異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜

アーエル

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第六章

第77話

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「さくら様。久しぶりに『ここの探検』をされませんか?」

『聖なる乙女のお披露目』から4日後。
パーティーの翌日から出していた熱は前日には下がっていた。
それでも『過保護』な保護者たちから、『数日は大人しくするように』と部屋から一歩も出してもらえないでいた。
そんな時にジタンの来訪を受けたのだ。
畳の上に『木のパズル』を広げて図柄を作って遊んでいたさくらは「探検?みんなも一緒?」と首をかしげる。
以前は『闖入者ちんにゅうしゃ』のせいで『探検』の中断を余儀なくされたのだ。

「なんだー?さくら。しょっちゅうハンドくんと抜け出してるクセに、まだ『この中のこと』を知らないんか?」

ヨルクに笑われて「だってぇー。温室とかは行ったことがあるけど、他の場所は『人がいっぱい』なんだもん」と不貞腐ふてくされる。
そんなさくらの頭を撫でて「みんなで行くか?」とセルヴァンが聞くと「行く!」と笑顔になった。

『ちゃんとお片付けしてからですよ』

ハンドくんにケースを出されて木のパズルを入れていく。

「あれ?『ピース』が足りない」

ケースの絵柄にあわせてピースを入れていたが、ケースの中には空白が出来ていた。
さくらが周りを見回すが見つからない。
ケースを持ち上げて下を探すが、そんなところにあるはずがない。
だいたい、ハンドくんがケースをピースの上に置くはずがない。

するとハンドくんがピースを見つけて持ってきてくれた。
何かの拍子に、掘りごたつに掛けてある布団の中へ入ってしまったようだ。

「ちゃんと片付けしなかったら『無くした』ことに気付かなかったな」

ヨルクに笑われたけど『事実』だから仕方がない。
ぷくっと頬を膨らませたさくらの代わりに、ハンドくんがケースを『さくらの部屋』へ持っていく。


ハンドくんがジタンへの対応を軟化させたのは、『さくらの魔石』を買い取るようになったからだ。
ただ、そのお金はハンドくんが管理している。
さくらに全額渡すと、ネットショップで何を買い出すか分からないからだ。
その代わり、タブレットで『買いたいもの』をチェックして、ハンドくんが『買ってもいい』と認めたものはその都度ハンドくんがお金を『チャージ』してくれて購入する。
ハンドくんは『買うこと』に関しては反対していない。
ただ、さくらの場合は『目についた欲しいもの』を手当り次第にまとめ買いしようとするのだ。


『1個だけです』

「やー。せめて2個!」

『ダメです。『無くなってから』また買えばいいだけです』

「ケチー!」

『それでしたら『注文をキャンセル』しましょうか?』

「ダメ~!」

『じゃあ1個でガマンしますか?』

「・・・・・・するぅ」

そんなやり取りが毎回繰り返されている。
それでもさくらは懲りずに、何度も『多め』に購入しようとしてはハンドくんに止められているのだ。
実はさくらが本当に気に入った商品は、ハンドくんがこっそり購入してハンドくん専用のアイテムボックスに保管しているが、それはさくらに内緒だ。


そして、購入するとすぐにダンボールに入った状態で目の前に届けられる。
同時に、タブレットやメニューに『受け取り確認』の画面が開く。
そこをタップすると『お買上げありがとう御座いました』と表示される。

はじめはそのことに驚いていた皆も、今では慣れてしまった。


ジタンも部屋への出入りをハンドくんに許されるようになり、『さくらの部屋』にも招かれるようになった。
はじめの頃はヨルク同様、様々な道具に驚いていた。
今ではネットショップの仕組みを教わり、ハンドくんに頼んで種苗をいくつか購入してもらい、『この世界でも育てることが可能か』という研究をヨルクと共に始めた。

その一部は『屋上庭園』にもある。
『瘴気が植物にどう影響するか』ということで、瘴気がなく清浄化されている屋上庭園でどのような影響があるのかを研究中なのだ。

・・・今のところ、さくらの世界から購入した植物は瘴気の影響を受けていない。

それどころか、瘴気が薄まったところもあるのだ。
以前、さくらがこの世界の説明を受けた時に、瘴気は聖なる乙女の呼吸で浄化されると聞いて『私らは光合成をする樹木か?』とツッコミを入れていたが、もしかするとその考えは正しかったかも知れない。

この研究で、さくらの世界の植物が『瘴気の浄化』が出来ると分かれば、『聖なる乙女』を連れてくる頻度も少なくなるだろう。
しかし、まだ、研究は始まったばかりだ。
実際にそうなるとは限らない。
それでも聖なる乙女の負担が軽くなればいい。

ジタンは本気でそう願っているのだった。


「じゃあ行こうかね」

「うん!」

ドリトスに促されてさくらが立ち上がる。
するとハンドくんたちが、さくらのコートと耳あてと共に、さくらが編んでいた『毛糸の帽子とマフラーとミトン』を持ってきた。
冬に入ったばかりでも王城内は温度設定がされていて中ではコートは不要だ。
もちろん毛糸の帽子とマフラー、ミトンはいらない。
きょとんとするさくらのメニューから『服装』を開いて登録する。

『これでいつでも使えますよ』

「ありがとう!」

「良かったわね。さくら」

「少しでも寒かったらすぐに出すんだぞ」

「ハンドくんも。『さくらに着せたほうが良い』と思ったらすぐに出してもらえるかね?」

『はい。分かりました』


ドリトスもセルヴァンも『毛皮』で寒さに強い。
ヨルクやヒナリは『風に乗る』ため、元々温度が気にならない。
何よりこの世界では、人族以外は『変温動物』なのだ。
多少の暑さ寒さを感じて防寒具を着用することはあるが、人族みたいに『着込む』ことはないのだ。

そしてさくらは気付いていなかった。
ヨルクが『結界内でハリセンを受けて座卓に突っ伏している』ことを。
ヨルクも『王城探検中に『呪い』を受けた』ことを知っていたハズだ。
それなのに、さくらに思い出させるようなことを言ったことがハンドくんの逆鱗に触れたのだ。
そのことに気付いていたドリトスとセルヴァンは、その後に起きるであろう『ハンドくんの制裁』にさくらが気付かないようにしていた。

ちなみにヒナリは『そのこと』にまったく気付いていない。
少しでも『さくらのこと』を知りたいヒナリは、ハンドくんが何をしていたのか興味津々だったのだ。

そのため、ヨルクの様子を見ていたのは『さくらと向かい合う』位置に立っていたジタンだけだった。
しかしさくらの後ろに立つセルヴァンに首を横に振られたため『見なかったこと』にした。


「さあ。そろそろ『行ける』かね?」

ドリトスの言葉が聞こえたのか、座卓に伏せていたヨルクは何事もなかったかのように立ち上がって、セルヴァンの後ろへと近付いて来た。
どうやらドリトスの言葉はヨルクに向けた言葉だったようだ。

さくらは楽しそうに足早で部屋から出る。
部屋を出る前に中に残る『留守番組』のハンドくんたちへ向かって「行ってきま~す」と声をかけるのを忘れずに。


「ヨルク。大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃねぇよ。・・・けどな。さくらが『あの時』を思い出すかも知れないことを言ったのはオレだからな。『さくらを守る』立場のオレが『さくらをキズつける』ことは、何があっても許されないんだよ」

当時はまだいなかったヨルクだが、セルヴァンたちから話は聞いて知っていた。
それなのに口を滑らせたのはヨルク自身だ。
だから『治癒魔法』を使って回復しないのだ。
この痛みは『バツ』なのだから。
何より、さくらがつらい思いをしなかったことの方が大切だ。


ヨルクたちの会話を、前を歩くセルヴァンとドリトスは耳にしていた。

「ヨルクは『変わった』ようじゃな」

「ええ。『良い方』へ」

小声で会話する2人の前を行くさくらとヒナリが、階段前で振り返って待っている。

「ねぇ!『結界』が張ってないよー?」

さくらが驚きの声を上げる。
結界が張られている時は、階段から下は『白いモヤの膜』で何も見えないのだ。
いま階段の下は普通に見えている。
『白いモヤ』で見えなくなっているのが当たり前になっていたさくらにとって、階段の下が見える方が不思議で仕方がない。

ちなみにさくらに『結界』は効かない。
何か『見えない薄い膜』を通り抜けた感覚があるだけだ。
そして『鍵をかけた扉』も役に立たない。
さくらがドアノブを握っただけで、勝手に鍵が開いてしまうのだ。
もし開かない扉があったとしても、ハンドくんが『中から』開けるだけだが。



「いま、この中にいるのは此処にいる私たちだけです」

ジタンの言葉に驚いたさくらは、しゃがんで階段の下を覗く。
その表情は『好奇心』より『不安』の方が大きいようだ。
ハンドくんとコッソリ抜け出すさくらだったが、それはハンドくんたちだけでなく『親衛隊』たちからも『守られている』ことが分かっているからだ。

そんな様子に気付いたドリトスがさくらを抱き上げる。

「今日の『探検』は此処までにして止めとくかね?」

ドリトスに聞かれて少し考えていたが「みんな一緒だから行く」とドリトスの首に腕を回す。
それでも怖いのだろう。
さくらの身体が小さく震えていた。
ドリトスはそれに気付かないフリをして、ゆっくり階段をおりていく。
階段下のホールに何時いつもいた『さくらの親衛隊』や、彼らの使っている休憩用のテーブルやイスもなくなっていた。
ドリトスの腕の中で周囲を見回す。
鑑定魔法にも反応がない。
部屋の中で『息をひそめている』気配もない。

本当に自分たち以外『誰もいない』のだ。

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