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学園編
29.――罪
しおりを挟む殿下が医務室を後にして数秒後、私は別ルートから寮へと全力ダッシュをしていた。殿下のことは諸々気にはなるものの、今最優先で考えなければならないのは、マリー・トーマンのこと!
あんな騒動起こした後だ、どこの貴族が彼女に絡むか分かったものじゃない!
「――ミーシャ!」
「わっ!」
曲がり角の死角から、今度はパトリックが現れた!
勢いのまま私の手をつかもうとして、慌てて引く。これは…………全く!
彼の中でどんな非常事態となっているのかは分からないが、そんな中でもこちらの痛みを気遣っている。そんなに周囲にばかり気遣いしているとストレスで倒れませんか?!
「お前、大丈夫なのか?」
パトリックの顔色が悪い。
何が彼をこのような状況に追い込んでいるのだろうか。……私の心配をしているから? 私の心配をするという行為自体が、彼の精神を嘖んでいるのでは?
過去、私は自分がパトリックにしたことを覚えていない。殺したことしか。
もしかしたら、私が覚えていないだけで彼の心理的外傷をえぐるようなことを、沢山しでかして来たのかも知れない。
「おい?」
「あっ、はい、大丈夫です」
「……治療は?」
「え? あ、ああ……」
パトリックの目が、治療の痕跡が見られない私の腕を捉える。まずい。あの熱湯を被って無傷ってあり得ない。私だってものすごく痛くて、あれは『演技でした!』と言い逃れできないレベルで痛がってしまった。
パトリックも騙されてはくれないだろう。
「クリスが手当したんだろ? ……ん? クリスは?」
周囲を見回し、パトリックは問いかける。その瞳から、彼の意志を読み取ることはできない。マリー・トーマンを巡って、彼と殿下の間には微妙な何かが立ちはだかっていたりするのだろうか。
「医務室からは出て行かれましたよ。パトリックと一緒にいると思ってましたけど……食堂に戻ったのかも――――あっ! あの、マリー・トーマンはどうなりました? 大丈夫ですか?!」
「あ……ああ……」
殿下が追い出した医師は、ちゃんと食堂へ向かったらしい。
怪我人はいなかったようだが、医師は一枚上手だったらしい。殿下が手配したため、『事後報告をしなければならない』と主張し、周囲の生徒へ事情聴取を始めたらしい。思うところがあったのか――重箱の隅をつつくような事情聴取を。
大義名分を得た医師の追求から逃れるため、蜘蛛の子を散らすように不審者は去って行ったらしい。
早々に事態の収拾はついたと言ってよいだろう。
マリー・トーマンの顔と名前が、広く知られる前にことが澄んだようで良かった。今の彼女の精神状態が心配だ。この学園にカウンセラーがいるとは思えない。
……どうしよう? マリー・トーマンが今の段階で殿下に恋心を抱いているようなら、彼に慰めてもらえるように取り計らえば少しは元気になるだろうか?
――よし、ちょっと今のマリー・トーマンの状況を、ナナミとして確認しよう。
マリー・トーマンはこちらの想像の斜め上を行く生き物だ!
「パトリック、私、ナナミになってマリー・トーマンの様子を見――」
「――お前はもういいから!」
「え?」
……沈痛面持ち、とはこういう表情のことを言うのだろうか。どうして、だろう。なぜ、パトリックがこんな表情をする? なんで……私なんかに…………。
「もういいから……危ない真似、すんな」
パトリックは、真っ直ぐにこちらを見て問いかけてくる。その視線を向けられると――落ち着かない。治癒能力を隠しているからだろう。うん……。
「は……い……」
「無茶すんなよ、阿呆」
「ぅわっ!」
パトリックは小さく溜め息をついて、軽く私の髪をかき上げたというか頭を……軽く…………うん、こづいた。私は頭をこづかれた。
彼は彼なりに私のことを心配してくれていて、やきもきしていたのだろう。
お手数おかけして、本当に申し訳ございませんでした……。
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