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学園編
37.魔法使いのおばあさん3
しおりを挟む「な、なぜこれが……ここに…………!」
目の前には、前回マリー・トーマンが着ていた薄紅色のドレス。
――それが、なぜここにある?
「よかった、ようやくお会いできましたね、ミーシャ・デュ・シテリン様。
こちら、クリストフ殿下よりお届け物です。クローゼットに収納しても?」
「え? あ、じっ自分でやるから大丈夫!」
「そう……ですか? では、これで失礼させていただきます」
学園が派遣してきた使用人が、礼儀正しく一礼をして去って行く。
ミーシャとして朝食を終え、アルバイトへ行くためナナミに変装しようとしたまさにその時! いきなり来客を告げるベルが鳴ったのだ。基本的に、使用人はベルなど鳴らさない。今回は諸々事情があるため、個人的に客人同様にベルを鳴らすようにお願いしている。私がそっちに行くから勝手に入ってこないでね!!
――っていうのは、まあいいんだけど。
ああっ! これからバイトにも行かないと! 時間がない、時間が!
でもなんで、このクリストフ殿下がマリー・トーマンに贈ったはずのドレスが私の下に届く?! もしかして使用人が間違えた?! そうだよね、うん、そうだよ全くしょうがないなあ、うっかりさんだなぁあの使用人は、うん、うん!!
――そうだよ、だって、あり得ない。
私はクリストフ殿下と信頼関係を築くようなことを、私は何一つして来なかった。学園の使用人だって、マリー・トーマン宛のドレスをわざとこっちへ持ってくるような真似はしない……よね?
よし! バイトが終わったらマリー・トーマンに確認してみよう!
◇◆◇ ◇◆◇
「何言ってるのナナミってば! わたしなんかが殿下にお誘い受けるはずないじゃない。全くも~」
マリー・トーマンは、ポテトチップスに類似したお菓子を口に運びながら楽しげにそう笑う。前回と違い、王妃様の横やりの入っていない今回の新緑舞踏会は、来週末へと迫っている――後九日だ。
彼女の今の状況を確認するため、昼食後、見慣れてしまった彼女の寮室へと訪れたのだけれど……なんということだ! 確かに、常識で考えればありえないんだけど……! でも、それをしてもらわなければ王妃様とマリー・トーマンとの初対面が! 王妃様から直接声をかけてもらえたのも、彼女の評判向上に一役かっていたはず。
私がバイト中の間はクリストフ殿下が、終わってからは私がマリー・トーマンの勉強を見るような流れが自然と出来上がっていた。だから、彼女と殿下の間はそれなりに進展していると思っていたのに……。
まさか、前回も本当は進展などしていなかったの?!
私が勝手に暴走して、ダメにしただけ――いや、違う、ここは少女漫画の世界だから未来は決まってる。放っておけば、前回同様の終結を見せる…………はずだ。
「舞踏会は出るよね?! みんなは出るんだよね??」
「うん」
「出るよ~」
マリー・トーマンのルームメイトの二人に確認すると、彼女たちは舞踏会自体には参加を表明しているらしい。
「クリストフ殿下がね、わたしたちも参加しやすいように取り計らってくれたから!」
「……殿下が?」
クリストフ殿下は学園に残っている第三身分の学生たちへ招待状を発行していたらしい。パトリックも詳しく教えてくれなかったから知らなかったよ。
日本人の感覚では半強制なんて面倒過ぎるだろう、と思ってしまうが――。
「本当に助かったよ! せっかく王立学園へ通う機会を得たんだから、上流階級のマナーや空気に学生のうちに触れておきたかったから」
「うんうん! わたしたちってぶっつけ本番でお慈悲に縋るしかないもんね……」
ああ、そうか……。
私のビジネス対象がご両親世代であるため、ど忘れしていた。王立学園へ通わせているような親だ、上流階級への橋渡し的な何かを期待しているのは明白! そして、彼女たちはそれをよく理解している。
――わたくしはそういうの、徹底的に邪魔していたからな……。
ルームメイトの二人は、今週末にご両親とセオドーニア商会内にある越後屋に行ってドレスを作ってもらうらしい。
「マリーも参加するんなら、クリストフ殿下がドレスを贈ってくれるって!」
「そんなことないよ、わたしなんか相手にされてないって……」
そう言いながら、どこか我慢している様子のマリー・トーマン。
もしかして、本当は誘われたんだけど断ったとか?
この子宛のドレスは、使用人が間違えてミーシャの部屋に持ってきちゃったから後でお届けできるんだってば――とは言えないしな。
うーん、よし! クリストフ殿下にもう一度マリー・トーマンを誘うように働きかけてみるか!
応援ありがとうございます!
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