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第二章
「……愚かですね」
しおりを挟む「はあ……愚かですね」
呆れた声でそう呟いたのは、間違いなくいま踏みつけている裁判官役の女生徒。
その声は痛みを堪えているようにも聞こえず、床に蹲ってホンジョラスの暴行に耐えている様子はみられない。
……どういうことだ?
そんな表情で動きを止めたホンジョラスは周囲を見回すが、彼に向ける学生たちの視線になんら変わりはない。
そう、やっとホンジョラスは周囲の異常さを感じた。
女生徒が目の前で暴力を受けているのに誰も助けようとしない。
教師を呼びにいくことも、学園を守る警備隊に助けを求めにいった様子はみられない。
「学園管轄外で兄の殺害。学園の内部での暴力行為を8、23、59。ああ、のちに亡くなった案件、これらは殺害案件に含みます。そのため合計159件、殺害案件は56件。そして学園外で学園管轄下に含まれる暴力行為が509件。殺害案件は29件。そのうちの17件、これは貴族院裁判の管轄となっておりますが被害者は2,000人を超えます。これらを学園裁判とはいえ自供なさった以上、貴族院裁判でも有効だとご理解なさっておいででしょうか?」
「黙れ!」
裁判官の女生徒は淡々と話す。
それに腹を立ててふたたびガシガシと足下で倒れている女生徒を踏みつける。
ここでやっと……ホンジョラスは不気味さの理由に気付き、一歩二歩と後ずさった。
どんなに殴っても踏んでも、女生徒は悲鳴も呻き声も出していない。
そして『すでに死んでいてもおかしくはない』はずだった。
ホンジョラスは相手が女子供であろうと手加減をしない。
逆に泣き顔、命乞い、そして這いずってでも逃げようとする姿をみて舌舐めずりして悦ぶ。
そんな男だった。
「もう、終わりでしょうか?」
また淡々とした声で女生徒が告げる。
ホンジョラスが繰り返した暴力が効いていないように。
何事もなかったかのように立ち上がった女生徒は、打身も骨折も受けていないようにホンジョラスに歩いていくと胸元を片手で掴んで持ち上げた。
「自供多数により、本裁判を貴族院に引き継ぎます。では、閉廷」
その言葉がホンジョラスの聞いた最後の言葉だった。
腹部に強烈な痛みが走り、ホンジョラスは小さく呻いて意識を手放したからだ。
ホンジョラスが目を覚ましたのは地下牢だった。
腹部に強烈な痛みが残っている彼は服をめくると、そこには拳型のアザが青黒くできていた。
ホンジョラスはその強さに恐怖する。
見かけは普通の女生徒の彼女は、何時間も続いた暴行に耐えた。
いや、一切痛みを感じず、最強を自負していたホンジョラスを拳ひとつで沈めた。
ホンジョラスはその強さに歓喜した。
自らをはるかに凌駕する強さに出会えた悦びに。
そして望む、彼女との再戦を。
しかし彼は理解していない。
すでに自分のいる場が学園ではなく貴族院の地下牢だということに。
学園裁判で自供したため、貴族院の裁判は被告人不在で進行したことを。
そしてホンジョラスの人生は……残り数時間で終わりを迎える。
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