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第七章
第195話
しおりを挟む「エミリアちゃん。呪いを宿した魔石をどう使ってるの? このリングには盗聴用の魔石しかついていないわよ」
「リングを作る時に使うんです。錬金窯に呪いの魔石と鋳造された鉱石を入れます。そうすれば、呪いがついたリングができます。これは抽出が不完全か、抽出作業自体をしていない粗悪品です。そんなリングに容量過多の魔石を加えたのです」
「器が小さければどんなに注いでもあふれる……ということですね」
「はい。粗悪品だから、ヒビが入っていたり小さな穴が開いている可能性もあります」
キッカさんの言葉に頷くと、エリーさんが青ざめた。
「……私は知らずに呪いを振り撒いていたの、か」
「エリー、それは発動前の物だ。それに……俺たちには効かない」
「そう。少しでも異変があれば、この都市では一瞬で壊れる。さっき、結界が強化されたと同時に砕けたように。そうよね、ダイバ」
「ああ。このダンジョン都市では……たぶん」
ミリィさんの言葉にダイバは言葉を濁す。それは仕方がないだろう。アウミの一件で問題が表面化した『魔導具起動停止』機能のトラブルがまだ解決していないからだ。
「このリングは壊れるギリギリで持ち堪えていました。そんな状態のリングでは通常の水の魔石を一回でも起動させたと同時に破裂するか魔法が暴発します。そんなリングで……呪いが発動したら?」
そうなっても、実際の被害はアクセサリーが砕ける程度で済む。問題は『呪いをかけた側』だ。呪いは跳ね返れば何倍にも膨れ上がる。……対策を講じていなければ確実に即死だ。
「でも、発動前に壊れた場合は術者の生命は奪われません。ただし、かけた呪いの何割かはその身に返っています。今回は『即死』でしたから、数日後には生命を落とすでしょう。その術者が死ねば、術者が関わった装備品は同時に壊れます」
《 エミリア。呪いの反射を確認した。外周の宿だよ 》
「呪いの状態は?」
《 一人は即死。もう一人も長くないよ 》
「証拠か証言は?」
《 大丈夫。証言は魔石に残したし、証拠も集まった 》
「持ってこれる?」
《 エミリアには渡さないし見せない。呪いがどうエミリアに影響するかわからないから。でも、ダイバにあとで渡すよ 》
「わかった。ありがとう」
大きく息を吐き、隣のダイバをはじめ全員の顔を見渡す。
「犯人たちが外周の宿にいた」
「ここの、か?」
「そう。呪いの発動を成功させるには近い方がいい。でも、この都市には入れない。となれば?」
「犯罪者でも滞在可能な外周に、ということか」
「でも、まってください。宿は閉ざされているはずですよね」
「宿の経営者が協力者だったら?」
そう言うとキッカさんは納得したようだ。
「エミリアちゃん。ずっとダイバと一緒に調査をしていたのか?」
証拠の山を一つ一つ確認していたコルデさんが、最後の証拠をローテーブルに戻すと私に目を向けてきた。
「一緒というか、情報共有?」
「そうだな。聖魔師という立場がトラブルを引き寄せ、その対応を隊長の俺がする。それで店にくる口実になる。まあ、アゴールも一緒だが……そこは妖精たちがうまく対応してくれたから」
「『アゴールには知られずに』。それがダイバの望みだったから」
そう。私の店に来るときは、ダイバだけでなくアゴールも一緒だ。そして、アゴールは何も聞かされず、何も知らされず。だからこそ『安全な場所』にいられる。そして、それは都合の良い目隠しにもなる。
報告書を書きあげるのはアゴールだ。その記録に一切の不備はない。トラブルの被害者である私に確認や状況経過を伝えるのはアゴールの役目だ。ダイバでは話が脱線するからだ。
アゴールに説明を任せたダイバは、後ろの商品棚にもたれて話を聞いている風を装って、妖精たちが棚に載せた私からの報告書を読んでいる。何かあれば妖精が隠すため、アゴールには一度も気付かれていない。
「ダイバ。妖精たちが術者の証言を魔石に残してくれた。ついでに証拠も集まったみたい。ただ、私には何かしらの影響があるらしくて、渡せないし見せることもできないって。どこで渡してもらう?」
「……そうだなあ」
アゴールに影響を与えず、且つ、誰にも気付かれずに受け取れる場所……
「「アゴールのいない執務室」」
私とダイバの声が重なった。
「コルデ。そんな呪い関係の物をダイバに近付けて大丈夫なの⁉︎」
「え……? エリーさん、知らないの?」
「ああ。アルマン以外には話してないな」
私の驚きの声に、コルデさんは「忘れてた」と笑う。
「エミリアさん、ご存知なんですか?」
キッカさんの言葉に頷いたが、コルデさんが話していないことを私から話すのは違うだろう。それに気付いたダイバがコルデさんに目で確認し、頷いて了承を得てから口を開いた。
「俺たちの先祖は竜だ」
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