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学園編
26.冤罪だ!2
しおりを挟む――私の一言に、パトリックが光の速度で反応をしたように思えたのは……私が、歪んだものの見方をしているからだろうか。
「どこだ?」
給仕カウンターと席の間に視線を送っていた最中、視界の端に見慣れたライトブラウンが揺れているのが見えた。後ろ姿だけで分かってしまうのが何とも嫌になってしまうが、あれはマリー・トーマンだ。
やけによろめきながら歩いている様子なのが気になる。
「あそこです。パトリック、彼女を――」
見てきてくれ、と私が言うまでもなく、パトリックは彼女の下へと走った。
…………うん、知ってる。大丈夫、想定の範囲内だ。
パトリックはマリー・トーマンのことを守るだろう。
クリストフ殿下が彼女の傍にいることができない時は、ずっと……傍で……。
――って、あれ? あの子……なんで、こちらへ向かって歩いて来る?
ミーシャ・デュ・シテリンは、マリー・トーマンと友好を結ぶ気はない。
――って、え、ちょっと待って、あの子なんであんな物持ってるの?!
彼女の手には、大きな鉄製のポットが抱え込まれていた。大きすぎる……あれはカートの上に置いて移動させるタイプのものだ。手で持つ用のポットは、白い陶器製の代物が別にあるのだが。……彼女の傍にいる女子生徒の様子を見る限りでは、意地悪をされたらしい。
パトリックも彼女からポットを受け取ろうとしているようだが、難しいだろう。中身は熱湯だ。マリー・トーマンもタオルを巻いた上で抱えている。いくらパトリックが頑丈にできていようとも、ポットを素手で受け取れば火傷をする。
一体なぜあんな事態に陥っているのか?
一人なら、あんな大きな物を持ち歩いているわけもない。ということは――友人のためだろう。彼女のルームメイトかな? どこにいるか……やや離れた所で誰かを探しているような様子のルームメイトたちを見つけた。
しかし、困った。
今の私はミーシャ・デュ・シテリン。彼女たちとは認識がないし、ヘタに動けば悪目立ちする。
「貴女! パトリック様に何をなさっているの?!」
聞き覚えのある声に、目眩がしそうになる。あの子は本当に……いや、私に人を見る目がなかったということか。
またしても、デリア・リナウド侯爵令嬢がマリー・トーマンに喧嘩を売り始めたのだ。しかもパトリックを引き合いに出して更に喧嘩を始めているようだ。
遠目にもパトリックが殺気をみなぎらせ始めたのが分かった。
デリアには分からないのだろうか……。
「リナウド嬢、私は問題ありませんのでここは退いていただけませんか?」
「いいえ、パトリック様! わたくしは分かっておりますわ! その端た女に同情されていらっしゃるのでしょう? ですが、その愚か者には過ぎた好意ですわ。わたくしが愚か者の目を覚まさせて差し上げますわ!」
デリアの甲高い嘲笑が周囲に響き渡る。
彼女の今の気分が概ね想像できてしまうのが辛い。マリー・トーマンは今の段階でクリストフ殿下と噂になっていただろうか? 脳に残っていないだけか?
どちらにしろ、周囲の人々はデリアを止めるでもなく、マリー・トーマンを助ける素振りも見せていない。この騒ぎを、他人事として楽しむと決めたようだ。
そろそろマリー・トーマンの腕が限界のようだ。このままでは、彼女を守るためにパトリックが無茶をしかねない。
「――デリア! これは何の騒ぎなの?」
「ミーシャ様……!」
驚いたような顔で、デリアはこちらを振り返った。
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