悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ

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学園編

80.真犯人3

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 護衛と合流する前に、彼と合流するはめになるとは。パトリックがいるということは、ここはリナウド邸で間違いない。
 ……ああ、それにしてもパトリックの目が、厳しい。これは、怒ってるな、かなり。何もするなって言ってたし、彼は私なんかのことをすごく心配してたし……。

「お前……本当に、少し目を離した隙にとんでもねぇコトしでかすンだから、どうしようもねぇな。オレーン伯もなんでこんな危ない真似を許可したのか……」

 パトリックが大きくため息をついた。さっきまで怒っていたかと思ったのに、今は諦めたような顔で笑っている。なんでそんな顔をしてるの? どうしてここにいるの?

「秘宝についてはこっちで調べるから、お前は何もするなって言っただろ」
「パトリックが捜査のプロなら従いますけど、違いますよね?!」
 あぁっ! なんか溜息つかれた!

 パトリックは、なんでこんなに固い意志を持って、ここにいるの?
 査問委員会に呼ばれて、私が思っている以上にまずい状況に追い込まれてる? でも、それならオレーン伯から話があるはず。パトリックを連れ戻したいという相談をした時、オレーン伯の口から反対の言葉は出て来なかった。
 具体的な救出作戦の話にはならなかったけど……。

「俺が誘導するから、外にいる護衛とさっさと逃げろ」

 パトリックが扉を開けて廊下の様子を探る。

「逃げますけど……パトリックも一緒でなければ逃げませんよ!」
「は? 俺のことはいいから……」
「よくありません! そもそも私は、パトリックがいつまでもここにいるなんて嫌なんです! ちゃんとしたプロの皆さんに協力をお願いして、万全の体制を整えた上で来て――」

「あいつが何を企んでいるのか分からないだろ! お前、自分がどれだけ危ない状況に陥ってるのか分かってるのか?!」

 どれだけ感情的になっていても、いつもどこか冷静だったパトリックが感情的に声を上げ、すぐに後悔したように私から目をそらす。

「分かってます」

 パトリックは返事をしてくれない。

「リナウド侯爵が前回の私を覚えていて、その上でここへ連れてきたんだろうなってことも」
「そこまで分かってるなら……!」
「最初から分かってたわけじゃないですよ……」

 知らなかったから、既に内職でいろんな人を巻き込んでしまった。釈明もできないまま事態が悪化すれば、立場の弱い貴族や平民から犠牲者が出てしまうかもしれない。
 ……そのためにさらに関係者を増やしている気がしないでもないけど。

「――ともかく! 私は、一刻も早く、リナウド侯爵から秘宝を取り戻さないと……これ以上、私のせいで新たな被害者を出すわけにはいかないんです! パトリックも――」
……ね」
「パトリック?」
「俺は、入れなくていい」
「なにを――」
「お前が守るべきものの中に、俺は入れなくていい」
「どういう意味? 私そんなものの中にパトリックを入れてなんか」

 パトリックは聞き入れてくれそうにない。彼が何を気にしているのか分からない。どうしたここから出ようとしないの? 私が変な事は気にしすぎている? 彼が、デリア・リナウドのそばにいるのが嫌だから? 確かにそれはある、かもしれない。それを彼には、言えない。


「パトリック様、こちらにいらっしゃ……」

 わずかに開いた扉の隙間から、いきなりデリアが現れた。
 彼女は身を滑らせてきたかと思えば、目の前のパトリックに一目散。パトリックは慣れた様子でかわしていたけど……。
 デリアがいるって事は、ここは本邸?! それにしては、人の気配がしないんだけど?!

「ミーシャ様?!」
 デリアが私に気づいた!
「どうしてこのような場所に?! ああ、でも心配していたのです! 父があのような蛮行に及んでしまい、どうしたらよいものかと考えていたのです……!」

 どうしたものかと身構えたけど、デリアの様子を見る限り敵対する意思はなさそうだ。考えてみたら、幼少の頃から、リナウド侯爵は母娘を随分と持て余しているようにも見えたしな。じゃあこの子は本当に、今の私に対して悪意は抱いていない?

「ねえ、今この屋敷には誰もいないの?」
「いえ、そのようなことは……」ありません、と言おうとして言葉が詰まったらしい。
 デリアも心当たりがあるのかな?
「デリア、何か心当たりがあるの?」さあ、吐いてもらおうか。

「人が来る!」
 口を開こうとしたらデリアを止めたのはパトリックだ。確かに耳を澄ませると人が歩いてくる足音が聞こえる。一人や二人じゃない。軽い金属が擦れ合う音……私設兵? 屋敷の鎧を着た兵士がうろつくのってどうなの? 今生の我が家ではそんな光景なかったような気がするんだけど……。

「デリアは隠れて!」
「え??? ミーシャ様? パトリック様???」

 意味が分かってなさそうな顔をするデリアを、強引にクローゼットに押し込んだのと同時に、リナウド侯爵と数名の私設兵……とは思えない傭兵集団が室内に入ってきた。
 ならず者集団ぽいなぁ。護衛の皆様、大丈夫かな?

「パトリック様……やはりここにいらしたのですね」
 リナウド侯爵は、パトリックがここにいることを予想していたのか、あまり驚いているようには見えない。対するパトリックの顔には緊張の色が見える。

「リナウド卿! ご自分が何をしようとしているのか、分かっているのですか?!」

 パトリックは何も知らない風を装って、リナウド侯爵を説得しようとしている?

「あなたは何もご存知ないのです。ここからおとなしく立ち去ってください」
「リナウド卿!」

 リナウド侯爵は、パトリックも私同様に前回の記憶を持っていることに気づいてない? 傭兵集団がパトリックを背に庇うようにして、私に対峙する。
 刃物一つ持っていない小娘にする対応にしては大げさすぎるような気がしないでもないけど……それが彼らの仕事だ。
 前回の私も、よく利用したものだ。今の私を、パトリックが擁護するのも……リナウド侯爵は許せないのだろう。

「彼がここにいたら、都合が悪いのかしら? そうよね、私はここへ自らの潔白を証明に来たのだから」

 その必要はないかもしれなかったけど、一応、リナウド侯爵の注意をパトリックからそらしておきたい。リナウド侯爵をそれなりに挑発して、懐から『スパイ活動七つ道具』その3を取り出す!

 長さ10センチ未満、直径二センチ未満の小さな……発煙筒!
 膣の先から伸びている短い紐を引っ張ると勢いよく煙が出てくる。その煙に紛れ、この部屋から逃げ出した!

「逃がすな! 追え!」

 どっちが悪か分からないような、リナウド侯爵の声が背後から聞こえてくる!
 小さな筒から出てくる煙が作用する範囲はそれほど広くない。廊下は見通しの良い、いつもの廊下。発煙筒はあと3本あるけど、ここぞという時までとっておくか。スタンガンもどきでも作っておけばよかった。

 廊下の窓から外を見ると……ここは3階だったのか。
 ということは使用人区画? 隠れられるような場所ない?!

 使用人区画は家人の居住スペースと違って、一つ一つの部屋は小さく特徴がない上に多い。隠れてしまえばやり過ごせるかな??
 適当に小さな部屋に逃げ込み、敵をやり過ごす。追っ手は、一つ一つの部屋を調べることなく、直ぐに階下に走って行った。

 なんで探さないんだろう……っていうか、ここ、使用人区画なのに、なんで休憩中の使用人が1人もいない?
 まさか、年中無休で働かせてるの!?
 前回のシテリン家でも、使用人はローテーション組んで数日置きに休ませてたよ?! 無理をさせすぎるとって分かってたし……。

 ……今はその辺、後まわし!
 その場でゴテゴテした外装を脱ぎ、服の下に仕込んでいた粗雑な布地の動きやすい服に着替える。着替え終えたら、『モールス信号機』で近くに潜んでいるはずの、味方の護衛に連絡を入れた。

 つる草の微妙な動きを読み解くと――護衛の皆さんは無事。私の救助に向かっている者、秘宝の在処を探っている者、屋敷全体の様子を伺っている者がいる。

 秘宝がありそうな場所……書斎にはなかった。金庫は書斎に隠されている場合が多いんだけどな……。後は寝室? 武家屋敷じゃあるまいし……。王城のように、分かりやすく宝物庫があれば狙いやすいのに。

 連中が使用人区画を無視して下へ向かったってことは、この区画に秘宝はないと考えていいかな。2階は子供部屋区画だけど……そんな所に隠すかな? 外から様子を伺ってるだろう護衛の皆さんに相手の予想を聞いてみるか。

 ……。
 うねる蔓草の動きを読むと、リナウド侯爵は傭兵連中と別れ、地下に向かったらしい。地下と言うと大抵ワインセラーがあったりする場所で、そこも使用人のテリトリーだと思ってたんだけど……。

 「傭兵連中は今どこを警備しているのか」と聞くと、彼らは散開して私の捜索を続けているらしい。
 人数は増えていないようだ。彼らは私の顔までは覚えていないと思うんだけど……使用人みたいな顔して、彼らの横を素通りできないかな。

 最悪、発煙筒で突破する方法もあるけど、その場合、探索がしづらくなる。

 それに、クローゼットに隠してきたデリアはどうなったろう。 パトリックは傭兵のせいで動けないだろうし……大丈夫かな?




 
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