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エピローグ
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あの一件から一か月の時が経った。
悪魔の魔石を秘密裏に入手し、王国を攻め落とそうとしていたセルドは一時投獄されていたが、まるで魂でも抜かれたかのように身動き一つとることも喋る事もなく、そのまま処刑された。
セルドに怨みを持った者は予想以上に多く、セルドが処刑される寸前まで罵倒の嵐が鳴り止まなかった。
セルドの虜になっていた女冒険者たちも処刑されてから、まるで薬物を取り上げられた薬物中毒者のように荒れていた。
あそこまでセルドに心酔するなんて異常だ。今にして思えば、本当にセルドも洗脳か魅了魔法の類を持っていたのかもしれない。
エリオはセルドの企みを未然に阻止したことにより国王陛下から勲章が贈られた。グレンとガルフを側近に迎え、今後もグランデール家は栄えていくだろう。
ロイドも世界を二度救ったということでこの度、『勇者』の称号が与えられた。
彼は冒険者として最高の栄誉を得たのだ。これから大変な目にあうこともあるけれど、今の彼なら大丈夫だ。
そして私、ソフィア・グランデールは…
ーーーー
「この辺りはもう終わりましたね」
「そうだな、ケガはないか?」
「えぇ、大丈夫です」
とあるダンジョンにて、私とロイドは魔物を倒し、進んでいた。
私はあれからというもの、ロイドと共に冒険者として活動することにした。裏ダンジョンで見つけたアミュレットと鍛え挙げられた槍術を生かして、彼のパーティに正式に加わることにしたのだ。
悠々自適なお嬢様生活もいいけど、やっぱりファンタジーの世界に来たからには冒険もしておきたいよね。
彼とパーティを組んで、割とうまくやっていけてると思っている。彼とは裏ダンジョンから共に戦ってきたからか、連携はうまく取れている。私たちは良いコンビだ。少なくとも私はそう思っている。
「ロイド、どうしました?」
そんなある日、とある地域での魔物のせん滅が終わり、近くの町の宿屋で休んでいるときの事。ロイドは一枚の封筒を手に持っていた。
「それ、だれからですか?」
「……ナタリーからだ」
「!…内容はなんと?」
「分からない…まだ読んでないんだ」
そういう彼の顔は沈んでいた。ナタリーの事を思い出しているのだろうか。
彼女はあの日、ロイドを裏切ったにも関わらず、瀕死になったロイドを助けるために全力で回復魔法をかけ続けていた。
ミモザもキャロも、ロイドに危害を加えることはなかったし、彼を治した後、彼女たちは一切抵抗することなく再び拘束された。
その後セルドに心酔してる様子はなく、むしろ軽蔑している様子も見られたらしい。演技の可能性もあったが、自白魔法でそれはないことが判明した。
大人しく従ったこともあり、事情聴取と拘留期間も短く済んだのだが、それが終わると彼女たちはロイドに会うことなく、この国から姿を消したそうだ。
だからどうしてあの時ロイドを助ける気になったのか、未だに謎のままだった。
「…オレはナタリー達がセルドにあんなことされてたなんて全然知らなかった」
ぽつり、とロイドがこぼす。
「皆いつもみたいに笑ってたんだ。一緒に冒険して、笑って、何度も助けてくれて…けど、俺はそんな彼女たちを助けられなかった」
「それはロイドのせいじゃありません。セルドのせいです」
「いや、俺のせいだよ。オレがもっと早く気づいていれば、きっと違う結末になっていた」
仮に気付いていたら、本当に違った結末になっていたのだろうか。
私ももし、前世の記憶が戻ってきたタイミングがもっと早かったら彼女らを救うことが出来たのだろうかと思ったことはある。
だけど今となってはどうしようもない。全て終わった後なのだから。
「そんな俺だからきっと、愛想が付かされたんだろうな…だから、情けないけどこの手紙も怖くて読めないんだ…彼女たちを見捨てたオレに、これを読む資格なんてないから」
ロイドはきっと自分が許せないのだろう。ナタリー達を助けられなかった自分の不甲斐のなさに。
だけどこれだけは言いたかった。
「そんなこと言わないでください。彼女たちはあなたに愛想をつかしてなんていません。確かに彼女たちはセルドに靡きました。ですが最後はあなたの命を救いました。愛想をつかした相手にそこまではしませんよ」
そういうとロイドはうなだれ、手紙を見つめた。
…ゲームは終わり、私たちは日常を手に入れた。だけどそれで失ったものは大きかった。
エリオもあの後、シャルロッテの事を口にしなくなったため、今彼女とはどうなったのか分からない。グレンやガルフも同様だ。
ロイドもずっとそばにいた彼女たちを失い、これからどうなるのか分からない。彼女達ともしかしたらどこかで再会するかもしれないし、二度と会うことはないのかもしれない。
これから先の事は分からないけれど、今の私にできることは、ロイドがこれ以上悲しい目に合わないように隣にい続けることだけだ。
優しい彼に穏やかで幸福な未来が訪れるその日まで…
*****
ロイドは目を覚ました。どうやら転寝をしていたようだ。
懐かしい夢を見ていたような気がする。
あれから十数年の月日が流れ、自分は冒険者から足を洗っていた。
不意に自分を呼ぶ声が聞こえる。彼女だ。
ずっと冒険を共にしてきた頼もしい仲間。今では自分の妻だ。
振り返ると彼女の横を通り過ぎ、子供たちがこちらにかけてくる。
自分と彼女の間にできた子供だ。
こちらにやってきた子供たちを抱き留めると、彼女が微笑んで追いついた。
一度は大切な人たちに裏切られた。だけど今、自分は愛する者たちと共にいる。
もう二度とこのかけがえのないものを失わないように、ロイドは愛する妻と子供たちを抱きしめた。
******
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
本編は完結しましたがもう少し続きます。
次回はナタリー達やセルドのその後になります。
悪魔の魔石を秘密裏に入手し、王国を攻め落とそうとしていたセルドは一時投獄されていたが、まるで魂でも抜かれたかのように身動き一つとることも喋る事もなく、そのまま処刑された。
セルドに怨みを持った者は予想以上に多く、セルドが処刑される寸前まで罵倒の嵐が鳴り止まなかった。
セルドの虜になっていた女冒険者たちも処刑されてから、まるで薬物を取り上げられた薬物中毒者のように荒れていた。
あそこまでセルドに心酔するなんて異常だ。今にして思えば、本当にセルドも洗脳か魅了魔法の類を持っていたのかもしれない。
エリオはセルドの企みを未然に阻止したことにより国王陛下から勲章が贈られた。グレンとガルフを側近に迎え、今後もグランデール家は栄えていくだろう。
ロイドも世界を二度救ったということでこの度、『勇者』の称号が与えられた。
彼は冒険者として最高の栄誉を得たのだ。これから大変な目にあうこともあるけれど、今の彼なら大丈夫だ。
そして私、ソフィア・グランデールは…
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「この辺りはもう終わりましたね」
「そうだな、ケガはないか?」
「えぇ、大丈夫です」
とあるダンジョンにて、私とロイドは魔物を倒し、進んでいた。
私はあれからというもの、ロイドと共に冒険者として活動することにした。裏ダンジョンで見つけたアミュレットと鍛え挙げられた槍術を生かして、彼のパーティに正式に加わることにしたのだ。
悠々自適なお嬢様生活もいいけど、やっぱりファンタジーの世界に来たからには冒険もしておきたいよね。
彼とパーティを組んで、割とうまくやっていけてると思っている。彼とは裏ダンジョンから共に戦ってきたからか、連携はうまく取れている。私たちは良いコンビだ。少なくとも私はそう思っている。
「ロイド、どうしました?」
そんなある日、とある地域での魔物のせん滅が終わり、近くの町の宿屋で休んでいるときの事。ロイドは一枚の封筒を手に持っていた。
「それ、だれからですか?」
「……ナタリーからだ」
「!…内容はなんと?」
「分からない…まだ読んでないんだ」
そういう彼の顔は沈んでいた。ナタリーの事を思い出しているのだろうか。
彼女はあの日、ロイドを裏切ったにも関わらず、瀕死になったロイドを助けるために全力で回復魔法をかけ続けていた。
ミモザもキャロも、ロイドに危害を加えることはなかったし、彼を治した後、彼女たちは一切抵抗することなく再び拘束された。
その後セルドに心酔してる様子はなく、むしろ軽蔑している様子も見られたらしい。演技の可能性もあったが、自白魔法でそれはないことが判明した。
大人しく従ったこともあり、事情聴取と拘留期間も短く済んだのだが、それが終わると彼女たちはロイドに会うことなく、この国から姿を消したそうだ。
だからどうしてあの時ロイドを助ける気になったのか、未だに謎のままだった。
「…オレはナタリー達がセルドにあんなことされてたなんて全然知らなかった」
ぽつり、とロイドがこぼす。
「皆いつもみたいに笑ってたんだ。一緒に冒険して、笑って、何度も助けてくれて…けど、俺はそんな彼女たちを助けられなかった」
「それはロイドのせいじゃありません。セルドのせいです」
「いや、俺のせいだよ。オレがもっと早く気づいていれば、きっと違う結末になっていた」
仮に気付いていたら、本当に違った結末になっていたのだろうか。
私ももし、前世の記憶が戻ってきたタイミングがもっと早かったら彼女らを救うことが出来たのだろうかと思ったことはある。
だけど今となってはどうしようもない。全て終わった後なのだから。
「そんな俺だからきっと、愛想が付かされたんだろうな…だから、情けないけどこの手紙も怖くて読めないんだ…彼女たちを見捨てたオレに、これを読む資格なんてないから」
ロイドはきっと自分が許せないのだろう。ナタリー達を助けられなかった自分の不甲斐のなさに。
だけどこれだけは言いたかった。
「そんなこと言わないでください。彼女たちはあなたに愛想をつかしてなんていません。確かに彼女たちはセルドに靡きました。ですが最後はあなたの命を救いました。愛想をつかした相手にそこまではしませんよ」
そういうとロイドはうなだれ、手紙を見つめた。
…ゲームは終わり、私たちは日常を手に入れた。だけどそれで失ったものは大きかった。
エリオもあの後、シャルロッテの事を口にしなくなったため、今彼女とはどうなったのか分からない。グレンやガルフも同様だ。
ロイドもずっとそばにいた彼女たちを失い、これからどうなるのか分からない。彼女達ともしかしたらどこかで再会するかもしれないし、二度と会うことはないのかもしれない。
これから先の事は分からないけれど、今の私にできることは、ロイドがこれ以上悲しい目に合わないように隣にい続けることだけだ。
優しい彼に穏やかで幸福な未来が訪れるその日まで…
*****
ロイドは目を覚ました。どうやら転寝をしていたようだ。
懐かしい夢を見ていたような気がする。
あれから十数年の月日が流れ、自分は冒険者から足を洗っていた。
不意に自分を呼ぶ声が聞こえる。彼女だ。
ずっと冒険を共にしてきた頼もしい仲間。今では自分の妻だ。
振り返ると彼女の横を通り過ぎ、子供たちがこちらにかけてくる。
自分と彼女の間にできた子供だ。
こちらにやってきた子供たちを抱き留めると、彼女が微笑んで追いついた。
一度は大切な人たちに裏切られた。だけど今、自分は愛する者たちと共にいる。
もう二度とこのかけがえのないものを失わないように、ロイドは愛する妻と子供たちを抱きしめた。
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ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
本編は完結しましたがもう少し続きます。
次回はナタリー達やセルドのその後になります。
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