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魔女と奇妙な男 (42) 百年商会
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サジルさん、どうしてそんな事……。あなたは私がお店に勤め始めるよりも、ずっと前から出入りしたんでしょ? いえ、先輩たちに聞いた話では、もう百年近く、あなたのお店は魔女協会と取引きがあるって……。
それが、なぜ!」
ネリスが、泣きだしそうな顔をしている、中年商人の腕を取りました。
「すまない、本当にすまない。私だって最初から、彼らの言いなりになるつもりなんてなかった。
でも……。
ある時メサイトが、従業員募集の張り紙を見てやって来たんだ。試しに使ってみたら、優秀だし何といっても素直だったので、つい信用してしまったんだよ。
そうして商会の中の仕事もやらせるようになる内に、いつの間にか違法な取引をし始めたんだ。しかも私が全部やったように、巧妙な仕掛けをして!」
サジルが、涙を浮かべながら話します。よほど、辛かったのでしょう。
「それをとがめだてしたら、反省するどころか”俺が、お恐れながらとお上に訴え出たら、どうなると思う? わかるよな。それが嫌なら俺の命令に従え”って……。
もし公表されたら、私は確実に牢屋行きだ。いや、私が罰を受けるだけならまだいい。主として迂闊だったわけだから、その責任を負うのは仕方がない。
でもそうなったら、店の信用はガタ落ちになる。商売も立ち行かなくなるだろう。百年続いた店を、私の代で潰すわけにはいかなかったんだ……」
サジルはとうとう、その場にうずくまってしまいました。
「おい、勝手に話を進めてんじゃねぇ! ここはオレの仕切りだってぇのが、わかんねぇのか!!」
気分よく話していたメサイトが激高します。
「あんた、ひどいじゃない! どうしてあなたを信用していたサジルさんを、裏切るような真似をしたのよ!」
相手が化け物なのも忘れ、猛然と抗議をするネリス。サジルが真の悪党ではなかった事を知り、わずかに灯っていた希望の灯火が少し大きくなりました。
「お前はバカか。オレがサジルの商会に入ったところからが、既に計画だったんだよ。裏切ったわけじゃないさ。
まぁ、そいつは曲がりなりにも百年続く商会を仕切る男だ。信用させるのには苦労したがな」
悪びれる様子もなく、いえ、むしろ自慢をするかのようにメサイトが薄ら笑いを浮かべます。
全てが最初から計画的……。その事実を知り、ネリスの心は、底知れない巨大な悪意に押し潰されそうになりました。
厳しいながらも弟子思いの師匠、先輩たちとの有意義な工場勤務、悪意などとは丸きり無縁と思われた彼女の充実した暮らしは、何も知らないと言うだけの幻想だったのかと、ネリスの胸は締めつけられました。
「そうそう、それからお前がすごく不思議がっているだろう話が、もう一つあるよな?」
ネリスが尋ねてもいないのに、メサイトが促します。もう、話したくて話したくて、仕方がないようですね。
「どうして、オレがここへ入れたのか? もちろん、警報装置に引っ掛る事もなく! それはな……」
そのメサイトの軽やかな弁舌を遮るように、ネリスは、
「そりゃ、合鍵を持っていたからでしょう?」
と、事もなげに言いました。
「は?」
メサイトは、呆気にとられます。
「あんた、血の巡りが悪いわね。サジルさんと一緒に、あんたが店に何度も来ていたのは普通に知ってるわよ。
そっちが悪意を持って店を訪れていたんなら、色々と納品するフリをして、鍵を探すくらいは簡単でしょうね。で、隙を見て持ち出したあげくに合鍵を作る。
接客ロビー以外の場所に立ち入れる人は、おのずと限られていたわけだから、それほど厳重に鍵を管理はしていなかったみたいだしね」
ネリスは、ヤレヤレという仕草をしました。
それが、なぜ!」
ネリスが、泣きだしそうな顔をしている、中年商人の腕を取りました。
「すまない、本当にすまない。私だって最初から、彼らの言いなりになるつもりなんてなかった。
でも……。
ある時メサイトが、従業員募集の張り紙を見てやって来たんだ。試しに使ってみたら、優秀だし何といっても素直だったので、つい信用してしまったんだよ。
そうして商会の中の仕事もやらせるようになる内に、いつの間にか違法な取引をし始めたんだ。しかも私が全部やったように、巧妙な仕掛けをして!」
サジルが、涙を浮かべながら話します。よほど、辛かったのでしょう。
「それをとがめだてしたら、反省するどころか”俺が、お恐れながらとお上に訴え出たら、どうなると思う? わかるよな。それが嫌なら俺の命令に従え”って……。
もし公表されたら、私は確実に牢屋行きだ。いや、私が罰を受けるだけならまだいい。主として迂闊だったわけだから、その責任を負うのは仕方がない。
でもそうなったら、店の信用はガタ落ちになる。商売も立ち行かなくなるだろう。百年続いた店を、私の代で潰すわけにはいかなかったんだ……」
サジルはとうとう、その場にうずくまってしまいました。
「おい、勝手に話を進めてんじゃねぇ! ここはオレの仕切りだってぇのが、わかんねぇのか!!」
気分よく話していたメサイトが激高します。
「あんた、ひどいじゃない! どうしてあなたを信用していたサジルさんを、裏切るような真似をしたのよ!」
相手が化け物なのも忘れ、猛然と抗議をするネリス。サジルが真の悪党ではなかった事を知り、わずかに灯っていた希望の灯火が少し大きくなりました。
「お前はバカか。オレがサジルの商会に入ったところからが、既に計画だったんだよ。裏切ったわけじゃないさ。
まぁ、そいつは曲がりなりにも百年続く商会を仕切る男だ。信用させるのには苦労したがな」
悪びれる様子もなく、いえ、むしろ自慢をするかのようにメサイトが薄ら笑いを浮かべます。
全てが最初から計画的……。その事実を知り、ネリスの心は、底知れない巨大な悪意に押し潰されそうになりました。
厳しいながらも弟子思いの師匠、先輩たちとの有意義な工場勤務、悪意などとは丸きり無縁と思われた彼女の充実した暮らしは、何も知らないと言うだけの幻想だったのかと、ネリスの胸は締めつけられました。
「そうそう、それからお前がすごく不思議がっているだろう話が、もう一つあるよな?」
ネリスが尋ねてもいないのに、メサイトが促します。もう、話したくて話したくて、仕方がないようですね。
「どうして、オレがここへ入れたのか? もちろん、警報装置に引っ掛る事もなく! それはな……」
そのメサイトの軽やかな弁舌を遮るように、ネリスは、
「そりゃ、合鍵を持っていたからでしょう?」
と、事もなげに言いました。
「は?」
メサイトは、呆気にとられます。
「あんた、血の巡りが悪いわね。サジルさんと一緒に、あんたが店に何度も来ていたのは普通に知ってるわよ。
そっちが悪意を持って店を訪れていたんなら、色々と納品するフリをして、鍵を探すくらいは簡単でしょうね。で、隙を見て持ち出したあげくに合鍵を作る。
接客ロビー以外の場所に立ち入れる人は、おのずと限られていたわけだから、それほど厳重に鍵を管理はしていなかったみたいだしね」
ネリスは、ヤレヤレという仕草をしました。
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