、駄目駄目、考えちゃ駄目……」と声に出して雑念を払おうとする。が、それが出来るなら苦労はしない。

(どうしよう、わたしったら、こんなにアルフレド様のことを好きだったなんて……ああ、あの方のことを笑えないわ……)

 そう。リーエンもまた、アルフレドが「自分の感情は後回し」にしていたのと同じく、認識阻害のせいで彼について深入りすることが出来ていなかったのだ。

(アルフレド様が起きたら話をしたい、だとか、アルフレド様のことを心配したりとか、そういったことは問題なく出来ていたのに。もっと、心の内側のことだけが覗けなくなっていたのかしら……そこが自分にとって一番大切なことだったはずなのに)

 ヴィンスからアルフレドが突然の自覚を得た話を聞いた時に「そんなことがあるものなのかしら」と思っていたが、他人事ではなかった。自ら体感してしまっては、もう彼を責めることなぞ出来はしない。いや、別の意味で責めたい気持ちはあるけれど。

 きっと心のどこかには既にアルフレドのことを異性として意識をして、ずっと愛しいと思っていたのに、いつでもどこかその感情がぼんやりとしていたのは彼の術のせいだ。さすがにリーエンも理解出来ないながらもそれには気付く。ぼんやりとしていたけれど、自分の心にはいつだってきっと彼への感情があったのだ。だって、そうではないか。庭園でアルフレドが女性と歩いている姿を見て、あの時にはすでに心がざわついていて。

(あの時は、まだアルフレド様の認識阻害とやらはかけ直されていなかったはずですもの)

 まるで、視界の隅で生まれていた感情の芽に向かい合えず、それが伸びていく姿を見ることが出来なくなったまま、今突然目の前で開花したかのようだ。その花はあまりに大きく美しくて、今度は目を逸らすことが出来ない。自分の恋心から逃げられない。ほんの僅かでも後回しにすることが出来ない。それがこんなに息苦しいものだとは彼女は知らなかった。

「ああ、どういうことなの……?」

 手首のバングルにそっと触れる。これを彼からもらったことが嬉しかった。そうだ。嬉しかったはずだ。だが、今強烈に感じている思いは、そんな簡単に「嬉しい」という言葉で表現できるものではない。

 アルフレドはバングルがリーエンの体に「溶ける」術を施したと言っていた。まだ結婚もしていないのに、彼からもらったものが自分の体の一部と溶けあって、いつでもそこにあるものになっているなんて。

(あまり、そういう……ロマンチストではないのに……わたしったら……どうしてしまったんだろう……)

 泣きたくなるぐらい、このバングルが愛しい。いや、泣きたくなるどころではない。そう思った時にはもう目の縁に涙が込み上げてきていた。自覚をした途端、アルフレドへの思いがまるで大きな波にように押し寄せてきて、リーエンは自分の心を抑えられなくなっていく。これでは、まるでインキュバス寄りになってしまうアルフレドと同じではないか……とちらりと思えば、彼もこんな風に自分を思ってくれているのだろうか、と心が熱くなってしまう。そして、心が体に繋がっていることを、溢れそうな涙が彼女自身にわからせようとする。

 会いたい。彼に好きだと言ってもらって、自分も彼に好きだと告げて、彼に触れてもらいたい。

 異性に対してそんな風に思うことは初めてだった。そして、以前のリーエンだったらそれを「はしたないと思われるだろうか」と躊躇していたに違いない。だが、それは今彼女の瞳に溜まっていく涙と同じだ。心は時に体を勝手に動かす。そして体が愛しい人と触れ合えば心を満たすように、簡単に切り離すことが出来ないのだ。

(やっとわかった、ような気がする。これが、アルフレド様が今までの性交で手に入れられなかったものなのね……)

 治療だとか食事だとか。彼はサキュバス達との交わりをそう比喩していた。きっと、それは体だけのもので、いつでも彼の心はおきざりで、なおざりにされていたのだろう。こんなに心と体は繋がっているのに。だからこそ、彼はあんなにも自分を抱きたいと思ってくれていたのかもしれない。なのに、箍が外れると彼は心が伴わない、インキュバスの本能だけで抱いてしまうなんて。

「どうしましょう……どうしたらいいの……」

 アルフレドに会いたくて、会いたくて、ついに涙が零れてしまう。まさか、こんな日が突然やってくるなんて思ってもみなかった。

(次にアルフレド様とお会いするのは、アルフレド様がインキュバスの本能とやらを抑えていない状態だったはずだわ……)

 それが、本当は少しだけ怖かった。怖いけれど仕方がないと思っていた。なのにどうだ。今は不思議なことに「もしそうなっていても、怖くない」と思える。魔界召集の初日の、ひたすら快楽を送り込まれて貪るように抱かれた時の恐怖を忘れたわけではないけれど、今の自分の心ははっきりと違う。

(だって、あんな風にひたすらに快楽だけを求めた性交は、どこか……)

 どこか、助けを求める叫びにも今なら思える。それこそ、心が置いて行かれた行為だからだ。あれが治療ないしは食事と彼が評したことが腑に落ちた今、出来ることならば心が伴った自分を抱いて欲しいと思えるほど、彼へのわだかまりが消えていく。

 彼が自分を好きなことが本当でさえあれば、少しぐらい荒っぽいことをされてもいい。リーエンはそんな風に思う自分を今までの人生で知らない。自分の心の変貌に彼女は恐れを抱き、けれど、恋を自覚してしまえばそれは幸せな恐れなのだと思える。これが、ダリルが言っていた「恋の魔法」とやらなのだろう。

「なんてことかしら。わたし、こんなに心が揺れてどうしようもなくて……こんな思いにさせられるなんて、なんて酷い人なのかしら……アルフレド様……ああ、でも、個人のことで心を乱している場合ではないのに……」

 彼への感情に苛まれながら、リーエンは他にも問題があることを決して忘れない。明日は2度目の「5日目」の巡礼だ。うまくいくのだろうか。それが彼女にとっては一番手近な問題だ。

 一度失敗しても大丈夫だとアルフレドは言ったが、本当だろうか。彼が力を使ってあの石扉の向こうに侵入したと聞いたが、それらの行為のせいで巡礼の仕組みは変わっていないだろうか。そうだ。自分は。

 彼の妻に、本当になれるのだろうか。

 改めてそのことに思い当たった途端、リーエンの呼吸は浅くなる。彼の妻になれなかったら、巡礼が失敗したら、もしかしたら自分は殺されてしまうかもと以前は思っていただろう。むしろ、それだけだったらどれだけ楽だったのだろうかと思えてしまう。

 嫌だ。失敗をしたくない。あの人の妻になりたい。自分が出来る限りのことで、あの、優しくて強い人――彼がリーエンを評した言葉だがリーエンはそれは彼にこそ相応しいと思う――を支えていきたい。そんなことを思うことは傲慢だろうか。

 リーエンは椅子に座って縮こまって、ぎゅっと両手を胸の前で組み合わせた。明日が怖い。失敗することが怖い。あの人の妻になれないことが怖い。いつでも前向きでいようと思っている自分を、こんな風に思わせてしまうこの恋が怖い。どうしよう。もし、失敗したら、もう二度とあの人の隣に立つことが出来なくなるのだろうか。いつもの彼女ではありえないほど良くない想像に振り回されて、リーエンは最後に「もし、そんなことになったら、二度とあの方に触れてもらえないのだろうか」と思い、涙が止まらなくなる。

「駄目……駄目よ……明日、巡礼に行くのですもの……こんなことを考えていては駄目。絶対、絶対成功させるんだから……」

 そうだ、口に出さなければ。不安に押しつぶされそうな時は、己の矜持やすべきことを声にして、自分の耳に送り届けて脳に何度も言い聞かせろと父から教わっていた。大丈夫、明日頑張ればきっと。何もわたしに問題はないとヴィンス様はおっしゃっていたし。何度も何度も、自分を勇気づけるようにリーエンは繰り返す。が、一度広がった心の暗雲と、一方でアルフレドを思う気持ちがないまぜになって落ち着くことが出来ない。

「ああ……アルフレド様……」

 と、その時。

 ドン、と部屋全体が揺れるような衝撃。リーエンは軽く「きゃっ」と声をあげて、咄嗟に目の前のテーブルに掴まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

最後の女

蒲公英
恋愛
若すぎる妻を娶ったおっさんと、おっさんに嫁いだ若すぎる妻。夫婦らしくなるまでを、あれこれと。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

聖女は秘密の皇帝に抱かれる

アルケミスト
恋愛
 神が皇帝を定める国、バラッハ帝国。 『次期皇帝は国の紋章を背負う者』という神託を得た聖女候補ツェリルは昔見た、腰に痣を持つ男を探し始める。  行き着いたのは権力を忌み嫌う皇太子、ドゥラコン、  痣を確かめたいと頼むが「俺は身も心も重ねる女にしか肌を見せない」と迫られる。  戸惑うツェリルだが、彼を『その気』にさせるため、寝室で、浴場で、淫らな逢瀬を重ねることになる。  快楽に溺れてはだめ。  そう思いつつも、いつまでも服を脱がない彼に焦れたある日、別の人間の腰に痣を見つけて……。  果たして次期皇帝は誰なのか?  ツェリルは無事聖女になることはできるのか?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...