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第一部
23話
しおりを挟むパレード初日、一行は王宮前広場より出発し、王都の主要な観光スポットを巡り最終的に王宮へ戻ってきて終了という手筈になっています。聖女様は王宮の客間へ泊まられるそうです。王都にもガーヌ公の別邸はあるのですが……。
二日目以降も、王都近郊の……やはり観光スポットを巡りつつ次の街へ移動し、高級宿泊施設で夜を越します。
最終日は、王宮前広場に戻り国王陛下と謁見し、最後に城のテラスから民衆へ向けて挨拶をして終了となっています。
挨拶した後、ちゃんと王宮内の礼拝堂へ祈りを捧げるまでが仕事なのですが……関係者用に配られたプログラム表に表記がないのですが……誰が作ったのですか、このプログラム?! 大丈夫ですよね、聖女様?!
◇◆◇ ◇◆◇
「ああもう本当にっ! みんなうるさ過ぎっ! わたしは聖女なのよ?!
寧ろ、みんながわたしに従うべきじゃない?!」
「全くです! 選ばれた聖女であるリューが、凡知凡庸な無能どもの指示に従う必要はありません!」
「どいつもこいつも烏滸がましい!」
「伴食神官など放っておけばよいのです!」
「彼等はリューがいなければ、本来の職務を何一つ果たすことができない、無能の極み! 少しは自覚し、殊勝な心がけでリューに仕えるべきだというのに……」
「そうだ! きっと、やつらは無能すぎてリューの神々しさについていけなかったに違いない! 教会も終わりだな!」
「もうっ! みんなそれは言い過ぎ! 確かに、事実だけどね?」
……聖女様軍団は満足したのか、ようやく大人しくなりました。
聖女様の本日の装いは、純白のサテン地で作られた、大きく最中の開いたベアトップのロングドレスです。胸元にはきめ細やかな刺繍が施されており、クリノリンで大きく膨らんだスカート部には、大量のフリルと大きな花飾りが大量に縫い付けられています。元々の容姿の美しさもあり、黙って清純そうに微笑んでいるその様は、本当に絵本の中から抜け出してきたような、理想の聖女様そのものといった装いなのです。そう……黙ってさえ、いれば…………。
同行する殿方も……揃いの刺繍入りの細かな飾りのついた白を基調としたスーツを身に纏っています。皆さん、気合い入ってますね……。
私以外のパレード参加メンバーは、開始前に国王陛下より謁見を許されたのですが……その際、聖女様は陛下より苦言を呈されたようなのです。
控え室として解放されている客室に戻って以来、彼等の愚痴は止まるところを知りません。
「モニカ嬢……あの、本当に……その恰好で宜しいのですか?」
「はい。私にはこちらの方が都合が良――」
今日、ジャン様と顔を合わせるのは、なんだかんだで今が初めてなのです。
つまり……制服ではなく儀式めいた正装の彼を見たのも、初めてで――。
『ジャンさま、カッコイイですね!!!』
『ぼくが作ったブローチ付けてるーっ!!!』
『よかったね、モニカ』
『キラキラですぅ~』
――マクマ達がジャン様に張り付いている…………?!!
殿下は青い顔で私に『どういうことだ!?』と訴えかけています……。殿下には、姿見の後日情報はお教えしておりません。
そこまで信用しているわけではありませんので。
「ジャン様は今朝、大丈夫でしたか?」
「ええ……まあ……」
コーベル邸では今朝も諍いがあったようですが、謁見の間での心労の方が祟っているようです。殿下も疲れた顔をしていらっしゃいますね。
「ジャン! 世話係なんかと話をしている暇はないわよ! わたしをもっとちゃんと、ずっと近くで守ってくれなくちゃいやよ!」
いきなりそう怒鳴るようにして近づいてきた聖女様は、ジャン様が体勢を整える前に素早く彼の腕に自分の腕をからませ、隣を主張し始めました。
「ガーヌ嬢、お放し頂けますか?」
「うふふっ、い・や! 放さないわ。だって、大切なんですもの! ねえ、嬉しいでしょう? 貴方はわたしの特別なのよ?」
四バカと違いジャン様は非常時でも無い限り、女性に手荒な真似ができるような方ではないので……結局は、聖女様の思うがままです。
――――アンタ達! 動いたらご飯抜き!!!
大精霊が愛し子相手に一触即発とか、世も末なのですが………………。
「くそっ! ジャンのヤツ、鼻の下を伸ばしてデレデレと……!」
アベル卿は曇らない眼鏡をご用意された方が宜しいのではありませんか?
「お、お前……も、来るのか…………」
度重なる不可解現象についに、テオーデリヒ卿に学習能力が芽生えたようです。
召喚術は使えるようになりましたか? ――ああ、未だですか。もう少し心の浄化が必要なようですね。――え? そのくらいは自分で考えて下さい。
手取り足取りされている間は、浄化など、夢のまた夢ですよ……?
「リ……リューの邪魔をするなよ! こ、ここ今度邪魔――――――うわぁっ!」
……自分で勝手に椅子に躓いた件も、人のせいにする気ですか?
「お前っ……だいたいいつもリューに世話になっておきながら、彼女をいじめる連中を助けるようなことばっかりして、どういうつもりなんだよ!」
「そうだ! 貴様がしっかり盾にならないから、リューがどれ程心――――」
椅子でスッ転んで起き上がることの出来ないテオーデリヒ卿、語彙力が心配なエドアルド卿、そして人を盾にしようとするばかりのグスタフ卿が喚き続けます。
それにしても……聖女様の偏狂集団の皆さん、穢れを祓う側の人間とは思えないほどに穢れまくっているのですが……それについて、責任者の王太子殿下はどう思われますか?
「…………」
――黙秘ですか。……おやまあ?
程なくして、ガーヌ公がパレードの開始を告げに客間へやって来ると、今度は聖女様は殿下と腕を組みながら王宮前広場へと向かいました。なぜガーヌ公が仕切っているのでしょう??
聖女は孤独で凜とあるべし! という教えはありませんが、男と仲睦まじく連れ立って歩けという教えもまたありません。当然、高位神官から苦言を呈されるわけですが、ガーヌ公の一瞥で引っ込んでしまいました。聖女様のご威光ですか??
王宮前広場では、思惑は知りませんがコーベル嬢一派が最前列を陣取っていました。聖女様は事前にご存じだったのでしょうか……殿下との仲を見せつけるように腕を組み馬車へと乗り込みます。
姿見で聞いた民衆の声が不穏だったので少々警戒しておりましたが、熱い歓声に迎えられ聖女様は満足気です。これは順調な滑り出しなのではないでしょうか。
コーベル一派の目は、巡礼の旅に華美な馬車なんか使って!――と訴えておりますが、この馬車は追加徴税で用意された物ではありません。教会が毎度毎度、自身の威信にかけて用意してくる代物です。
神の僕である聖女様をお乗せする馬車なのですから、聖堂同様に神への畏敬を持って美しく飾り立てることは責められる謂れは無いことなのですが……彼等は彼等で何が何でも聖女様を責め立てなければ気が済まないようです。
……コーベル一派の黒い穢れは……私の目の錯覚でしょうか?
まあ、私には関係な――――――――――ひぃああああ(以下略)。
「おやおや、大丈夫かい?」
「――っ! ウェルス卿?!」
私は聖女様と同じ馬車には乗りません。後ろから、その他大勢の使用人と共に幌馬車に乗って同行することになっています。ですから、聖女様の馬車が歓声と共に見送られるのを、隅の方で見送っていたわけなのですが……。
「どうしてウェルス卿がここに? ……妹君のご心配をなさっては?」
『穢れが発生していますよ!』と断言はしません、面倒なので。ご自分で気付かなければそれまでで――――――――(以下略)。
「本当に大丈夫かい?」
最後には、あのウェルス卿に本気で心配されてしまいました……。
幌馬車がウェルス卿に気付かず走り出してしまったので……もう放置することにしました。宮殿前で騒いだら面倒事が増える未来しか見えません!
「――妹に穢れが?」
「……え、ええ……。あの、次の観光スポットで降りて下さいますか? 私も忙しいので! そもそも何故乗り込んで来るのですか? ……消し炭にしますよ?」
「そう物騒なことを言わないでくれるかな? ボクはこれでも君の力になりたいと考えているのだから」
「……精霊の力が目的なら、私でなく愛し子様の下へ足をお運びになっては?」
「ボクは、愚弟に精霊の加護まみれのブローチを送ったご令嬢と、話がしたいと思ってね」
「…………」
「だんまりとは酷いな。あれは、どの精霊に作ってもらったのかな?」
『もーっ!! この人キライーっ!! モニカから離れて!!!』
「ミント!!!」
『あああ! 出ちゃダメだよ!』
荷物の中に紛れ、ウェルス卿から気配を隠していたはずのミントが……なんか飛び出してきました。ミントの台詞で気付いたのですが、確かに、ウェルス卿近いです、離れて下さい。マクマ、ミントの面倒は任せました。コロロ、ウェルス卿と私の間に謎の鉱物で壁を作るのは止めなさい。ウェルス卿の目が輝いてしまっているでしょう!!!
「増えてますね? ご尊名をお伺いしても?」
『…………』
ウェルス卿の視線はコロロに釘付けですが、コロロは完全無視を決め込んでいるようです。殿下は青くなり慌てふためいていたというのに、ウェルス卿のこの不遜な態度……私もそうなのですが、精霊に対する正統な教育を受けていないからでしょうか?
『もーっ! この人キライっ!!!』
その意見には同意しますがミント、少し静かにして下さい…………。
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