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学園編
81.真犯人4
しおりを挟む2階の子供部屋エリアへ、降りるか否か……使用人用の階段付近で様子を伺っていると――
「ミーシャ様! なんというお姿で……!」
見つかった! ……と思ったらデリアだ。クローゼットから脱出していたのか。
「……パトリックは?」
「私の部屋です! ミーシャ様もそのようなお姿では……! 私の部屋にいらしてください! お着替えをご用意いたしますので……」
「私はこのままでいいの! 今ちょっとゴテゴテした服に着替えるわけにはいかないのよ!」
テリアはなんだかとてもテンパっているみたいだ。無理もないか、これは完全に私のせいだ。でも、今のデリアを見ていると、彼女は秘宝の件とは無関係としか思えない。リナウド侯爵を説得するのに、彼女の協力を得たいところだけど……危ないか。現時点で、彼女は無関係……ではないけど無関係と同じようなものだし……。
ここで押し問答をしているよりかは、デリアの部屋に行った方が安全かもしれない。
デリアの部屋に入ると、彼女が言っていた通りパトリックもそこにいた。私の姿を見つけるなり、お小言モードに入りそうだったパトリックだけど、苦虫を噛み潰したような顔をして、諦めたように深く息を吐いた。
「最近、リナウド侯爵に変わった様子はなかったか?」
デリアは、パトリックに追いかけられると思っていなかったのか、問いかけられた内容を想定していなかったのか、驚いた顔で彼を振り返る。
ああ……これは違うか。想定して、恐れていた……が、正解かな。
「父は……」
思い当たる節がなく記憶を探している……わけではなさそうだ。言葉を探しあぐね、口にすることができないでいる。
「デリア!」
知っていること、気づいてること、何でもいいから話してほしい! 今は情報なら何でも欲しい!
「……父は昔から無口で、私に社交界のアレコレを指示するのは、母の役目でした」
彼女は静かな口調で語り始めた。次からは少し言いづらそうに。
「ですから今回の……クリストフ殿下との婚約の件も、元々は母が言い出したものなのだと思っていました」
少し前なら私もそう思ったかもしれない。リナウド侯爵が、あんなことを言い出さなければ。
「今回の話、母も驚いているんです。母はシテリン公爵夫人のことを、素晴らしい人格者だと思っています。敵対する気など毛頭ないのです!」
ああ、そう言えば昔……昔、我が家に怒鳴り込んできたリナウド侯爵夫人をお母様が誑し込んでいたな……効力はまだ切れていなかったのね。
「今まで、母や私の言うことなら何でも聞いていた父だったのに……最近では、私の望みも、母の望みも聞き入れることはなく……。何を考えてるか分からないのです……」
視線を落としていたデリアは不意に、私とパトリックを見遣り。
「先ほどのような……傭兵崩れの荒くれ者たちを屋敷内に入れるようになったんです。周囲からどんな目で見られるか……」
デリアは顔を覆い、弱々しい泣き声のような声を上げる。
「ミーシャ様のお家が犯罪行為などしているはずもないのに、そのような事、本格的に調べが入ってしまえばすぐわかってしまうのに……」
彼女は私が思っていたより遥かに、物事を現実的に見ていたらしい。リナウド侯爵は、こんな彼女を知っているんだろうか。先日の、応接室で立ち聞きしてしまった彼の本音。それを思い出すと、何とも言えない気持ちになる。
「知ってるなら教えて欲しいんだけど」
私の言葉に、デリアが顔を上げる。悲しみと怒りと無念さと混乱と……様々な感情に翻弄されて疲れ切った顔をしていた。
彼女のこんな顔を、私は見たことがない。
「最近、リナウド侯爵が絶対に立ち入りを禁止したような場所って、ある?」
……筋金入りの悪役令嬢だった自分には分かる。
リナウド侯爵は根が真面目な男だ。デリアの話によると、荒くれ者を雇うようになったのも、つい最近。秘密基地もどきを用意できるような周到さを持ち合わせているようには見えない。だとしたら、手に入れた秘宝を隠す場所は、この屋敷以外には考えられない。
うっかり家族に見つかったりしないよう、彼は不用心にも家族に注意をするだろう。
彼は、家族を愛しているから。
「町屋敷の礼拝堂には、地下に続く階段があるんです。今までは、定期的に使用人たちに掃除をさせていたのですが、最近父から……礼拝堂自体に近づくな、と言われました」
礼拝堂に入るなとは……礼拝しないの? 余所にばれたら、結構な確率で叩かれると思うんだけど……。
「……当然、母は父に物申しました。けれど、父が意に介す事はありませんでした。以降、父は母に何を言われても聞かなくなりました。今回の婚約のことも、私はクリストフ殿下との婚約など望んではいません、本当です! ミーシャ様が幼少の頃からクリストフ殿下の伴侶となるべく尽くされてきたことは、分かっております!」
「その話は今はいいから!」
クリストフ殿下との婚約の話になると、必然的にパトリックとデリアの関係に話が及んでしまうんじゃないかと……それは……聞けない。
「礼拝堂か……うん、ありがと」
「ミーシャ様、行くおつもりですか?!」
「え? うん……」
「ダメだ!」
「ダメです!」
パトリックとデリアがほぼ同時に、どう怒鳴った……。
「1人じゃないから! 護衛と一緒に行くから!」
「護衛……?」
デリアは私を守っている護衛の存在に気づいていなかったらしい。彼女の目の前で『モールス信号機』を使って護衛と連絡を取った。元々、デリアの部屋で連絡を取るつもりではあった。礼拝堂へ向かうにしても一人で行くのは危ないからね。
モールス信号機で護衛と連絡を取ると、しばらくして護衛の一人がベランダから姿を現した。高位のお嬢様であるデリアは、その様子に衝撃を受けたらしく、顔色を青くして床にしゃがみこんでしまう。腰を抜かすデリアをなんとか椅子に座らせる。
後は合流した護衛と共に、話に聞いていた地下礼拝堂へ向かうだけだと思っていたのだけど、パトリックの問題がまだ解決していなかったらしい。
「危ない真似すんなッ!」
またパトリックに怒られた……。私にとってはいつものことなんだけど、遠くでデリアが恐怖から顔を白くしているのが見えた。
……これでデリアのパトリックへの執着が、ちょっとは消えるといいな……なんて。
「問題の場所へは俺が行く。お前はおとなしくここで待ってろ。お前が出て行かなくたって、例のアレを押さえればこの問題は解決する」
パトリックが冷静な口調で、護衛と勝手に話を進めようとしている!
「リナウド侯爵はパトリックのことを守るべき者として扱っていました。ここでパトリックが、全部分かっていて私のそばにいたと分かったら……貴方の方が危ないかもしれないんですよ?!」
私がこれだけ言ってるのに伝わっていないのか、彼は全然退く気配を見せない。
「ミーシャ様、パトリック殿、時間がありません、ここは――」
現れた護衛の短い言葉で、先が決まった。
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