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第六章

第179話

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数回にわけてお店を開けたために、作り置きしていたハーバリウムや石鹸がなくなっていた。そのため、妖精たちが冒険者たちと楽しく遊んでいる間、私はテントの中に引きこもって作っていた。完成した商品は、代行販売用にポンタくんに送ったため、私が店を開けるだけの量は残していない。ポンタくんの方でも人気があるそうで、売り切れになっている商品が多いそうだ。

「あ! そうだ、ポンタくん。なんかね、私の品物を取り扱わせてくれって言ってくるギルドや商人がいるんだよ。全部断ったけど、しつこく手紙を送ってくるの」

私はポンタくん以外と取引できるほど商品を作っていない。それも納期を決められたりするのはイヤだ。私は専業の職人ではなく兼業なのだから。それも冒険者がメインで職人は副業だ。

「エミリアさんはどうしたいですか?」
「……ヤだ。一度も付き合いがない相手に代行販売を任せられない。だって、会ったことも話したこともない相手を信用なんかできないもん」
「わかりました。一度断ったらそれ以上は相手にしなくて大丈夫です。届いた手紙はこちらに送ってもらえますか? あとの対応はこちらで行います」
「お願いしても大丈夫ですか?」
「ええ。エミリアさんはこちらの所属なので。二度とエミリアさんに迷惑をかけないように忠告しておきます。それでも繰り返すようなら……」
《 私たちがやっつける‼︎ 》
《 そうそう。エミリアをイジメる悪いヤツは、僕たちがやっつけてあげるよ 》
「皆さん。エミリアさんを守るためなのはわかりますが、には注意してください。エミリアさんに迷惑がかかってしまいますよ」
《 ……そうだね。エミリアを巻き込むのは得策ではない 》
《 うん。エミリアがイジメられるの、見たくないもんね 》

ポンタくんの注意に素直に従っているようだが……

「皆さん、『仕返しできないように叩き潰そう』というのもやめて下さい。こちらでも交渉で話を優位に持っていくつもりです。交渉決裂になってから、相手を潰すなり消すなりしてもらって構いません」
《 その時は教えて。それまでは脅す程度で我慢しているから 》
「はい。その時はエミリアさんに連絡します。それまでは、皆さんも突っつく程度でお願いしますね」
《 うん、わかった 》
《 エミリアのためだもんね 》

妖精たちと関わったことがあるポンタくんは、妖精たちの性格も扱い方も慣れているようだ。

「エミリアさん。これからも、手紙が届いたらこちらに下さい。エミリアさんがうちの所属だと知らない場合もあります。こちらが動けば、たとえ知らなくても理解するでしょう。それに商人や職人を守るためにギルドが動くのは当たり前です。当事者同士で話をしないでギルドを通すのも、保護を目的とするギルドでは当然です」
《 そうそう。エミリアは相手にしなくていいよ。僕たちがに吹き飛ばすから 》

十分心配だったけど、妖精たちはポンタくんの忠告を聞いてイタズラをするだけだったため、大きな騒動は起きなかった。ダンジョン都市シティの商人ギルドも職人ギルドも、「エミリアさんは別の都市のギルド所属です」と言っただけでトラブルは起きなかったそうだ。
そして、ポンタくんから「すべて終わりましたよ」と連絡を受けた頃には、妖精のみんなもイタズラ三昧で満足したのか文句を言うこともなかった。
ちなみに「どことも代行販売契約しないで済むように取り計らいました」とのこと。詳しい話は教えてもらえなかったけど、ギルドに関しては二度と私に迷惑がかかることはないそうだ。

「ただ、商人や職人個人に関してはわかりません。ギルドから『手を出すな』と言われても言うことを聞かない者はいくらでもいますから」
《 大丈夫! 》
《 その時は、私たちがやっつけるから 》
「その場合、エミリアさんに迷惑をかけないことと、ギルドの規則を破ったことで罰を受けたとわかるようにしてくださいね」
《 わかった! 》
「ちょっと、ポンタくん……」
「大丈夫です。エミリアさんが妖精たちに愛された存在だと伝えてあります。その上で『約束を破れば妖精の罰を受けます。それも、本人や家族だけでなくギルドに所属している者、その場合は職員も含まれますが、全員が受けます。下手したら国自体が滅びます』と伝えおどしました」
《 ヤッター! 》
《 エミリアに手を出してきたら、徹底的にやっつけてやるんだから 》

ポンタくんの言葉に妖精たちが諸手もろてを上げて喜ぶ。そんな妖精たちにポンタくんは釘を刺すのを忘れない。

「皆さん、『徹底的にやっつける』のは最終手段です。最初は忠告程度にしてください」
《 はーい‼︎ 》

ポンタくんに全員が声を揃えて返事をする。

「あら、いいお返事」
ガウッ

私の言葉に白虎が同意するように鳴くと、ピピンとリリンが上下に揺れた。

「そういえば、エミリアさん。各国のギルドに忠告をしたところ、『妖精の罰』に過剰な反応を示していましたが何かありましたか?」

ポンタくんの言葉に心当たりがひとつ。

「実はね……」

そう前置きをしてから、妖精たちが大陸を渡った先の国の町や王都を砂に変えてきたことを説明した。

「そうですか。犯罪ギルドが壊滅して、残党が残っていると聞いていましたが……」
「ダンジョン都市シティの中は大丈夫。城門には『犯罪者お断り』がつけられているから。ここの家には『貴族お断り』もついているし、玄関にカギをかければ結界が張られるよ。それに妖精たちに聖魔たちもいる。ここの人たちも大半は元冒険者だから、そんじょそこいらの人たちより強いよ」
《 そうそう。ここの連中って打たれ強いから、普通なら大きなケガになることをしてもケロッとしてるよ 》
「……何やってるのよ」
《 なにって……。冒険者たちがをしたら、冒険者ギルドの職員全員の頭をはたいたり 》
《 書類で頭を叩いたり 》
《 座ろうとした時にイスを移動させたり 》
《 眠りそうの粉を撒いてきたり 》
……子供のイタズラのようだ。
《 商人は商人ギルドの責任で、職人は職人ギルドが責任を持つべき 》
《 貴族は放置した国王の責任、だよね~ 》
《 ねー 》
《 だから王都を潰してきたんだもん、ねー 》
《 ねぇー 》

自分たちの行動が正しいと思っている妖精に呆れてため息を吐く。同時にピピンがバチンッと床を触手で叩いた。慌てた六人がピピンから離れた場所に集まると、妖精たちの上からツタでできた網が落ちてきて妖精たちを一網打尽にした。それを白虎が咥えて、ピピンが教育的指導をするために貸している部屋に連れ出していく。妖精たちは口々に騒いだり謝ったりしていたけど、ピピンは許す気がないようで、私から涙石のペンダントを預かり、白虎の背に乗って一緒にテントから出て行った。聖魔たちと違い、妖精たちは私が涙石を持っていなければテントに入れない。ピピンはそれを知っているため、持って出て行ったのだ。

「あの網、リリンが作ったの?」

そう聞くと、肯定するように上下に揺れた。

「そう。上手に作れたね」

そう言って頭を撫でると、プルプルと嬉しそうに小刻みに左右に揺れた。

「エミリアさん?」

騒ぎが聞こえても何が起きているかわからないポンタくんの声がした。そんなポンタくんに、状況を説明すると「ガハハハ」と豪快に笑われた。

「妖精を『神の遣い』といわれている国もあるのですが、その妖精たちに教育的指導しつけができる存在がいるんですね」
「妖精たちは、ピピンとリリンの方が私と契約したのが早いから先輩としてみてるんだ。だから、先輩リリンが作ったツタの網を、風の妖精が切り刻んだり地の妖精が妖力チカラを解除して脱出することはしない。そんなことしたら、ピピンのいかりを買って、何日もテントに戻れなくなるよ」

そう。最初の頃、リリンにイタズラをした妖精たちはピピンの怒りを買い、ピピンとリリン用に貸したテントの部屋に閉じ込められた。ちょうど十日間、しっかりキッチリと閉じ込められていた妖精たちは、部屋から出ると泣きながらリリンに謝罪した。優しいリリンはみんなを許し、触手で頭を撫でてあげていた。

「エミリアさん。ピピンさんたちは『魔人』や『獣人』には進化しないのですか? それだけ知識が高いのですから、十分進化基準を満たしていると思いますが」
「うーん。……ピピン自身が「まだ人のことを詳しく知らないから」って言うし、リリンは「ピピンが一緒じゃなきゃイヤ」って。白虎は「戦う時は剣歯虎サーベルタイガーの方がいい」んだって。それに三人とも『みんな一緒に』って思ってるみたい」

私の言葉に、テーブルに乗っているリリンが上下に揺れ、一人だけテントに戻ってきた白虎もガウッと返事をする。

「それに、人間の姿になるのは起きている間だけだよ。寝る時は元の姿に戻って、みんな一緒に寝るから。バカな連中がいなくならないと、進化しても絡まれるだけだよ」
「そうですね。まずは環境整備からですね」
「妖精たちは、そのつもりでやってるみたい。ちょっと過激な方法を取ってるけど……」
「それを知っているから、ピピンさんは妖精たちを厳しく指導しているんですね」

ポンタくんのどこか納得したような声に、思わず頬が緩んだ。
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