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学園編
39.またしても伏兵は自分2
しおりを挟む「悪りぃ――邪魔したな」
今更何を遠慮するというのか――パトリックが、この場から立ち去ろうとするので、なぜか反射的に追いかけてしまった。
◇
例の人口密度の低い、旧図書館の近くまでやって来てパトリックが振り返る。
「……何?」
な、なんだかパトリックが冷たい。いや、それは当然なんだけど! 私がそれを不満に思う方がどうかしてるんだけど!!
「えっと、あのですねいつもの場所でランチを食べ終わったので、経過報告をそのえっとだからつまり――」
「いや、悪りぃ…………こっちを追いかけて来てよかったのか?」
ばつが悪そうに、彼は若干視線をそらしながら言う。
いつもの彼らしくない。私からの返答を待っているような、拒絶しているような、曖昧な雰囲気をまとっている。
私はなぜか、ここで引いたらもう二度と壊せない壁ができるような気がして、どうにかして話をしなければ! と、どうしようもない焦燥感に襲われた。
「いえ! 元々あの場から逃げる予定だったので」
「逃げる? なんで」
「なんでって……」
パトリックには、殿下が何を言い出したのか聞こえなかったのだろうか。
いや、あの距離で聞こえないはずも……タイミング的に聞こえなかった?
――いや、それなら「邪魔した」なんて言わないんじゃ?
というか、なんで私はこんなにパトリックの反応を気にしているのだろう?
マリー・トーマンのことを考えなければ! 彼女は平民だ。クリストフ殿下が紹介しなければ、王妃様に挨拶をするような機会はなくなってしまう。
「クリスはマリーを誘う気はないみたいだな」
――――だとしたら、パトリックはマリー・トーマンを誘う…………?!
分かりきっている答えを目の当たりにして、どうして今更こんなに動揺してしまうのだろう。
――でも殿下はマリー・トーマンにドレスを贈っていたじゃないか。
あれ? でも、誘う気はなさそうなのに……じゃあ、あれは?? あのピンクのドレスは??
「何、百面相してんだ。何かあるなら言えつってンだろ」
「パトリックはマリー・トーマンをエスコートしたいの?」
「は?」
「あ……」
――なんでこっち聞いた!?
「ちっ違う、えっとつまり――」
つとめて冷静に、パトリックに共有すべき情報を伝えることにした。
クリストフ殿下がマリー・トーマンにドレスを贈ったこと。けれど、手違いでドレスは今ミーシャの手元にあり、マリー・トーマンはそれを知らないこと。その上で、殿下はナナミにおかしなことを言ってきたこと、を……。
「そもそも、なんでお前迷ってンだ?」
ん? パトリックは何を行っているのだろう?
「お前、クリスが好きなんだよな? せっかく誘われてンのに、なんで断る?」
「いやいや、クリストフ殿下が本当に誘いたかったのは――」
「お前だったら?」
――なんだろう? パトリックは何を言いたいんだろう?
「俺は別に、お前の可能性の全部を否定してるわけじゃねェよ。お前が――」
私に、ナナミとして、クリストフ殿下の誘いを……受けて欲しいの?
なんで? ……マリーがいるから?
「…………」
気付けばパトリックは黙り込み、何かを考え始めていた。
言わない方が……よかっただろうか。何かまずかっただろうか?
私は、パトリックにどのような反応を求めているのだろう?
マリー・トーマンに、迷いなく命を捧げられるほど彼女のことを好いているパトリックに――。
「じゃあ……俺は?」
「えっ、あ、はい……何が??」
……あ、なんかすごい呆れた顔でこっちを見ている……。
「俺が、『ミーシャ・デュ・シテリン』にエスコートを申し込んだら、お前は受ける気があるかと聞いてンだが?」
――――――――そ、そっち?! な、なんで?!
マリー・トーマンへの恋心を拗らせすぎて、頭おかしくなった?!
「……お前がなんか失礼なことを考えてンのは分かった」
うっ……パトリックの目が厳しい。
「現状、お前はクリスの婚約者と噂にはなってるが、正式には決定事項じゃねェだろ」
なるほど、なんだ、そういうことか。
人の口に戸を立てるのは難しいが、人の口を軽くすることはたやすい。
ここで、ミーシャ・デュ・シテリンが別の男と動けば――マリー・トーマンを、ミーシャ関連の謂われない誹謗中傷からは逃がすことができる。
それに、暇人の相手をこっちが引き受けることができるかもしれないし、さらにうまくコトが運べば、婚約の内定もチャラにできるかも!
これくらいのことで家が取り潰されるほど、父も長兄も無能ではない。
私はそれで構わない。
でも、パトリックは? パトリックはこれで……こんなことになっちゃって、本当にいいの……?
◇◆◇ ◇◆◇
口にすることは、なぜかできなかった。
うっかり口にしたら、「やっぱり無し」になるのかな、とかそんなことをうっかり考えてしまって、完全にタイミングを逃した。
クリストフ殿下がマリー・トーマンを誘うこともないまま、最後の週末がやってきた。彼女のルームメイトたちはドレスを入手するために、朝早くからご両親とセオドーニア商会へ向かったらしい。
そのすきに、一人になったマリー・トーマンの元へ、誤配されてきたドレスを届けた。最初は、頑として「絶対に人違い!」と主張して、受け取ろうとしなかった。
けれど説得に説得を重ねて、ようやく受け取ってもらえた頃にはお昼になってしまった。
昼食後、試しに着付けをしてみたのだが………………あれ? サイズが……。
私の着付けのせい? サイズはピンで調整すればいいか。
……この子……私よりプロポーションがいい…………!!!
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