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冤罪②
しおりを挟むそこは、クロエ嬢が懇意にしているとある貴族令嬢の母親──サリバン婦人が主催するサロンで、新進気鋭の作家や芸術家などを集めて交流する、帝都でも名のしれた邸宅だった。
(なぜデヴォン伯爵家ではなく、ここで?)
ふとそんな疑問が頭をかすめたが、もしかしたら人を介した方が丸く収まると思ったのかもしれない。
なにせクロエ嬢は気弱で、集団でないと意見の一つも言えないタイプだ。
見ようによってはしたたかとも言えるだろう。
家人に案内された応接室には、既にクロエ嬢とサリバン婦人が座ってお茶を飲んでおり、私を見つけると二人は同時に立ち上がって礼をした。
『リリティス様、今日は来てくださってありがとうございます』
殊勝な態度には期待が持てる。
『エルベ侯爵令嬢においでいただけるなんて光栄ですわ。さあ、どうぞお掛けになってください』
最初は貴族のお約束というか、狸の化かし合いのような会話が続き、本題は二杯目のお茶が用意されるタイミングで、クロエ嬢が切り出した。
『私、今日はどうしてもリリティス様に謝らなければと思って……』
クロエ嬢がそこまで言うと、サリバン婦人がなにかに気付き、顔を向ける。
その視線の先を目で追うと、焦った様子のメイドがこちらへやってくるのが見えた。
メイドに耳打ちされた婦人は、慌てたように席を立つ。
『申し訳ありません、どうやらお客様がいらしたようで……少し失礼いたします』
わざわざ婦人が対応しなければならないとは、地位のある客人なのだろう。
(けれどあらかじめ予定を聞いておくのがマナーなのに……よほどの急用なのかしら)
『話を戻しますが……私が謝りたいのは、レティエ殿下とのことです』
謝罪と言うからには“人の婚約者に手を出してすみません”と頭を下げるのかと思いきや、クロエ嬢は不敵な笑みを浮かべた。
『婚約者を取られてさぞかしおつらいでしょう?ですが、殿下はリリティス様との結婚を望んではおられませんの。陛下や重臣に押し切られ仕方なく結んだ婚約だったと……ですから、私とのことはどうかお許しくださいませ』
──殿下は私に癒やしを求めておられるのです
続けてそう言われ、頭に血が上った。
『……例え殿下が望まなくとも、この婚約は覆すことなどできません……!』
落ちつけ。
殿下が私を愛していないことくらい、最初からわかっていた。
それでも婚約を望んだのは私だ。
『私も貴族に生まれた身……事情は十分わかっております。けれど私、どうしても殿下を解放して差し上げたくて』
クロエ嬢が優雅な手つきで、お代わりの注がれたティーカップを口元へ移動させる。
『どうか恨まないでくださいね、リリティス様』
薄気味悪い微笑みを浮かべ、クロエ嬢は紅茶を口に含んだ。
そしてそのすぐあと、ゆらりと身体が揺れたと思ったら、彼女の身体は床へと落ちた。
『クロエ!!』
私が発するより先に、後ろから聞こえてきた声に驚愕する。
『レティエ殿下!?』
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