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学園編
38.またしても伏兵は自分
しおりを挟む「いいじゃん、ちょっと付き合えよ」
「よくありません、放して下さい。正体不明の私に、失う物は何もないんですよ。
その手を放さないと後悔しますよ?」
まさか、王立学園敷地内で朝っぱらから三下にナンパをされるとは思いもしなかったよ。生徒指導に力を入れた方がいいんじゃないか?
この連中も舞踏会に出るのかな? ここで成敗しておこうかな? マリー・トーマンのデビュー戦が台無しにされるのは困るし!
「へーェ? 気が強いねェ、結構タイプかもオレさまがかわいがっ――」
そう言いながらナンパ男が人の肩を抱こうとしてくるので、護身術で投げ飛ばしてやった。受け身を取る間もなかったらしい三下は白目を剥いて気絶している。
――成・敗っ!
清々しい気持ちで踵を返すと――――驚いた顔でこちらを見ているクリストフ殿下がいた……。
◇
長期休暇中にまで、クリストフ殿下とスラムスポットで朝食をとる羽目になるとは思いもしなかったよ……。
「生徒たちの規律が守られていないのは、私のせいかもしれない。君に迷惑をかけているのだとしたら、申し訳ない」
そう軽々しく頭を下げたりして大丈夫かな? そういう弱気な態度って、習慣になると精神を汚染するし、雰囲気に出てくるようになるし。
とりあえず「気にしないで下さい」と言ってこの話は終わりにした。
クリストフ殿下は考えすぎる嫌いがある。
前回は、ただひたすらに凜々しい孤高の王だと思っていた。分かっていなかったんだ。本当の彼を何一つ見ていなかった。
きっと……わたくしは、こんな弱い殿下を認めようとはしなかっただろう。
そんなわたくしと、愛情など育めるはずもなかったんだ……。
「あの、クリストフ殿下は新緑舞踏会に一緒に参加したい人とかいるんですか?」
ひとまず、今の彼の率直な意見など聞いておくとするか。
「…………」
――って……ええと……その顔はなんでしょう?
「君は、出席するのか?」
「え? 私……ですか? えっと……」
参加はする。どちらで参加するかを考え中。
第二のミーシャ・デュ・シテリン化しているデリア・リナウドをマークしないといけない。ミーシャでいた方がデリアの動きは制限できる。けど、彼は――――、
「参加するのなら、私のエスコートを受けてはもらえないだろうか」
――――――――――は?
「あの……申し訳ございません。殿下は、その、本当に参加したい方と参加された方がよろしいかと……」
な、なんだ? 咄嗟にちゃんと返事ができたコトが奇跡だ!
殿下がなんでいきなりそんなことを言い出したのか、私には分からない。けれど彼が、マリー・トーマンを誘う気はないのではないかと……なんとなく分かってしまった。え、なんで? なんでこっちに……ダメだって。
そんなことは許されない。
「……それが、君の答えか?」
「…………」
え……なんだろう……こう……責められている気がする………………!
いやいや、なんで?! クリストフ殿下がナナミを誘う意味が分からない!
彼が親交を深めてきたのはマリー・トーマンであって、ナナミじゃない。
と、ともかく! 彼には前回同様、正しい選択をしてもらわないと!
「……私は、その、所用で参加できないので、クリストフ殿下はマリーのことをお願いしたいんです! 平民が上流階級のマナーに触れるまたとない機会です。あの子の友人たちのためにも、是非! 後生です! では、私はちょっと所用がありますので……これで失礼します!!!」
「待て、ナナ――!」
食べる物は食べたし、危うい場所からはとっととずらかるに限る!
なんなんだ、あの殿下は! 前回にも増して、何を考えているのか全然分からない!
――なんてやり取りから逃げだそうと踵を返すと……。
「パ……ト……リック……」
彼の表情から、その胸中は読めない。
私……私の、気持ちは…………………………………………
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