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パターンその1

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事故にあってこの世を去った私は、大好きな乙女ゲームの世界のヒロインとして転生した。

やり込むくらい好きだったから嬉しかったし、もうあんなかったるい仕事も、面倒な人間関係も気にせずに済むんだ。そして誰もが羨むお姫様生活を送れるんだって思うと胸が躍った。

勉強はめんどくさいけど、ゲームの進め方も攻略対象である王子様達をどうやって攻略するかも覚えてるから楽勝でしょ!ストーリー通り光の魔法を持って生まれた私は聖女候補として選ばれ、ゲームの舞台となる学園に入学できた。実際に会う攻略対象である王子様達は皆イケメンで声もイケボ!彼らが最後にはぜーんぶ私のものになるなんて夢のようだわ!

出会いイベントも無事に済んだし、後は焦らずじっくり彼らを攻略して逆ハーレムルートを目指すわよ!
けどなんだか実際の彼らはゲームと違って少しよそよそしいのよね。距離があるっていうかなんて言うか…まぁ、好感度が低いうちはこんなものか。ちょっとつれなくても私は優しいヒロインだから許してあげる!

「ちょっとそこのあなた」

そんな風に過ごしていたある日、私がメインキャラである王子様と校庭で過ごそうと思い、探していると突然女が話しかけてきたの。そいつの事はよく知っている。ゲームで何度も主人公の邪魔をしてきた悪役令嬢のイザベルだ。

こいつはメインキャラである王子の婚約者で、権力を傘に立てて弱者を虐げ、平民から貴族に成り上がった主人公である私をいじめてくるキャラだ。

「あなた、光の魔法持ってるからって聖女に選ばれたらしいけど…貴方のような平民上がりの小娘があの方にふさわしいと思ってるの!?彼が優しいからってあまり調子に乗らないことね!」

イザベルはゲーム通りのかませ犬全開な宣戦布告を一方的にしてきて、そのまま去っていった。あの様子だと、小説とかでよくありがちな展開である「悪役令嬢も転生者」であることはなさそうだ。

それだったらあいつはいずれ攻略対象の王子様達に、無様に断罪されるわけだから無視していいわね。あーでもさっきのセリフ、ゲーム通りだったからすっごく笑っちゃったわぁ。あの傲慢知己な女が最後に這いつくばって惨めに泣きわめきながら、元婚約者となる王子様に縋りつくのよねぇ…

「くふっ」

あ、思い出したら笑いが出ちゃった。でもしょうがないじゃない。あいつはゲーム通りだと主人公にわざとぶつかったり噴水に突き落として着たりするから、すっごくうっとおしかったしムカついてたの。

だから今から断罪される時が楽しみで仕方ないの!

まぁ、そんな感じでゲーム通り彼らを攻略していくにつれ、悪役令嬢のいじめもゲーム通りに行われた。

実際に物を壊されたり舌打ちされたり、噴水に突き飛ばされた時はさすがに堪えたけど、最後に待ってるお楽しみを思うと笑いが止まらなかった。

「くふっ、ふふふ」

「な、何急に笑ってるんですの?」

「行きましょう。なんだか不気味だわ…」

この日もいつものように取り巻き共と、人気のないところで水をぶっかけてきたんだけどそれ以上何もしてこなかった。どうしたんだろ、別にいいけど。

そんなこんなでイベントを起こしながら日々を過ごしていく内に、ついに待ちに待った婚約破棄の断罪イベントが発生した!

「イザベル・ガードナー!貴公を国家反逆罪により国外追放、および婚約破棄を言い渡す!」

「そんな!あんまりですわ殿下!」

卒業パーティで行われた断罪イベントに私は胸が躍った!あのうざい悪役令嬢が無様に泣き崩れて王子に縋っている姿はもう爆笑ものだったわ!

…ただ、悪役令嬢の犯した罪の中で「平民の身分である者達にいじめをした」ってとこ、なんで私の名前だけじゃないの?私以外にも平民で学園に通ってる人がいるのは知ってるけどさ、そこは私だけでよくない?

まぁ細かいことはいっか!せっかく待ちに待ったハッピーエンドを迎えられたんだし!私は感激と喜びを表そうと、王子に抱き着きに行った。

「殿下!やりましたね!私とてもうれしい…」

「キミもだ。即刻荷物をまとめて修道院へ向かうがいい」

だけど彼は受け止めてくれず、あろうことか私を拒絶した。
は?なんで私が追い出されないといけないの?

「ま、待ってください!どうして私が修道院に行かなければいけないんですか!?私を新しい婚約者にするためにイザベルを断罪したんじゃないんですか!?」

「…いつそんな話になった?誰もキミを次の王太子妃になんてするつもりはないし、私もキミを生涯の伴侶に選ぶつもりはない。イザベルに関してはどの道、いずれこうするつもりだった」

「そんな!私は光魔法を扱える聖女なのですよ!?」

「確かに光魔法の担い手は希少だが、この国に聖女候補には数名ほどいる。キミだけが特別ではない」

「そんな…そんなはず!」

「それに、キミの学園での成績も態度も最悪なものだったではないか。魔法こそ強力ではあるが、勉強もまじめに取り組まず、クラスメイトとも親しくなるどころか、ずいぶんと傲慢な態度だったな。そんな者をこの国の聖女に、ひいては王太子妃になんて誰が望むんだ」

そんなこと言ったって、勉強なんて元々得意じゃなかったし、難しいからやる気なかったし、クラスメイトって…モブキャラなんかに興味なかったから適当にあしらってやっただけじゃない。それにマナーとか勉学なんて、私が王妃になれば別に必要ないでしょ!?

「それに、キミは私も含め、この国の要人である彼らの好みや、プライベートの事など、まるで見ていたかのように知っていたじゃないか。皆その事に関して不気味がっていてね…中にはキミが敵国のスパイではないかと疑ってる者もいるんだ」

「それは…!」

まさかゲームで熟知してた知識が仇になるなんて…!でもそれは全部前世で知ってるからって言っても誰も信じてもらえない…!どうしたら

「まぁ…スパイである線はないのはないだろうし、元々君の授業態度は教師陣からも匙を投げられるほどなんだ…キミを引き取った教会も「修道院に行ってその性根を叩きなおしてこい」とのことらしい」

なんでよ!私が聖女の素質があるからって引き取ったんならちゃんと私を守りなさいよ!誰も私を守ってくれる人なんていなくて、私は騎士に抑えられて、あれよあれよという間に修道院に連行されてしまった。

「ヒロインにこんなことして言いわけ!?いつかこの国に災いが起こるわよ!」

そう、ゲームでは聖女である私がいなければエンディングで魔王復活を阻止できないんだから!
…だけど私のそんな考えとは裏腹に、私が遠くへ連れていかれてしまった後、聖女候補の一人が聖女となり、攻略対象の王子と結ばれ、魔王復活をシナリオ通りに阻止したらしい…

そうして彼らは周りから祝福を受け、何度もゲームで見た幸せなエンディングの様子が新聞の一面記事を彩る写真として載っていた。

「ちゃんとゲーム通りにしたってのにどうしてこうなるのよ!」

ゲームで見た華やかなエンディングとは程遠い場所に連れてこられ、私は頭を抱えたのだった。



*****

パターンその①

ヒロインと悪役令嬢も悪役だと、攻略対象たちがまともになる。
 
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