私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第六章

第141話

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5日ぶりのダンジョンの外。しかし、普段より賑やかなその通りを私は家へと向かう。みんなは涙石の中だ。

「エミリアちゃん、おかえり」

「どうだ。いいもん採って来れたか?」

「ただいま。それが、初日にピピンが大活躍してくれて。情報部が写真撮ってたから、あとで公開されるよ」

涙石に手を触れると、ピピンがポンッと現れ、私の手の上に降りた。

「お、ピピンちゃん。今回も大活躍してたんだって?」

「ええ。リリンと一緒に、仲良く写真撮影を受けたもん。ね~」

私がそういうと、キョロキョロして私を振り向いて斜めに傾いた。ちょうど私たちが小首を傾げるような仕草だ。『リリンは?』と言いたいのだろう。

「リリン。ピピンが呼んでるよ。出ておいで」

涙石に触れて声をかけると、リリンも空中に出て来て左手の上に降りる。右手に乗っているピピンと身体を寄せ合って『会話』をしている。たぶん『一緒に写真撮った話をしているよ』と教えているのだろう。

高さ5センチの、通常のスライムよりはるかに小さいこの子たちは、この都市では魔物ではなくマスコットの立ち位置だ。それでも通常のスライム同様、三階建ての建物一軒でも楽々と飲み込めてしまう。人間を飲み込んだ場合、取り込んだ相手の邪気を吸い取る。そして、吐き出された相手は飲み込まれる前とは別人のように大人しくなる。
そのため、私の周りでは大きなトラブルが起きない。それが広がり、私と顔馴染みのお店でのトラブルも解決するため『守護者』のように崇められて、『アイドル』のように愛されている。

「リリンちゃん。ピピンちゃんと一緒に写真撮ったんだって?」

それに返事するように上下に揺れる。どれだけの人が、この可愛さをステータスで録画しているのだろう。ただし、私が『映像阻害』を使って許可なき記録や撮影をシャットアウトしているため、ピピンたちの記録は失敗している。情報部から出る写真で我慢してもらおう。
ちなみにこの『阻害系』の設定は、私の今の職業テイマーの特性だ。連れ歩いている魔物を撮影されて、それを見て聖魔師テイマーを殺して魔物を奪おうとする者や、金を積んで手に入れようとする者。権力で奪おうとする貴族。そんな連中から、大切な魔物を守るためだ。ただし『聖魔士』にその機能は付いていない。彼らは『心を通わせて助けてもらう』だけで『連れ歩ける魔物がいない』からだ。そのため『飼い慣らす者テイマー』と呼ばれない。

「ダンジョンでは、リリンもいっぱいお手伝いしてくれたんだよね」

「じゃあ疲れただろ。ほら『厚焼き玉子サンド』だ。他にも色んなサンドが入ってる。上の小さい奴は妖精たちの分だ」

「ありがとう」

ピピンが横から両腕のように触手を伸ばして受け取ってくれて、私の指先にチョンッと当ててくれる。こんな場所で『収納』を使ったら、周辺店舗の商品すべてを収納してしまう。そのため、このような場所で収納する時は物に触れる必要がある。ピピンはそれを理解しているのだ。

「ありがとう、ピピン。『収納』」

わざと声を出して収納する。手に触れているからと言って、ピピンやリリンが『収納』されることはない。『生きているから』だ。収納に『生物ナマモノ』は入るが『生物せいぶつ』は入らない。

「ホントに賢い子たちだねえ」

「私に似たんです」

「その点は、まあ・・・『いい子』なのは確かだけどな」

「そこ!口籠もるな!」

私が指摘すると周りから笑いが漏れる。

「カワイイよな」

「ウンウン」

「微笑ましいよねぇ」

「そうそう」

「いつもでていたいな」

「でっしょー?」

「ピピンちゃん!」
「リリンちゃん!」

「そっちかー!」

この流れは『いつも』だ。そして「ちょっと。私はー?!」と言うと「エミリアちゃんもカワイイ。カワイイ」と言って、一番近くにいる人から頭を撫でられる。

私たちの存在がこの都市に受け入れられ、『都市シティに住む仲間』として認められたあかしだ。此処に住むみんなは、少しでも大きくでも自分と違うところがあっても『個性』として認めてくれる。白虎の存在も『この世で珍しい個体』として見てるだけで、「白くてフワフワで雪みたいだけど。雪と違って優しい暖かさだわ」と抱きつかれたくらいだ。

白虎は私と出会い契約するまでは、追い回され生命を狙われて来た。契約後は捕獲や危害が加えられなくなって、追われる日々から解放された。だから、白虎は『人嫌い』で『魔物嫌い』だ。『魔物嫌い』は魔物討伐にちょうどいい。だけど『人嫌い』は、私と一緒にいるなら少しでも慣れてもらうしかない。
白虎を受け入れてくれた此処なら、時間がかかるかもしれないが白虎も人々を受け入れてくれるのではと期待している。





家に近付くと、珍しく男たちに絡まれてしまった。

「あ、キミがエミリアだよね!」

「キミのことは色んな人に聞いていたんだ」

「ねえ。キミ可愛いよねえ。僕と一緒に冒険しない?」

「いや、俺と」

「おい。割り込むなよ!」

「こんな奴らより俺と一緒になれば、今よりいい暮らしさせてあげられるよ。だからさあ俺と一緒に・・・」

「俺の方がコイツらより強い・・・」

「「「 ぎゃあぁぁぁぁ!!! 」」」

現れた風の妖精が、男たちを『旋風つむじかぜ』で宙へと巻き上げた。1秒に2周回っているかなー。洗濯機より乾燥機状態です。悲鳴が消えたので目が回ったか失神したのでしょう。旋風はそのまま離れて行きました。

《 もう!なんなのよアイツら! 》

「さあ?」

《 『さあ?』じゃないでしょ!また狙われたのよ! 》

「でも、みんなが守ってくれるんでしょ?」

《 それはそうだけど・・・ 》

「頼りにしてるよ。それより。あの連中、何処へ飛ばしたの?」

《 冒険者ギルドよ。だってあの連中って冒険者よ。ちゃんと取り締まって貰わなきゃ! 》

私の前に『仁王立ち』している風の妖精の頭を撫でて「ありがとう」とお礼を言うと《 ボンヤリして危機感のないエミリアのことは私たちが守ってあげるから心配しないで大丈夫よ 》と言ってくれる。

《 で?あの連中はどうする? 》

「大丈夫よ」

《 分かった。じゃあ一度戻るね 》

「うん。ありがとう」

私の左頬にキスをして、風の妖精は涙石に戻って行った。
『あの連中』とは『鉄壁の防衛ディフェンス』の人たちだ。ダンジョンを出て情報部の取材を受けていた時からずっと、私を遠くから見ている。『認識阻害』が効いているため『エアわたしだ』と言い切れないのだろう。

「エ、ア・・・さん・・・」

その呟きが聞こえたのは偶然だ。周りが妖精を『光』でしか認識できないからお互いに見えたか、小声で確認し合っていたからだろう。もちろん私たちの会話、というか風の妖精の声は聞こえていない。
だから、声がした方に顔を向けた。そこにいたのは、ユージンさんとネージュさん。そしてキッカさんだ。
でも、私は不思議そうに3人を見てから言った。

「・・・・・・だれ?」と。




「エミリア!」

「お帰り!エミリア」

「ただいまー。変な連中に絡まれたんだけど、風の妖精が冒険者ギルドに飛ばしたよ」

「あー・・・。もしかして、妖精って」

「もしかしなくても、怒ってた」

 「スマン。アイツら最近都市シティに入って来たんだけどエミリア目的で。見つけると追い払っておいたのに」

「連中、冒険者だって?風の妖精が『ちゃんと取り締まって貰わなきゃ!』って怒ってたよ」

どうやら、私が留守の間に何度も家に来ていたようだ。私服守備隊のみんなは追い払ってくれていたそうです。タイミング悪く、家に向かおうとしていた連中と時間が被ってしまったようですね。

「他にも色々と気になる連中がいるからな。結界は忘れるなよ」

「今日はもうゴロゴロしてるだけだから。あ!それと、さっきピピンとリリンを撮ってる連中がいたんだけど」

「失敗してるだろうな」

「たぶんね。だから、また何か言われるかもしれない」

盗撮しておいて、「写っていなかった!」と守備隊や警備隊へ苦情をいう連中がいる。中には開店中の店に「撮影させろ!」と乗り込んでくる。ただし、妖精たちの反撃を食らって地獄を見ることになるが・・・。
一度、店内にまで襲ってきた連中を地の妖精が店の外で逆さ吊りにして、下から火の妖精が火をつけて火炙りにした。・・・長めの髪がチリチリと焼けたのは自業自得だ。逆に『髪が半分焼けただけで済んだ』ことを喜ぶべきだろう。
それ以降、私を直接襲ってくる連中は数を減らした。その代わり、守備隊や警備隊に苦情を訴えるようになった。

「なんで守備隊や警備隊に苦情が?」

「ああ。ただ単に守備隊には『都市全体にステータス機能の制限がされているのか』と。警備隊には『ステータス機能の妨害をしている者がいるから取り締まれ』です」

そして口々に言うのが「悪いと思っているなら」です。その後に続く言葉は、その時々によって違います。

聖魔まものを寄越せ」

「妖精を寄越せ」

「非公開レシピを寄越せ」

「金を寄越せ」

「権利を寄越せ」

「俺の配下にくだれ」

「俺のオンナになれ」

全部却下です。元々「悪いなんて微塵みじんも思っていない」のですから。


「エミリアが聖魔師テイマーだってこと知らん奴がいるのか?」

「そりゃあ、いるでしょう?中には『聖魔士』と間違えてるとか?」

聖魔師テイマーの特殊スキルに阻害系があることを知らないって可能性もありますね」

「守備隊に周知させて警戒をさせておきます」

「お願いします。もし私に向かってケンカを売られたら・・・」

そこまで言えば、私たちの周りで話を聞いた誰もが理解した。


『妖精たちがブチ切れる』と。
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