77 / 249
第六章
第77話
しおりを挟む「さくら様。久しぶりに『ここの探検』をされませんか?」
『聖なる乙女のお披露目』から4日後。
パーティーの翌日から出していた熱は前日には下がっていた。
それでも『過保護』な保護者たちから、『数日は大人しくするように』と部屋から一歩も出してもらえないでいた。
そんな時にジタンの来訪を受けたのだ。
畳の上に『木のパズル』を広げて図柄を作って遊んでいたさくらは「探検?みんなも一緒?」と首を傾げる。
以前は『闖入者』のせいで『探検』の中断を余儀なくされたのだ。
「なんだー?さくら。しょっちゅうハンドくんと抜け出してるクセに、まだ『この中のこと』を知らないんか?」
ヨルクに笑われて「だってぇー。温室とかは行ったことがあるけど、他の場所は『人がいっぱい』なんだもん」と不貞腐れる。
そんなさくらの頭を撫でて「みんなで行くか?」とセルヴァンが聞くと「行く!」と笑顔になった。
『ちゃんとお片付けしてからですよ』
ハンドくんにケースを出されて木のパズルを入れていく。
「あれ?『ピース』が足りない」
ケースの絵柄にあわせてピースを入れていたが、ケースの中には空白が出来ていた。
さくらが周りを見回すが見つからない。
ケースを持ち上げて下を探すが、そんなところにあるはずがない。
だいたい、ハンドくんがケースをピースの上に置くはずがない。
するとハンドくんがピースを見つけて持ってきてくれた。
何かの拍子に、掘りごたつに掛けてある布団の中へ入ってしまったようだ。
「ちゃんと片付けしなかったら『無くした』ことに気付かなかったな」
ヨルクに笑われたけど『事実』だから仕方がない。
ぷくっと頬を膨らませたさくらの代わりに、ハンドくんがケースを『さくらの部屋』へ持っていく。
ハンドくんがジタンへの対応を軟化させたのは、『さくらの魔石』を買い取るようになったからだ。
ただ、そのお金はハンドくんが管理している。
さくらに全額渡すと、ネットショップで何を買い出すか分からないからだ。
その代わり、タブレットで『買いたいもの』をチェックして、ハンドくんが『買ってもいい』と認めたものはその都度ハンドくんがお金を『チャージ』してくれて購入する。
ハンドくんは『買うこと』に関しては反対していない。
ただ、さくらの場合は『目についた欲しいもの』を手当り次第にまとめ買いしようとするのだ。
『1個だけです』
「やー。せめて2個!」
『ダメです。『無くなってから』また買えばいいだけです』
「ケチー!」
『それでしたら『注文をキャンセル』しましょうか?』
「ダメ~!」
『じゃあ1個でガマンしますか?』
「・・・・・・するぅ」
そんなやり取りが毎回繰り返されている。
それでもさくらは懲りずに、何度も『多め』に購入しようとしてはハンドくんに止められているのだ。
実はさくらが本当に気に入った商品は、ハンドくんがこっそり購入してハンドくん専用のアイテムボックスに保管しているが、それはさくらに内緒だ。
そして、購入するとすぐにダンボールに入った状態で目の前に届けられる。
同時に、タブレットやメニューに『受け取り確認』の画面が開く。
そこをタップすると『お買上げありがとう御座いました』と表示される。
はじめはそのことに驚いていた皆も、今では慣れてしまった。
ジタンも部屋への出入りをハンドくんに許されるようになり、『さくらの部屋』にも招かれるようになった。
はじめの頃はヨルク同様、様々な道具に驚いていた。
今ではネットショップの仕組みを教わり、ハンドくんに頼んで種苗をいくつか購入してもらい、『この世界でも育てることが可能か』という研究をヨルクと共に始めた。
その一部は『屋上庭園』にもある。
『瘴気が植物にどう影響するか』ということで、瘴気がなく清浄化されている屋上庭園でどのような影響があるのかを研究中なのだ。
・・・今のところ、さくらの世界から購入した植物は瘴気の影響を受けていない。
それどころか、瘴気が薄まったところもあるのだ。
以前、さくらがこの世界の説明を受けた時に、瘴気は聖なる乙女の呼吸で浄化されると聞いて『私らは光合成をする樹木か?』とツッコミを入れていたが、もしかするとその考えは正しかったかも知れない。
この研究で、さくらの世界の植物が『瘴気の浄化』が出来ると分かれば、『聖なる乙女』を連れてくる頻度も少なくなるだろう。
しかし、まだ、研究は始まったばかりだ。
実際にそうなるとは限らない。
それでも聖なる乙女の負担が軽くなればいい。
ジタンは本気でそう願っているのだった。
「じゃあ行こうかね」
「うん!」
ドリトスに促されてさくらが立ち上がる。
するとハンドくんたちが、さくらのコートと耳あてと共に、さくらが編んでいた『毛糸の帽子とマフラーとミトン』を持ってきた。
冬に入ったばかりでも王城内は温度設定がされていて中ではコートは不要だ。
もちろん毛糸の帽子とマフラー、ミトンはいらない。
きょとんとするさくらのメニューから『服装』を開いて登録する。
『これでいつでも使えますよ』
「ありがとう!」
「良かったわね。さくら」
「少しでも寒かったらすぐに出すんだぞ」
「ハンドくんも。『さくらに着せたほうが良い』と思ったらすぐに出してもらえるかね?」
『はい。分かりました』
ドリトスもセルヴァンも『毛皮』で寒さに強い。
ヨルクやヒナリは『風に乗る』ため、元々温度が気にならない。
何よりこの世界では、人族以外は『変温動物』なのだ。
多少の暑さ寒さを感じて防寒具を着用することはあるが、人族みたいに『着込む』ことはないのだ。
そしてさくらは気付いていなかった。
ヨルクが『結界内でハリセンを受けて座卓に突っ伏している』ことを。
ヨルクも『王城探検中に『呪い』を受けた』ことを知っていたハズだ。
それなのに、さくらに思い出させるようなことを言ったことがハンドくんの逆鱗に触れたのだ。
そのことに気付いていたドリトスとセルヴァンは、その後に起きるであろう『ハンドくんの制裁』にさくらが気付かないようにしていた。
ちなみにヒナリは『そのこと』にまったく気付いていない。
少しでも『さくらのこと』を知りたいヒナリは、ハンドくんが何をしていたのか興味津々だったのだ。
そのため、ヨルクの様子を見ていたのは『さくらと向かい合う』位置に立っていたジタンだけだった。
しかしさくらの後ろに立つセルヴァンに首を横に振られたため『見なかったこと』にした。
「さあ。そろそろ『行ける』かね?」
ドリトスの言葉が聞こえたのか、座卓に伏せていたヨルクは何事もなかったかのように立ち上がって、セルヴァンの後ろへと近付いて来た。
どうやらドリトスの言葉はヨルクに向けた言葉だったようだ。
さくらは楽しそうに足早で部屋から出る。
部屋を出る前に中に残る『留守番組』のハンドくんたちへ向かって「行ってきま~す」と声をかけるのを忘れずに。
「ヨルク。大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねぇよ。・・・けどな。さくらが『あの時』を思い出すかも知れないことを言ったのはオレだからな。『さくらを守る』立場のオレが『さくらをキズつける』ことは、何があっても許されないんだよ」
当時はまだいなかったヨルクだが、セルヴァンたちから話は聞いて知っていた。
それなのに口を滑らせたのはヨルク自身だ。
だから『治癒魔法』を使って回復しないのだ。
この痛みは『バツ』なのだから。
何より、さくらが辛い思いをしなかったことの方が大切だ。
ヨルクたちの会話を、前を歩くセルヴァンとドリトスは耳にしていた。
「ヨルクは『変わった』ようじゃな」
「ええ。『良い方』へ」
小声で会話する2人の前を行くさくらとヒナリが、階段前で振り返って待っている。
「ねぇ!『結界』が張ってないよー?」
さくらが驚きの声を上げる。
結界が張られている時は、階段から下は『白いモヤの膜』で何も見えないのだ。
いま階段の下は普通に見えている。
『白いモヤ』で見えなくなっているのが当たり前になっていたさくらにとって、階段の下が見える方が不思議で仕方がない。
ちなみにさくらに『結界』は効かない。
何か『見えない薄い膜』を通り抜けた感覚があるだけだ。
そして『鍵をかけた扉』も役に立たない。
さくらがドアノブを握っただけで、勝手に鍵が開いてしまうのだ。
もし開かない扉があったとしても、ハンドくんが『中から』開けるだけだが。
「いま、この中にいるのは此処にいる私たちだけです」
ジタンの言葉に驚いたさくらは、しゃがんで階段の下を覗く。
その表情は『好奇心』より『不安』の方が大きいようだ。
ハンドくんとコッソリ抜け出すさくらだったが、それはハンドくんたちだけでなく『親衛隊』たちからも『守られている』ことが分かっているからだ。
そんな様子に気付いたドリトスがさくらを抱き上げる。
「今日の『探検』は此処までにして止めとくかね?」
ドリトスに聞かれて少し考えていたが「みんな一緒だから行く」とドリトスの首に腕を回す。
それでも怖いのだろう。
さくらの身体が小さく震えていた。
ドリトスはそれに気付かないフリをして、ゆっくり階段をおりていく。
階段下のホールに何時もいた『さくらの親衛隊』や、彼らの使っている休憩用のテーブルやイスもなくなっていた。
ドリトスの腕の中で周囲を見回す。
鑑定魔法にも反応がない。
部屋の中で『息を潜めている』気配もない。
本当に自分たち以外『誰もいない』のだ。
11
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる