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第七章
第237話
しおりを挟む光魔法で自分の周りに『光の結界』を張った。『消える貯金箱』を知っているだろうか。あのように、鏡による光の屈折で、中にいる私の姿を見えなくしているのだ。その状態で、王城には簡単に入ることができた。というより、誰もいないんだけど……。もしかして、全員で檻を見にいったのだろうか? そうだとしても物騒な話だ。
どの部屋にも鍵はかかっていない。オープンなのだ。……え? 違う? 慌てて避難したから閉めている余裕がなかったのだろうって? そうだね、だから私みたいな見学者が簡単に入ることができるんだろう。
……そういえば、妖精たちに繰り返し崩されたから建て直ししている最中だっけ。だからといって、武器庫や宝物庫にまで警備の兵士がいないってどういうこと?
王城のすべての部屋を見て回ったが、人っ子一人、姿を見せなかった。
王城の隣、パーティ会場となるのだろう、別棟の広い建物に足を踏み入れた。広いホールだけのように見えた壁の一角から、ひんやりとした風が流れてきた。風に誘われるように近付くと、隠し部屋を見つけて地下へ降りる階段を発見した。階段は頑丈な石造りになっている。
王城に入る直前から、私は痕跡を残さないため『飛翔』で浮いている。そのまま、ひんやりとする地下へと降りていった。
暗魔法の『暗視』で、真っ暗闇の中でも明るく見える。通路を進むと、大きく広い石造りの部屋に到着した。扉が開いたままになっていて、中には五十人近い貴族たちがいた。ここが避難所なんだろう。ただ、避難してきたにしては貴重品などを持っていない。逆に外の惨状を知りたくないから、現実逃避をしているのだろうか。
……ここにいる男女は、楽しそうに立食パーティをしている最中だった。
賑やかな生演奏に談笑。ダンスフロアで踊る若い男女。そんな彼らと周囲に注意して部屋を移動する。
隣の控え室に入ると、今度は様々なタイプのお仕着せを着て雑談をしている連中がいた。……雑談というより、自分たちの主人に対する愚痴や悪口を言いまくって鬱憤ばらしをしている。地下だからか換気が悪く、人熱が酷い。それにプラスして、料理の匂いと臭い。美味しそうな匂いと油っぽい臭いが混在しているのだ。
これは早く抜け出した方がよさそうだ。
私が王城に中へ入ったのは、聖魔士や魔物に関する書物を探すためだ。
『神獣にどうやって隷属のシルシをつけることができたのか』
それを知り、二度とそのようなことが繰り返されないようにするためだ。すでにこの王都内の地上にあったすべてのものは『収納』済みだ。完全なる更地にするため。
『汚れし地を浄化する』
それが今回私が王都へ来た本当の目的。
……王都に来てわかった。何故こんなに大地が荒れているのかを。妖精たちは『妖精の罰』として、繰り返し大地を浄化していた。しかし、チマチマと浄化していてはイタチゴッコでしかない。
「一度すべて片付けて掃除しなくっちゃ」
王都内にあるものすべてを回収して、大地を浄化する。それと時を同じくして、国王たちが持つ負のエネルギーをピピンとリリンに浄化してもらう。
その呼びつける理由として『聖魔士くずれの実状を見せる』ことになったのだ。
「連行するのは王族と貴族……だけでいい?」
「王城や貴族の家で働いているのも、貴族の血を引いていますね」
「じゃあ、一人残らず連れてきた方がいいか」
「とりあえず、上に立つ全員の考えを変えることで今後の展開が良くも悪くもなります。小さな子供も悪い親を手本にして、悪いことは正しいことだと身につけているでしょう」
シーズルが遅れたことで加わらなかった話し合いは、最終的にそう決定していた。
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