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第十章

第208話

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抵抗する気力を失った2人は、自殺防止の鉄輪を腕に着けられて警備隊に連行されて行った。
すでに罰が決まっているため、そのまま王都へ護送してゴブリン帝国へと送られる。

「お手間を取らせてしまい、申し訳ございません」

〖 いいえ。来るのは分かっていましたから。
目の前で『格の違い』を見せつけたのですが、彼女たちには理解出来なかったようですね。
こちらに。主人に手を出さなければ問題なかったのです 〗

「ハンドさん。ヒナルクさんは・・・」

〖 それは『秘密』です。
主人を『野獣共のエサ』にするつもりはありませんから 〗

「そうですね」

〖 主人がそろそろ外出したいようなので。
それでは失礼します 〗

そう挨拶したハンドさんは、ポンッと軽い音を立てて姿を消した。
主人のためにかげながら動き、けっして気付かれないようにしている。
しかし、あのヒナルクさんという『少女』も、そのことに気付かないフリをしているようだ。
ユリティアでも、何か騒動が起きても驚いたことは一切ない。
・・・そう。『少女』なのを私とジェシーは気付いている。
2人だけの『内緒話』をしては時々笑うヒナルクさんの姿は、間違いなく『少女のそれ』で・・・
だからこそ、ハンドさんの『愛情の深さ』にも気付いた。
銀板用の最上階が使われることはほとんど無い。
此処が『冒険者ギルド』のため、宿泊するには『冒険者登録している』ことが必須だ。
ハンドさんから〖 部屋を借りたい 〗と言われてうけたまわった。
そして部屋の掃除をしに行こうと思ったら、ハンドさんから〖 鍵を貸して欲しい 〗と言われた。

〖 部屋の掃除をするのも、私たち世話係の仕事です 〗

ハンドさんは仲間がたくさんいて、〖 手分けすれば短時間で終わります 〗と言われて鍵を渡した。
掃除は10分で終わったようで、鍵を返却されました。

〖 鍵を貸してくださりありがとうございました。
それでは後ほど主人たちが参ります 〗

「こちらこそ、ありがとうございました」

〖 事件が起きたとはいえ、お呼びしたのはコチラです。
それに、今まで複数人の職員で行ってきた仕事をおひとりでこなしているのです。
今は、手を抜く。人任せにできることは任せるのも大事です 〗

ハンドさんは優しく誠実なのだ。
依頼で支払った金額が違うことを教えて余剰金を返却してくれただけでなく、『依頼手続き代』のことにも気付いて指摘してくれた。
ユリティアで溜まった依頼書を運んでくれた時も、3組に分けただけでなく、何がいくついるかをリストアップしてくれた。
どこまでも周りに配慮をしてくれるハンドさんの優しさは、ヒナルクさんから受け継がれているのだろう。


「ねえ、ハンドくん。スゥたちは?」

〖 いま、スゥとルーナは寝ています。
シーナは『今日の記録』を書いています 〗

「どうかなあ?
疲れてたから、今日はこのまま部屋から出ないで休んだほうがいいよね」

〖 それでは、お土産買ってきますか? 〗

「そうだね。少なくてもお昼は出なさそうだから。
このまま夕方まで寝ていたら外に出るかも分からないよね。
ついでに明日の朝の分まで買ってこようね」

階段から楽しそうな声が聞こえてきた。
ヒナルクさんが出掛けられるのだろう。
でも、話の内容は残っている3人の少女たちのこと。
疲れて寝ている彼女たちのために、食事を買って帰ろうと言っているのだ。
・・・自分が主人の立場にも関わらず。

「ハンドくん。・・・女怪獣は?」

〖 もう大丈夫ですよ。
悪いことをしたから警備隊に捕まって、今頃は『檻の中』です 〗

「じゃあ、もう安全?」

〖 はい。ですが、注意は必要ですからね 〗

「大丈夫!だってハンドくんが一緒だもん♪」

楽しそうに笑いながら話すヒナルクさんと、彼女の頭を撫でるハンドさん。
横を通る時に思わず「いってらっしゃい」と声を掛けていた。

「行ってきまーす」

〖 あとはお願いします 〗

「はい。お任せください」


・・・なんで、ハンドさんは『人間ではない』のだろう。
人間だったら・・・ううん。
その時はきっと『お相手』はヒナルクさんでしょう。

恋する気持ちを自覚したと同時に・・・失恋も自覚してしまった。
でも信頼して任せてくれた、ギルドここの管理。
私はハンドさんからの信頼を裏切らないように、嫌われないように。
本部から職員が到着するまで、ジェシーと2人、ここを守っていこうと思います。
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