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第九章

第465話

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「横領じゃないって点で笑えるけどな」
「すみません」

シーズルの言葉にヘインジルはシュンと小さくなった。
妖精たちが提出した書類の中に、《 ちゃんと許可をもらって借りてきた 》という発注書が含まれている。もちろん、自分たちの報告書とは別の綴りになっている。会計課の職員が計算したところ……

「現時点で約二千三百万ジル。これはダンジョン都市シティ全体の事業だ。もちろん国外との取り引きだから商人ギルドに発注するが、代金は環境管理部に請求しろ。この前の分は追加で出せ」
「商人ギルドの長だから、自分で発注したんだろうけど。『都長から商人ギルドへの発注』という作業ワンクッションが抜けたんだな」
「今度から、環境管理部から発注。発注書は環境管理部会計課長・経理部の許可印後に都長へ回せ。それから商人ギルドへ回すんだ」

次期都長シーズルが指示をだすと、事務官がサササッと原案を作って会計課の職員に書類を回す。途中で書き足されたりして、職員の手に渡った頃には発注書が大筋で出来上がっていた。それにペンで発注書の最終原案を作って事務官に戻していく。それを確認するとシーズルに手渡した。
その間にもシーズルはあちこちに指示をだしていった。

「環境管理部会計課は、今までの分をまとめて経理部に提出するときに説明を頼めるか?」
「そっちには、妖精たちが発注書を持ってきてくれたときに、納入された植樹の種苗と数をチェックするときに説明してある」
「……迷惑かけてすまない」

このとき、ヘインジルは頭を下げた。その結果、彼は地獄を見ることとなった。

机に額と胸をのせた状態で、顔をあげられないヘインジルの姿に誰もが苦笑する。その理由は簡単だ。頭と背中の上で、妖精たちが歌い踊っているからだ。

《 私たちの~ 》
《 おうちを~ 》
《 作らせてくれないって言った~ 》
《 バカはどこだ~ 》
《 こ・こ・だ~! 》

輪になって踊る妖精たちが、フミフミとヘインジルの頭の上でスキップを踏み続ける。

《 私たちは~ 》
《 助けてあげたのに~ 》
《 手伝ってあげたのに~ 》
《 恩を仇で返した~ 》
《 不届き者は~ 》
《 どこのどいつだ~? 》
《 ここの~ 》
《 ヘインジルだあああああ! 》
「うわあああああ!!! すみません! すみません!」

両耳に寄った妖精たちに低~く名を叫ばれて、ヘインジルはすでに恐慌に陥っている。
しかし、妖精たちの気持ちもよくわかる。いっていることも正しい。そして、被害を受けているのはヘインジルのみ。よって、自業自得として放っておくことにした。

《 わ~た~し~た~ち~の~ 》
《 い~え~を~ 》
《 建~て~さ~せ~ろ~ 》
「はいぃぃぃ!!!」

どうやら採決の結果、全会一致で『妖精の庭建設計画書』が可決されて認可を受けたにも関わらず、ヘインジルが採決を無効として認可を取り下げようとしたことで、妖精たちの逆鱗に触れたようだ。

「すでに土地は購入しただろ?」
「それでも妖精たちにしてみたら『計画の邪魔をした』こと自体が許せないんだよ。ヘインジルは子供が生まれるときに外での出産だったから、妖精たちに助けてもらったでしょ。協力しろとはいわないけどさ、決定を覆そうとしたのは許せなかったんだよ。それも都長という権力を使ってさ」

ヘインジルはいくつかの確認と条件をつけようとした。それが反対理由だった。しかし、それは悪手だった。反対ではなく確認をすればよかったのだ。
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