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第五章
第106話
しおりを挟むひと月が過ぎ、マーレンくんの外出禁止令が解かれて、パパさんとママさん、ユーシスくんと共に『お泊まり』に来ました。マーレンくんは最初に謝罪をしましたが、本当に深く反省しているようです。
「帰った日にお父さんたちにお姉ちゃんを怒らせたことを話したんだ。そうしたら、次の朝、マーレンはお父さんから部屋の中でフード付きの上着を着せられてフードも被らせて、脱ぐのを禁止されたんだ。その時は少し汗をかいてたんだけど、昼からは中庭の雪かきをしたんだ。・・・1時間で風邪を引いたんだよ。それでも薬を飲ませなかったから1日中ずっと高熱出しちゃって。それでやっと、「家の中に入ったら脱ぎなさい」ってお姉ちゃんが言ったことの理由が分かって反省したんだ。薬は次の日に飲んだから大丈夫だよ」
「口で言っても分からんようだったからな。エアさんの注意も『怒られるから聞く』としか考えていなかった。だったら『言うことを聞かなかったらどうなるか』を身をもって教えればいい」
「実はね。ユーシスが連れ帰っても、言われるまで上着を脱がなかったんだよ。だから反省させるためにやったんだけど・・・。本当なら1日中ずっと続けるつもりだったのよね」
「せめて、汗を拭いてから外に出せば良かったですね。マーレンくん。汗は『身体の熱を下げる』効果があるんだよ。高熱を出したから、いっぱい汗をかいたでしょう?その分、身体の温度は下がっていったの。ただね。汗をかいたまま外に出れば、汗が身体の熱を奪うの。『裸で雪の中に飛び込んだ』のと一緒よ。雨が降ってずぶ濡れになったまま何もしないでいたらどうなる?」
「・・・風邪をひく」
「はい。あたり。そして、マーレンくんは風邪をひいたね。そうそう。熱を出した時の汗は、さっきも言ったけど『体温を下げるため』なんだけど、顔から上の熱は『脳を守るため』だから。脳の温度が高くなればそのまま死んでしまうし、身体にマヒが残っちゃう場合もあるから、いくら自業自得でも注意して下さいね」
日本で有名だったのが『インフルエンザ脳症』です。『インフルエンザのウイルスが脳に回って』なんて言う人もいますが、1番の原因は高熱で脳に支障が現れるのです。小さい子には下手に解熱剤を投与すればインフルエンザ脳症になる確率も上がってしまいます。
・・・だから、5歳以下の子どもが発症しやすいのです。
「マーレンくん。『ただの風邪』でも簡単に悪化して死ぬからね。だから『してはいけない』と言われたことは絶対に聞かないとダメだよ。止める理由があるから注意される。・・・それが聞けないというなら『私の知らない場所』に行って。そこで止めたことを聞かずに、その結果死んだとしても自業自得だから」
私の突き放すような言葉に、マーレンくんはショックを受けたようです。ですが、パパさんとママさんも同意するように頷いています。
「そうだな。注意されるのは『前例があるから』だ。それが聞けないなら、同じ結果を招いても、そのまま死んでも仕方がない。まあ、他人様に迷惑をかけない死に方をしろ」
「出来れば、恥ずかしい死に方をしないでほしいわね」
両親からも突き放されてしまい、マーレンくんの両目に涙が溢れています。
「マーレン。言うことを聞かなかったらどうなるか。・・・もう分かっただろ?」
ユーシスくんの言葉にコクコクと頷いています。堪えていた涙が、顔が揺れて零れ落ちていきました。
「お姉ちゃん・・・。二度としません。ごめんなさい」
一生懸命、涙を拭いてもう一度頭を下げて謝るマーレンくん。今度は『謝罪する意味』も理解したようです。
食堂の外にアクアとマリンがいます。私たちの会話を聞いていたため、反省したのでしょう。二人も泣いていますが、今は食堂内には私たち5人だけです。キッカさんたちに止められたのでしょう。マーレンくんの謝罪の場に割り込むことはしません。
「お姉ちゃん。此処にいる間、マーレンを食堂で働かせて?配膳でも皿洗いでも。僕も手伝うけど、マーレンにはちゃんと罰を与えないと同じことを繰り返すよ」
「それを許可するのは私じゃないわよ。でも『お店が休みだからお手伝いする』のは良いと思う」
「そうね。何ヶ月も休んでいたら、春にお店を開いたら感覚が掴めなくて大変な思いをするわね」
「俺は此処の料理を教わるついでに厨房を手伝うことになってる」
これからしばらくは食堂も賑やかになりそうです。
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