学園裁判

アーエル

文字の大きさ
12 / 15
第二章

「……愚かですね」

しおりを挟む

「はあ……愚かですね」

呆れた声でそう呟いたのは、間違いなくいま踏みつけている裁判官役の女生徒。
その声は痛みをこらえているようにも聞こえず、床に蹲ってホンジョラスの暴行に耐えている様子はみられない。
……どういうことだ?
そんな表情で動きを止めたホンジョラスは周囲を見回すが、彼に向ける学生たちの視線になんら
そう、やっとホンジョラスは周囲の異常さを感じた。
女生徒が目の前で暴力を受けているのに誰も助けようとしない。
教師を呼びにいくことも、学園を守る警備隊に助けを求めにいった様子はみられない。

「学園管轄外で兄の殺害。学園の内部での暴力行為を8、23、59。ああ、のちに亡くなった案件、これらは殺害案件に含みます。そのため合計159件、殺害案件は56件。そして学園外で学園管轄下に含まれる暴力行為が509件。殺害案件は29件。そのうちの17件、これは貴族院裁判の管轄となっておりますが被害者は2,000人を超えます。これらを学園裁判とはいえ自供なさった以上、貴族院裁判でも有効だとご理解なさっておいででしょうか?」
「黙れ!」

裁判官の女生徒は淡々と話す。
それに腹を立ててふたたびガシガシと足下で倒れている女生徒を踏みつける。
ここでやっと……ホンジョラスは不気味さの理由に気付き、一歩二歩と後ずさった。
どんなに殴っても踏んでも、女生徒は悲鳴も呻き声も出していない。
そして『すでに死んでいてもおかしくはない』はずだった。
ホンジョラスは相手が女子供であろうと手加減をしない。
逆に泣き顔、命乞い、そして這いずってでも逃げようとする姿をみて舌舐めずりして悦ぶ。
そんな男だった。

「もう、終わりでしょうか?」

また淡々とした声で女生徒が告げる。
ホンジョラスが繰り返した暴力が効いていないように。
何事もなかったかのように立ち上がった女生徒は、ようにホンジョラスに歩いていくと胸元を片手で掴んで持ち上げた。

「自供多数により、本裁判を貴族院に引き継ぎます。では、閉廷」

その言葉がホンジョラスの聞いた最後の言葉だった。
腹部に強烈な痛みが走り、ホンジョラスは小さく呻いて意識を手放したからだ。



ホンジョラスが目を覚ましたのは地下牢だった。
腹部に強烈な痛みが残っている彼は服をめくると、そこには拳型のアザが青黒くできていた。
ホンジョラスはその強さに恐怖する。
見かけは普通の女生徒の彼女は、何時間も続いた暴行に耐えた。
いや、一切痛みを感じず、最強を自負していたホンジョラスを拳ひとつで沈めた。
ホンジョラスはその強さに歓喜した。
自らをはるかに凌駕する強さに出会えた悦びに。
そして望む、彼女との再戦を。

しかし彼は理解していない。
すでに自分のいる場が学園ではなく貴族院の地下牢だということに。
学園裁判で自供したため、貴族院の裁判は被告人不在で進行したことを。
そしてホンジョラスの人生は……残り数時間で終わりを迎える。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

ある平民生徒のお話

よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。 伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。 それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

“いつまでも一緒”の鎖、貴方にお返しいたします

ファンタジー
男爵令嬢エリナ・ブランシュは、幼馴染であるマルグリット・シャンテリィの引き立て役だった。 マルグリットに婚約が決まり開放されると思ったのも束の間、彼女は婚約者であるティオ・ソルベに、家へ迎え入れてくれないかというお願いをする。 それをティオに承諾されたエリナは、冷酷な手段をとることを決意し……。 ※複数のサイトに投稿しております。

ある国立学院内の生徒指導室にて

よもぎ
ファンタジー
とある王国にある国立学院、その指導室に呼び出しを受けた生徒が数人。男女それぞれの指導担当が「指導」するお話。 生徒指導の担当目線で話が進みます。

処理中です...