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最終章
第706話
しおりを挟む彼が私のところへ来たのには理由がある。
「エミリアをみててくれ。アレが来てから不安定になっている」
そうダイバに頼まれたからだ。アレとはもちろん『生きる屍』のことである。連絡をもらった彼がきたときは一番精神的にまいってて、私は接客をするミリィさんの服の後ろを掴んでついて回っていた。ミリィさんは少しでも手があけば私を抱きしめ続けてくれた。
「エミリアさん」
彼に手を伸ばされてもミリィさんにしがみ続けていたら嫉妬されたけど。
「だって、……ミリィさんから手を離したらアレが『がうー』って襲ってきて」
「大丈夫ですよ。これからは俺が一緒にいますから」
「……別の意味で襲いそうだけどな」
ルーバーのセリフに、私を抱きしめたまま澄ました表情の彼が右足を繰り出して蹴り飛ばし、ミリィさんの靴の先端がルーバーのお尻に食い込んだ。
「頭からガジガジ……」
「させませんよ」
彼が来てから、今度は彼にくっつき虫。自分の店の2階にテントを出して、屋台村を回ったりするくらいで、あとはただただ一緒に時間を潰すだけ。ルーバーはあんなこと言ったけど、私たちは一緒のベッドで寝ねているけどルーバーの思っているような関係にはなっていない。
…………私は、まだ、復讐を、終えていない。
私がまず一歩、前に進むには……どんな形であれ、過去と決別をしなくてはならない。それは、私の周りにいる全員が分かっていて…………口を出さないでくれている。それも、もうすぐ終わりを迎える。
その結果の先で私が屍をさらそうとも、その顔は「やりきった」と納得した表情をしているだろう。
神を相手にするのだ、生きて帰りたいけど……そんなに簡単なことではないことも分かっているつもりだ。
ダイバはコルデさんたちと一緒に廃国に泊まり込んで、レイモンドから引き出した情報を精査していた。レイモンドが現れた理由、それは潜んでいた洞窟の奥に隠し扉を見つけて入ったかららしい。
「転移の魔法陣が一部崩れていた可能性があるわね」
「古いダンジョンだったの?」
「そうね。聞いた位置から想像すると、すでに記録からも消えたダンジョンだと思うわ」
ミリィさんがいうには、古いダンジョンの中には、ときどき魔法陣の一部が劣化していることがあるらしい。使われず、放置された建物が崩れるように。
それでも使用前に魔力を流せば元の魔法陣に回復するらしい。しかし、レイモンドは不死人になったときに魔力を封じられて使えなかった。
「魔力が使えないから壊れたまま起動して、そのまま吹き飛ばされたということか」
彼の言葉にミリィさんが頷く。
ミリィさんの話では、旧シメオン国の滅亡と現シメオン国の誕生。その紛争は何年も続き、戦う術をもたなかった農村が巻き込まれて旧シメオン国とともに滅んだ。
「当時は国境が曖昧だったのよ。一応、谷や川で区切られていたらしいけど。今より人も少なくて、名もなき集落は点在してて。紛争で雷魔法が広範囲で放たれた結果、国境を越えた村が魔法の被害にあったりしてね。風魔法を放ったら障害物がなかったせいで、何十キロも先まで飛んでいって被害が出た。なんて記録もあるのよ」
最長が30キロだったと聞いている。いまみたいに町や村は多くなかったことで、先のさらに先まで攻撃が届いていたそうだ。
現在、町を取り囲む外壁が城のように頑丈にできているのはそのためだ。どこでも最低10メートルの厚さがあり、当然のように魔法障壁も組まれている。そして開戦に素早く対処できるように、城壁内は兵舎となっている。
この世界の戦争が『魔法戦争』なのも、新旧のシメオン国で続いた戦いが原因だ。ムルコルスタ大陸は魔導研究所の爆発事故で、魔素が溜まってしまった。そのせいで、小さな魔法でさえ大きな被害になる。ダンジョン内で、私が使った静電気の魔法が強力な効果を発揮したのも、魔素が溜まっていた結果だ。小さな魔法でさえ、溜まった魔素で強大化された。
魔導研究所の爆発事故後に起きたシメオン国の内紛で、遠くから放った攻撃魔法が相手国の王都まで届くことが分かった。それは武器を手に戦う危険を大きく回避できる。
ただし、魔法は大きな被害と甚大な損害と……取り返しのきかない悲劇を生みだす結果を齎した。
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