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学園編
25.冤罪だ!
しおりを挟む王立学園には終業式というものがない。
前期の修了考査が終わると、各々好きなタイミングで帰省してしまうのが常だ。この際のカリキュラムなど、あってないようなものへと成り果てる。
――だが、今回は違った。
何しろ、王族であるクリストフ殿下が学園へ残ると発表したのだから。
前回も、彼は王宮へ帰らなかった。あの頃は深い理由など考えなかった。耳に届き始めた『マリー・トーマン』のせいかとさえ思っていたくらいだ。
『わたくし』は本当は戻りたくはなかったが、実家へ戻り憎い恋敵を排除するための根回しを始めていたのだ。前回も……クリストフ殿下の境遇が変わっていないのだとしたら、そんな単純な話ではなかったのだ。
……私はどこまでも、愚かだった。
今回はどうすることが正解なのか。
町屋敷へ戻った方が寄付金稼ぎは格段にやりやすくなる。家族全員が知っているので、周囲の目を気にしてコソコソする必要もないし。
帰省するには、前もって学園へその旨を届けておかなければならない。使用人の手配などがあるからだろうか。私もその返事をするために、事務手続きへ向かったのだが、ちょうどランチ時に当たってしまったようで担当者が不在だった。
彼等はわがままなお嬢様の相手に慣れ過ぎていたのか、「すぐに呼び戻す」と言い始めたので、改める旨を伝えるのにも一苦労した。
そんなわけで、ミーシャの姿のまま、久方ぶりに食堂へとやって来たのだが……。
来て早々に後悔した。ナナミ・キクハラである自分に慣れ過ぎていたのか、一斉に注がれる畏怖を含む視線に背筋がぞくりとした。
……か、帰ろうかな……。思わず後ずさると誰かにぶつかってしまった。
「すみませ――」
「いえいえ、こちらこそすみません。お怪我はありませんか? ミーシャ嬢」
……王子様然としたキラキラとした笑顔を向けてくる……パトリックの姿があった。
パトリックは数人の女子生徒にまとわり付かれていたが、私と話をするよう見せかけて彼女たちを追い払っていた。
「くっそ……忌ま忌ましい!」
とてもとても小さい声でパトリックがそう愚痴っている。――聞こえない聞こえない……。
食堂の一画には、異様に豪華仕様となっているエリアがある。
外の景色が最も美しく見ることができる席だ。プランターで衝立までされ、特別仕様の華美なインテリアが施されている。床には赤い絨毯が敷かれ、ほかより二、三段高くなっている。設置されているテーブルは、他の席と異なり全面金の装飾が施されていた。
前回、あの席は、学園内の権力闘争に勝ち残った上位貴族によって独占されていた。そんな面子も……『わたくし』にとっては、有象無象でしかなかった。
先輩への畏敬の念も何も持たなかった『わたくし』は――――威圧し退かし、諸々のご迷惑をかけまくって、この席を奪い取った。
それが当然のことだと思っていた。殿下は当然、そんな自分の隣に来ると思っていた。結局、殿下はそんな『わたくし』を冷たく一瞥して、立ち去った。
どれだけ追いすがっても、彼は振り返らなかった。当たり前だ。
……なぜ、あんなにも傲慢な考えがあったのか。
……今回は目立たない席で生きたい……。
「……あそこでいいか?」
「え?」
パトリックは観葉植物の影となり、ギリギリ例のエリアが視界に入らない席を見つけ出していた! 周囲にも人のいない良い席だ!
「大丈夫です! あそこにしま――――あれ? マリー・トーマン?」
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