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学園編
40.またしても伏兵は自分3
しおりを挟むドレスはそれなりに目立つ物を用意した方がいいだろうか。
ナナミとしてなら、適当な安物ドレスでよかった。けれど、ミーシャ・デュ・シテリンとして出るのだ。それも、パトリックとの噂を振りまくために。
悪役令嬢にふさわしいドレスの方が良いかな? 最近は流行が変わったのか、胸を強調するデザインが増えてきた。
王妃様やマリーに届けられたドレスは、従来の胸を潰すタイプ。
前回、私が着ていたのも潰すタイプ……うーん、日本の感覚で言うと胸を強調するデザインも別に気にならないんだけど。これを強調と言うなってレベルの代物だし。
ドレスを調達するために急遽、町屋敷へ戻ってきたわけなのだけれど――着せ替え人形にされた……! ナナミモードでの着せ替えも楽しまれ、倍疲れた……というのに、私用のドレスは前もって用意されていたらしいのだ!
まんまとおもちゃにされた! 全く!!
「紺に金色の刺繍か……宵闇のようだな」
なんだか他人事のように、父がそう評した。
――何を今更。父様が手配したんだろうに……うーん……宵闇か…………。
「…………娘よ、父は■■には逆らえんのだ。すまんな」
◇
「――こんな時間に何をしている?」
「うわっ! で、殿下……」
――驚かさないで欲しい……。
現在の時刻、午後八時を過ぎたところ。
当然、周囲は真っ暗だ。通常の夕飯時刻もとうに過ぎているこの時間帯に、寮の外を彷徨いている生徒はまずいない。現代日本を基準として考えれば早いよ! と思ってしまうが、全寮制の学校だしこれが普通か。
この暗さがあったから、シテリン家の馬車で、ナナミ仕様の私が誰にもばれずにコソコソと戻ってくることができたのだけれど。家族に散々おもちゃにされたせいで、帰宅予定が大幅に狂ってしまったのだ!
――ま……まずい……。
今の私の手には、手に入れたミーシャ仕様の豪華なドレスが……!
一見するとただの大きな白い箱だが、見る人が見ればすぐに分かるだろう。殿下も気付いているに違いない!
「……君は、出ないのではなかったか?」
「あ、ええと……マリーが出るみたいだから、その……」
「そうか。彼女へは私からドレスを贈ろうかと思っていたのだが――」
「え?」
……贈って………………ない?
「あの、殿下はマリーにドレスを贈っていないのですか?!」
「早急に手配をしなければと思ってはいたのだが――」
私がバイトと自分のドレスを用意している間に、クリストフ殿下はマリー・トーマンを誘っていたらしい。パトリックが動いたのだろうか?
「少々トラブルに巻き込まれているようだからな」
――ち、違った……。ん? トラブル?
クリストフ殿下の言いづらそうな様子を見ると、もしかすると女の陰湿な諍いを目にしたのかもしれない。
「君は、パトリックと出るのかい?」
「え? は――」
――違う違う! 出るのはミーシャ! 今の私はナナミ! ああもう、ホントにややこしい!!
「い、いえ? えっと、と、友達と? そ、そう! 女の子同士で参加しようということになってるんです! 抜け駆け禁止ということになっているんです!」
「抜け駆け? ははっ……そうか」
遠くにある寮や食堂の明かり頼りな薄暗がりの中だから、気のせいかもしれないのだけれど……殿下の目が、私の手にある箱に注がれているような気がする。
「……それは、気に入った?」
「え? ええと……はい」
ば、ばれてるのか。ま、まあ中身を見せない限りばれないよね! それに、確かにこれは結構良いドレスだった。父様の趣味にしてはなかなかの代物。
「そうか」
薄暗がりの中だから、もしかしたら気のせいかもしれないのだけれど……殿下の目が、穏やかなような気がする。この目、この視線は、かつての私が死ぬほど焦がれたそれに、とてもよく似ているような気がする。
マリー・トーマンに向けられていた、穏やかな優しい視線。
傍目に見ても分かるほど、特別な相手に送る視線を、向けられて、いる……?!
い、いや、気のせいだ。だって――――――――――――――正しくない。
殿下は、いずれ必ずマリー・トーマンを好きになる。今だって、私が知らない間に前回と同じ展開になっているじゃないか。そう、前回と――――あ。
「あの……殿下はマリー以外の誰かに、薄紅色のドレスを贈ったり……されましたか?」
「いや、それは知らないが何かあったのか?」
殿下はピンと来ていないような顔で、私の質問に否を返してきた!
「ああ、薄紅色のドレスと言えば、リナウド卿も御息女のために同色のドレスを用意したと聞いたな」
へえ、珍しい。デリアは昔から若草系のドレスばかり着ていたのに。前回もそうだった。ピンク系だとすると、マリー・トーマンと被るな。
マリー・トーマンともめる可能性大になってきたな。
◇◆◇ ◇◆◇
学園の使用人を挟んでいる以上、検閲は行われているし、私だって確認したけれど異常はなかった。でも、あのドレスをマリー・トーマンに着せるのは辞めた方がいいかもな。同じデザインのドレスを急遽作ってもらうとして……あのドレスを贈ってきたのは誰?
前回、マリー・トーマンが着ていたドレスと全く同じデザインのドレスを、わざわざミーシャ・デュ・シテリンに送りつけたんだ。悪意しかないだろう。
そもそも、私やパトリックが時間を戻ってきたのはなぜだっけ?
確か再会した直後、パトリックは「『王家の秘宝』を使ったか」って言ってた。
――使った人間が、いる?
私とパトリック以外に、前回の記憶を持っている人間が……時間を戻した人間が……いるかもしれないということ?!
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