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序章
華燭 1
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「後宮に美姫三千人。それを一晩に一人ずつ殺そう」
生まれて初めて顔を合わせた夫となる男――泯国皇帝鷲帝こと鐐叡青は、はるばる一千里の花嫁行列を経てやってきた曖甯に、そう告げて、薄く笑った。
酷薄な笑みが、酷く似合う、美しい男だった。
良人となる方から出るとは、とても考えられない言葉であった。
「そなたへの婚礼の祝いだ」
くっくっ、と皇帝は喉を鳴らして笑う。
華燭の宴を前に、謁見の場を設えられた殿舎は、華やかな赤の装飾で飾られており、皇帝の即位に際して整えられた後宮の女たちがずらりと居並んでいた。
四夫人、九嬪、二十七世婦、八十一御妻。
規定通りの人員が整えられた後宮の女たち。
その表情を読み取ることは出来ないが、この女たちのうち、一人を殺す、ということだ。
曖甯は、皇帝の真意がわからないままではあったが「お待ちくださいませ」と抗議の為に、口を開いた。
「なんだ」
「わたくしへの、婚礼祝いと仰せでございましたら……、この者たちが、こうして祝賀の為に集ってくれただけでも十分でございます」
「そなたは、このものたちの頂きに立つのだ」
皇后、という立場は、この女たちを率いて、皇帝に仕えること。
皇帝の真意はわからなかったが、曖甯は、それを、試されているのだと単純に考えた。
「この者たちを、守り導くことがわたくしの役目でございます。この者たちへの采配はわたくしにお任せくださいませ」
美しい皇帝が、一体何を考えているのか、曖甯にはまるで想像がつかなかった。
縁談が飛び込んできたのは三年前。
そのときに、夫となる男の姿絵を見せられ、数ヶ月に一度の文のやりとりをする間に、淡い恋心を育んできた。心優しく聡明で、この世の者とは思えぬほどの美貌を誇る皇帝。
けれど、目の前の男は、姿絵にうり二つの美貌で、恐ろしい戯れを口にしている。
それが、曖甯には恐ろしくてたまらなかった。
「ふむ。余は、この者たちを夜ごと八つ裂きにでもして殺せば、興が乗ると思っていたが」
あまりにもおぞましいことをいう皇帝だが、周りの者は、顔色一つ変えるそぶりはない。
(このようなことが、まさか、常のことなのだろうか………)
まるでわからないまま、曖甯は、腹に力を入れる。そうでもしなければ、倒れてしまいそうだった。
婚礼の為の、真紅の衣装をぎゅっと握りしめ、気を入れていた曖甯に、「そうだ」と思いついたように、皇帝は言った。
「この者たちを守り導くのがそなたの役目というなら、そなたに楽しませてもらおう」
まさか、八つ裂きにされるということだろうかと、冷たい汗が、背中を伝っていく。
けれど、この婚礼は、泯国と榔胤国の間の、約定に基づく政略結婚であるはずだった。その榔胤国の王女である曖甯は、滅多なことでは殺されることはないだろう。とは思ったものの、手が、震える。
「どのようなことをすれば………」
「そなたには、選ばせてやろう。後宮から一人女を差し出して命を奪うか――そなたが、余の閨で愉しませるか」
不思議なことをいうものだ、と曖甯は少々、拍子抜けした。
「わたくしは、陛下の妻となる身でございます。ご寝所にお仕えするのは当然のことかと………」
「そうか。では、趣向をこらそう。女ども、命拾いしたな」
そう言い残して、皇帝は玉座から去って行ってしまった。
生まれて初めて顔を合わせた夫となる男――泯国皇帝鷲帝こと鐐叡青は、はるばる一千里の花嫁行列を経てやってきた曖甯に、そう告げて、薄く笑った。
酷薄な笑みが、酷く似合う、美しい男だった。
良人となる方から出るとは、とても考えられない言葉であった。
「そなたへの婚礼の祝いだ」
くっくっ、と皇帝は喉を鳴らして笑う。
華燭の宴を前に、謁見の場を設えられた殿舎は、華やかな赤の装飾で飾られており、皇帝の即位に際して整えられた後宮の女たちがずらりと居並んでいた。
四夫人、九嬪、二十七世婦、八十一御妻。
規定通りの人員が整えられた後宮の女たち。
その表情を読み取ることは出来ないが、この女たちのうち、一人を殺す、ということだ。
曖甯は、皇帝の真意がわからないままではあったが「お待ちくださいませ」と抗議の為に、口を開いた。
「なんだ」
「わたくしへの、婚礼祝いと仰せでございましたら……、この者たちが、こうして祝賀の為に集ってくれただけでも十分でございます」
「そなたは、このものたちの頂きに立つのだ」
皇后、という立場は、この女たちを率いて、皇帝に仕えること。
皇帝の真意はわからなかったが、曖甯は、それを、試されているのだと単純に考えた。
「この者たちを、守り導くことがわたくしの役目でございます。この者たちへの采配はわたくしにお任せくださいませ」
美しい皇帝が、一体何を考えているのか、曖甯にはまるで想像がつかなかった。
縁談が飛び込んできたのは三年前。
そのときに、夫となる男の姿絵を見せられ、数ヶ月に一度の文のやりとりをする間に、淡い恋心を育んできた。心優しく聡明で、この世の者とは思えぬほどの美貌を誇る皇帝。
けれど、目の前の男は、姿絵にうり二つの美貌で、恐ろしい戯れを口にしている。
それが、曖甯には恐ろしくてたまらなかった。
「ふむ。余は、この者たちを夜ごと八つ裂きにでもして殺せば、興が乗ると思っていたが」
あまりにもおぞましいことをいう皇帝だが、周りの者は、顔色一つ変えるそぶりはない。
(このようなことが、まさか、常のことなのだろうか………)
まるでわからないまま、曖甯は、腹に力を入れる。そうでもしなければ、倒れてしまいそうだった。
婚礼の為の、真紅の衣装をぎゅっと握りしめ、気を入れていた曖甯に、「そうだ」と思いついたように、皇帝は言った。
「この者たちを守り導くのがそなたの役目というなら、そなたに楽しませてもらおう」
まさか、八つ裂きにされるということだろうかと、冷たい汗が、背中を伝っていく。
けれど、この婚礼は、泯国と榔胤国の間の、約定に基づく政略結婚であるはずだった。その榔胤国の王女である曖甯は、滅多なことでは殺されることはないだろう。とは思ったものの、手が、震える。
「どのようなことをすれば………」
「そなたには、選ばせてやろう。後宮から一人女を差し出して命を奪うか――そなたが、余の閨で愉しませるか」
不思議なことをいうものだ、と曖甯は少々、拍子抜けした。
「わたくしは、陛下の妻となる身でございます。ご寝所にお仕えするのは当然のことかと………」
「そうか。では、趣向をこらそう。女ども、命拾いしたな」
そう言い残して、皇帝は玉座から去って行ってしまった。
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