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学園編
83.落ち着くべき処
しおりを挟むリナウド邸での一件は、常備軍の乱入によって収束を迎えた。
リナウド侯爵の取り調べは、国王陛下主導の下で行われることになるだろう。国王陛下は今まで何してたんだ、とは思うけど……私にも若干の心当たりはあるから、それについては言及しないでおくか。何かしらの補正が働いているのかなとは考えたらきりがないし。
リナウド侯爵の立ち回りについても、気がかりなところはある。彼はあそこまで用意周到に動ける男だっただろうか。秘宝を使い時間を巻き戻したとはいえ……その道のプロを何の伝手もなしに揃えることはできないだろう。
金しか持たない愚か者は、カモにされるだけだ。
シテリン家や学園に配備されていた侯爵の手の者は、常備軍の手が伸びる前に自らの意思で逃げ出そうとしたようだが、常備軍がそれを見逃すはずもなかった。
常備軍は本来、戦争や国王に直接害をなす外敵に対して動く兵力であり、貴族平民にかかわらず市井の揉め事には立ち入らない。今回の件は、リナウド侯爵のクーデター未遂事件として処理された。
侯爵個人は当然、爵位を剥奪され身柄を拘束されているけど、残る領地をどうするかは現在議題に上がっているらしい。
リナウド侯爵が阻止しようとしていた緊急議会も、結局開かれることになり、彼の処遇が決まった。
それを……私は待合室の自室でよく見知ったメイドの口から聞いた。午後のティータイムの準備を始めようと、給仕メイドがテーブルの上を整えていた。
「そう……分かったわ、ありがとう」
いつまでも市井の小娘スタイルでいると、使用人の顔色がどんどん悪くなるので、今はいつものお嬢様スタイルでいる。あっちの身軽な格好に慣れちゃうと動きづらいんだよなぁ。
布地は軽いし、着脱も楽にできてるし、スカートの下に無駄にボリューミーな木枠とか入ってないし。
ああ、でもあれがあったから『スパイ活動七つ道具』を服の下に収納できたんだけど……。
「……お前、我が物顔で人の屋敷に居座ってやがるな……」
「もう、補助具なしで動けるようになったの? パトリック」
ここはパトリックの……シュトルツァー家の町屋敷その1だ。
綺麗に手入れされた庭で、午後のティータイムと洒落こんでいた。時期外れでちょっと寒いけど。社交シーズンは終わってるのだから当然か。
シュトルツァー家は歴史ある公爵家ということもあり、町屋敷を複数所持している。うちも公爵家だけど、言いようによっては新参者でもあり、町屋敷はひとつしかない。
病み上がりのパトリックは、いつもよりやや遅い足取りでこちらに歩いて来た。病み上がりの彼の表情は明るい。デリアの家で見かけた彼の姿が最後にならなくて本当に良かった。
彼がなぜ、あの時あそこにいたのか……彼は死んでも白状しなさそうだったので、彼に内緒で実はもうデリアに話は聞いているんだ。
……全く。パトリックは素直じゃない。
金髪碧眼の王子様のような出で立ちで、彼は行儀悪く突っ立ったままティーカップに口をつける。様子を見ていたメイドが、慌てたように椅子をもう一つ用意した。
「一連の騒ぎがリナウド侯爵のせいだと分かって、またお前をクリスの婚約者に戻そうって動きがあるけど知ってるか?」
「そう……ですね……」
探りを入れてくる彼の本音はどこにある? マリーのことを気にしてるのか、それ以外か……。また私に、殿下の所に行けとか言うんじゃないだろうな。どうやって説得しようかな……。パトリックは人の話全然聞かないし。
「……お前はどうすんだ?」
「私は……」
椅子には腰かけずに、パトリックはこちらを振り返ることなく問いかけてくる。私が取りたい行動は決まってるんだけど、パトリックはそれを受け入れそうもないんだよなぁ。
このままいくと、結局、前回と同じ事を相手を代えてやってるだけのような気もするし……。
「今みたいに、今後も同じようにしたいなぁと」
控えめなジャブから行ってみようかな。……どうなるかな?
「……ずっとそのままそこにいる気か? 風邪ひくぞ。何もない庭なんか見てどうするんだ」
私の言葉に微妙に答えない。パトリックは分かっていて外している? どうしたものかな?
「春が来れば綺麗な花が咲くでしょう?」
男性は草木にはあまり興味がないかな?
ミーシャ・デュ・シテリンは自分が望むものしか見て来なかったし、それ以外は、日本の記憶しか参考にできるものがない。今、ここでパトリックが望むものは……分からない。
「ここは始めからこんなもんだからいいんだよ。景色も今とそんな変わらない」
「パトリックは女心が分かってないようなので、花でも植えて愛でる習慣をつけてみてはいかがですか?」
パトリック相手にどうやって駆け引きをして行こうか。
彼はしれっとした顔であらぬ方向を向いて茶菓子を嗜んでいる。
「……もう、勝手に植えてしまいますよ」
「植えたらお前の責任だぞ」
「うーん、まあそうですね……」
「ああそうだ、だから一回植えたらお前がずっと面倒みるんなら植えてやる」
彼は、意味を分かって言っているのだろうか?
「……いいですよ。私がずーっと面倒見るので、ここを花でいっぱいにしてもいいですか?」
「好きにしろ」
――本当に、ちゃんと分かってるのかな?!
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